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2017年8月7日月曜日

Vibrolux Reverb 点検とメインテナンス (2013年アウトレット販売アンプ)

大津市在住の Bさまご所有の Vibrolux Reverbです。
4年前に ギャンプスのアウトレット販売でご購入いただいたアンプです。

あるとき長時間パワーオンしていたら音が途切れる症状が一度出た」「以後再発はしていないものの、心配なので見てほしい」というご要望です。

当アンプを購入なさり4年の間、パワーチューブの交換はなさっていないとのことです。

消耗品ともいうべきパワー・チューブが劣化したのではないか
というのが、お客様から、お話をうかがっての私の第一印象。
しかし、安易に結論付けずに、最新の注意を払い点検とメンテナンスを行いました。

過去にギャンプスが一度オーバーホールをしたハンドワイアードのアンプは以下で述べる作業1.から4.までは無料です。作業5.パワーチューブ交換のみ有料です。
(ギャンプスのオーバーホールがされていないアンプや基板アンプはこうはいきませんので悪しからずご了承ください)

まずは再現を試みます。
再現しない場合、お客様の経験された症状を引き起こす可能性のある部位を中心に総点検していきます。

【再現テスト】
「長時間パワーオンしていたときに音途切れが出た」というお話に基づき約1時間パワーオンし、お客さま立ち合いのもとで演奏してみましたが、再現しませんでした。
お客さまがお帰りになった後も日を替えて何度もトライするも再現しません。

音途切れの原因となりそうな部分はもとより、その他の部分も含めたアンプの総合チェックを実施することにしました。
故障再現テスト
【1. スピーカーケーブルのジャンクション部のハンダチェック】無料サービス
当アンプのスピーカーケーブルはAIW 製 WE復刻版を使い配線しております。
配線方式はブラックフェースと同じ方法で、小さめの回路ボードを中継点とし、中継点から2個のスピーカーに均等に並列接続配線しています。
この部分のハンダ付けをチェックしましたが、問題なし。増しハンダをしておきます。
スピーカーケーブルの中継点

増しハンダ


【2.フィルターキャップのチェック 】無料サービス
フィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー群) のチェックをしました。
液漏れもなく、デカップリング抵抗も問題ありません。
当アンプのフィルターキャップ


デカップリング抵抗の計測、問題なし
【3.カーボンコンポジット抵抗の点検】無料サービス
Fender アンプに使われるカーボンコンポジット抵抗は音質が良いものの、経年変化で少しずつ抵抗値が大きくなるという特性があります。
特に高い電圧のかかるプレート抵抗の部分はその傾向があります。
全てのプレート抵抗を検査しました。
100KΩ抵抗の値が17%高めになっている部分が一か所見つかりました。
これが原因ではないものの予防交換しておきます。
117.6KΩのプレート抵抗

交換後
【4. 真空管のピンのクリーニング】無料サービス
4年間一度も真空管交換していないのであれば真空管とソケットの接合部のクリーニングはかかせません。
プリ管の接続端子
プリ管x6 、パワー管x2、整流管x1 計9本の真空管全ての端子を以下のようにクリーニングしました。
アルコールを染ませた綿棒で一本ずつクリーニング
9個のソケットもクリーニング。
ソケットのクリーニング
ソケットのシャーシー側もアルコールを使いクリーニング
ソケットのシャーシー側もクリーニング
パワー管の足をチェックしてみると
6L6GC をソケットから抜いたところ
片方の 6L6GC の黒いプラスチックのベースに付いているはずの筒( Keyway )が取れています。
これは真空管をソケットに差す向きを定める目的とガラス管の先端を保護する目的をかねています。
経年変化が進んでくると、真空管は電流をたくさん流すようになり、最後には壊れます。
壊れる前兆としては真空管の温度が次第に高くなってきます。
そして電源を上げたときの真空管の温度がいぜんに比べて高くなってくると、この部分は折れやすくなります。つまり6L6GC の寿命が近くなっているということです。

今回の問題である「音途切れ」の原因はこの 6L6GC の劣化であると推測します。
Keyway の折れた6L6GC ( 左 )
このアンプは日本向けの電源トランスを使っており、真空管には472V の電圧がかかります。
プレート電圧は 472V
一方で真空管ソケットはオリジナルのままです。

今回の問題は真空管の劣化でほぼ間違いはないと思います。

しかし、もしも真空管ソケットの絶縁不足である場合でも音途切れの原因となりえます。
ソケットの絶縁低下が真空管の劣化を促進したかもしれません。
こればかりは証拠がないのでなんとも言えません。
そういうときは憂いをなくしておきます。
6L6GC のソケット
【5. 真空管ソケットの交換】無料サービス
真空管のソケットを絶縁性能の高いものに交換しておきます。
古いソケットを外したところ
絶縁部にセラミックを使った新しいソケットに交換しました。
セラミック製の真空管ソケット
同時にソケット部分の配線も新しくなります。
ソケット部分の配線


【6. 6L6GC 真空管の交換】有料……真空管は消耗品のため交換料金を頂戴しました。
「真空管を換えるとしたら Tungsol にしてほしい」というお客様のご要望に基づきTungsol 6L6GCのマッチドペアに交換しました。
以前は JJ の6L6GC でした。銘柄の異なるパワーチューブに換える場合は真空管の特性値が少し異なるためバイアス調整は必須です。


パワーチューブを Tungsol 6L6GC に交換しバイアス調整

2016年9月30日金曜日

Matchless DC30

9月は Matchless DC30 のオーバーホールをしました。
鳥取在住の Kさまご所有です。

高価なアンプということもあり、輸送中の破損が心配。ならびに大きいアンプのため梱包しずらいことから、ギャンプスが所有している大型キャビ専用(12インチ・スピーカー2発) のアンプ・ケースをお送りし、ケースの中に入れて発送いただきました。
ケースの中には調節可能な4隅のコーナーかせあり、これにアンプを置いて、アンプをベルト固定してから外装を被せます。アンプと外装の間には十分な隙間があるため、少々の衝撃でもアンプが傷つくことはありません。しかも外装は軽いモールドを使用しており、ケースそのものは比較的軽くできています。唯一の欠点は容積がとても大きいことです。
SKB製です。現在は製造されていないようです。
ギャンプス所有の SKB 製 12x2 キャビ仕様のアンプ専用ケース 
こちらがアンプの写真。計測したところ Matchless DC30 のキャビネットは VOX AC30 とほぼ同じ寸法です。重量はマッチレスの方が重い。VOX よりも大きく重いトランスが載っています。

マッチレス・DC30 アンプ
マッチレスの回路は全て1W耐圧の抵抗が使われ、コンデンサーも私がオーバーホールで使用する比較的高価で信頼性の高いものが使われています。そのため、94年製、22年前に作られたアンプながら特にひどく壊れている部分はありません。ひとつ問題があれり、フェースプレートに触れるとノイズが出ます。22年も経過すると劣化している部品があります。今回はその劣化した部品を新しくして、ノイズを無くすと同時にこれからさらに10年は使えるように耐久性を向上しました。
オーバーホール概略
もうみなさん見飽きたでしょうから、当ブログでは詳しい作業内容は載せません。
お客さまには、オーバーホール作業内容を写真入で詳しく解説したレポートを別途お送りしています。

真空管の交換とテスト
ギャンプスは「真空管の交換はギターの弦交換と同じようにお客さまご自身が交換されるのが、経済的で安くなります。どうしてもご希望なさる方の場合、どうしても交換しないと音にならない場合は当方で交換します」というポリシーです。
通常はお客様のアンプの真空管をテストし、まだ使えるものは残し、交換しないとノイズが大きすぎるものや、今にも壊れそうな真空管だけを交換してお返ししています。
今回はお客様の「なるべく交換して、使えるものは予備として持ちたい」というご要望により全ての真空管を交換してお返ししました。

ギャンプスでは全て同じ銘柄の真空管に統一して交換するのではなく、経験に基づく適材適所の考えで真空管の銘柄と担当する回路との相性が最も良い組み合わせで交換しています。

考慮するのは音色と耐久性の2点です。いくら良い音色がしてもその回路に使うと壊れやすいものは使えません。逆にいくら耐久性が高いからといってその回路部分に使うと音にならない場合も使えません。こうやって蓄積された経験に基づいています。

このノウハウは色々な真空管を色々な場所に入れて、長時間テストで試してみれば得られるもので、特に大した技術ではありません。

では良きギターライフをお過ごしください。

2016年3月4日金曜日

真空管の灯り(光) について

お電話でギターアンプの故障についてのご質問が来ております。その都度、真摯に回答させていただいております。そんな中、ここ最近、少し気になることがありました。それは真空管の故障について、「内部の灯が消えているときだけが真空管の故障である」とお思いの人が少なからずおいでになるということです。

「真空管が光っていないとき、真空管が壊れている」これはそのとおりです。しかし、「真空管の内部の灯りが点いていれば、その真空管は壊れていないのだ」と勘違いしている人が多いのです。はじめは少しびっくりしました。真空管を販売なさっている人でさえも「真空管の内部が光っていればその真空管は壊れていません。」と断言なさったというのです。そこまで勘違いが進行しているとは知りませんでした。
真空管の灯り--赤く光っています


まず以下の文はいずれも正しいです。○

① アンプがパワーオン状態で真空管の内部の灯りが消えている場合、真空管は壊れています。--- True
② アンプがパワーオン状態で、真空管の内部の灯りがたとえ点いていても、真空管が壊れていることがあります。--- True

以下の文は正確ではありません。×
③ アンプがパワーオン状態で、真空管の内部の灯りが点いておりさえすれば、真空管は壊れていない。 --- False 灯りが点いている場合でも真空管が故障していることがあります。

ご質問なさったとあるお方に③は間違いですよ、②が正しいですよとお伝えしたとき、「へー知らなかった、灯りが点いておれば真空管は壊れてないと思ってました」と驚いていらっしゃいました。

【真空管の内部の灯りの正体】
真空管の内部を構成する要素として次の 4 つの要素があります。
 a) プレート Plate
  b) グリッド  Grid
  c) カソード  Cathode
  d) ヒーター Heater
これらの構成要素が実際にガラス管の中にどのような形で取り付けられているのかは以下のURLにある、絵を見てください。

Antique Electronics Supply というアリゾナ州のタンパにある部品屋さんのサイトの情報です。
リンク許可をとってあります。 12AX7 Tube Diagram,    6L6 Tube Diagram
12AX7 は ヒーター以外の主要構成要素は Plate, Grid, Cathode の3つです。3極管と呼ばれます。
6L6GC は ヒーター以外の主要構成要素は Plate, Grid, Cathode に Screen Gridが加わり、4極管と呼ばれます。( EL34 はさらに Suppressor Grid が加わり5極管です)
リンク先での図には、主要構成要素以外の細かい構造物も書かれています。
図の Filament が私がヒーターと呼んでいる、灯りがともる構造物です。

12AX7 を例にとって簡単に真空管の動作を説明しますと、

・ ヒーターに6.3V を流して、熱を発生させ、ガラス管の内部の温度を上げます。
・ プレートには高い直流電圧がかけられています。150V から 300V
・ 真空管の内部が十分に温まると、カソードからプレートに向かって電子が飛びます。
・ 次にグリッドに交流の信号を入力します。ギターからの信号です。
・ グリッドに加わるのは交流信号で、プラスからマイナス、マイナスからプラスに変化します。
・ グリッドがプラスになったりマイナスになったりすることで、カソードからプレートに飛ぶ電子の数が変化します。
・ その結果としてプレートの電圧が変化します。
・ このプレートの電圧の変化を信号として取り出します。
・ グリッドのわずかな振幅(ゆれ) がプレートの高い電圧上での大きな振幅(ゆれ)となり増幅ができます。
という感じです。
回路図上のプレート、ヒーター、カソード


真空管の内部の灯りというのはヒーターの先っちょに付いているフィラメントの灯りです。

「真空管の灯りが点いている」ということからわかることは、内部を暖めるヒーターは切れていないということだけです。

当然のことながらフィラメントが点かないということはヒーターが切れたということであり、真空管の内部の温度は上がらず真空管は作動しません。他の要素も同時に壊れていることもあります。

ヒーターは大丈夫で、灯りがついていても、プレートやグリッドやカソード、その他の構造物が壊れている場合も、真空管は正常に作動しません。

つまり灯りがついていても、真空管が壊れている場合があるのです。
「音は出るのだが、ノイズが高かったり、変な雑音が出たり、音が小さかったり、Vibrato や reverb の機能が働かなかったりする」場合、
真空管の灯りは点いているが真空管のどれかが壊れている、劣化している、ことがあります。
全ての真空管を変えてみても直らなかった場合は回路の問題です。

もうひとつご質問なさる方に多いケースで気になることがあります。

アンプに何らかの不具合が出ている場合、真空管が原因なのか回路が原因なのかをご自分で判断なさるときに、パワー管だけを交換して治らないので回路が悪いと決め付けていらっしゃることが多々あります。
言い方を変えますと 12AX7 ( ECC83 ) や 12AT7 ( ECC81) などのプリ管は壊れないと信じていらっしゃる。

プリ管も壊れます。灯りは点いているが壊れている場合があります。

整流管( 5AR4 や 5Y3GT)も壊れます。灯りは点いているが壊れている場合があります。
ちなみに整流管は2極管と呼ばれ、プレートとカソードとヒーターの3つの要素で構成され、グリッドはありません。

プリ管も整流管もパワー管も全て交換してみたが直らないとき。
そのときは回路が悪いのです。
ツイードデラックス・クローン( GAMPS 作製) の真空管の灯り
真空管は、
・ガラス管内の空間で電子を飛ばすものである。
・電子を飛ばすためにはヒーターで、( 電熱線で) 内部を熱する必要がある。

このことがトランジスターと決定的に違うのです。トランジスターは
・半導体の特性により内部で電子移動する。
・ヒーターは不要
このヒーターが不要であることがトランジスターの寿命が真空管よりも長い理由のひとつです。
でもトランジスターもいつかは壊れます。

真空管は動作するためには常に自分で熱を出して暖めていないといけにない。
しかし、熱というものは金属にとってストレスでもある。
真空管の要素であるプレートやグリッドやカソードは金属でできている。
金属は熱で疲労し、やがて壊れる宿命なのです。

人間は神ではないのです。
人間の作ったものはかならず何がしかの不完全性をもっており、必ずついつかは壊れるのです。
「絶対に壊れない」、「絶対に安全な」、などという形容詞を使う人がいたら用心してかかるぐらいで調度でしょう。

良きギターライフを






2015年11月25日水曜日

真空管交換で治せるギターアンプの故障

ひとくちにギターアンプの故障といっても、原因は様々です。
壊れていて交換しないといけない部品もケース・バイ・ケースで異なります。
真空管の交換で治る故障と回路部品の交換をしないと治らない故障があります。
ここでは真空管の交換で治るケースについてお話します。

真空管の交換は簡単です。古いのを抜いて新しいのを挿せばよい。しかし、闇雲に力任せで引っこ抜いたり、無理やりネジ込んだりしては、ピンを折ったり、ガラス管を割ったりしてしまいます。
そういう失敗をしてほしくなくてギャンプスのウェブサイトに
ギターアンプの真空管の交換方法 という記事を掲載しています。

今私のところに修理で来ているアンプのプリ管のほとんどをお客さまご自身で交換なさっています。 12AX7 と 12AT7 計6本のうち、実に3本で、ピンの曲がりが発生していました。お客さまは、私のウェブサイトの記事をご覧になったにもかかわらずピン曲がりが起きています。おそらくグイッと強い力で押し込まれたのではないかと推測します。何かしらヒッカカリがあるような場合は押し込まずに真空管のピンの並びとソケットの穴の位置関係を再度よく目で見て確実に穴とピンが合わさる位置で押し込んでください。
このアンプも、ピン曲がりを修正すれば、すんなりとソケットに入りました。

また、ある日、
「真空管の交換を自分でやって感電したらどうしてくれるんだ」
とおっしゃる方からメールをいただきました。

私の真意は、
「ギターアンプの故障が発生し、大慌てで修理屋さんに送ったら、真空管が交換されただけで返された、にもかかわらず高い修理代金を払った」というようなケースでギタリストの方に少しでもお金を節約してもらいたくて、「もしもご自分で真空管交換なさりたい方には方法はこうですよ」という意味あいで掲載しています。
そうはいっても、あまり細かい作業が苦手で力加減が分からず、ピンをまげてしまうかもしれないというお方もいらっしゃるかと思います。自分で交換するのはめんどうだったり、自信がなかったりのお客さまは修理屋さんに真空管交換の依頼なさることをお勧めします。
お客さまご自信による真空管交換を強制するつもりは全くございません。

以上の主旨をご理解なさったうえでこの先をお読みください。

1. ヒューズが飛ぶとき、真空管交換でなおることもあるケース
電源スイッチをオンにし、次にスタンバイスイッチもオンにした瞬間にパイロットランプが消えたというような場合。以後は電源スイッチをいれなおしてもパイロットランプは消えたままです。
あせるでしょうね。気を取り直してよく考えて、ヒューズボックスにたどりつき、コンセントからプラグを抜いてから、ヒューズを抜いてみると切れている。そこで新しいヒューズを買ってきて入れて見る。プラグを挿して、スイッチオンするとまた飛んでしまう。

この時点で、あと一回だけチャンスがあります。
もう一度コンセントから電源プラグを抜いてください。電源スイッチがオフであることを確かめてから、新しいヒューズを入れます。
次に、パワーチューブと整流管を交換してください。
もしも整流管を使っていないアンプ(ダイオード整流)であればパワーチューブだけを交換します。
たとえばデラックスリバーブであれば整流管の 5AR4 ( 別名 GZ34 ) 一本と 6V6GT,二本です。
もしもツインリバーブであれば 6L6GC 四本を交換します。

そして再度コンセントにプラグを挿して、電源スイッチをオンにし電源が上がるか見てください。電源も上がり、スタンバイを上げてもヒューズが飛ばなければ、今交換した真空管のうちのどれかが壊れていたということです。

もしも真空管交換しても、またヒューズが切れたら、故障しているのは真空管ではなくて内部の電源回路です。その時点ですぐにテストを中断してください。故障しているのはアルミ電解コンデンサーだったり、デカップリング抵抗だったり、ダイオードだったり、時には電源トランスのこともあります。修理屋さんに出すしか手はありません。


以上のことを言い方を変えますと、ヒューズが飛ぶ故障のうち何パーセントかの確率で真空管が故障しているケースがあるのです。
真空管が必ず壊れているわけでもありませんよ。真空管が壊れているケースも時にはあるということを言いたいのです。

2. 真空管のポジションと各々の真空管の役割
下の図は典型的な Fender のギターアンプの真空管ポジション番号( V1 ~ )とそのポジションの真空管の機能・役割について記載したものです。画像はクリックすると大きくなります。アンプの中で各真空管がどういう役割をまかされている真空管なのかを理解なさると、故障したときの目安となります。

【例1.】 リバーブが鳴らないとき
リバーブの機能をまかされているのは、V3 のリバーブドライバーと V4 のリバーブミキサーです。
V3 と V4 を交換してリバーブが鳴り出せばラッキー!!! 真空管故障で済みます。V3 とV4 が同時に壊れる確率は低いので、どっちが悪いかは、また古いのを一本ずつ挿しなおして調べて一本に絞ってください。
真空管交換で治らなかったら、リバーブ・パンが悪いかリバーブ・ケーブルが悪いか、回路が悪いかです。

【例2.】 トレモロが鳴らないとき
ひところ前によくあったのがフットスイッチをつながずにトレモロの Intensity を上げても揺れがでないことから修理依頼なさるケース。フットスイッチをつないでオンしないと鳴り出さないのはブラックフェース 以降、シルバーフェースも含むです。ブラウンフェースはフットスイッチをつながずとも鳴り出します。さすがに当方のウェブサイトでの記述の甲斐があってか、フットスイッチをつながないでトレモロがならないというお方はめっきり減りました。

きちんとフットスイッチもつないでいる、Vibrato のスイッチをオンしたのに鳴り出さないとき、 V5の真空管がトレモロのゆれを作り出しています。 V5 を交換してみてください。V5 交換でなおればラッキーです。V5 を交換しても直らないとき、フットスイッチの接触不良がないか確かめてください。フットスイッチの接触不良もないのにトレモロ鳴らなければ、残念ながら回路の問題です。修理に出す必要があります。

注) 最近、トレモロが鳴らなかったり、時にはスイッチオンにしてある時間が経過しないとトレモロが作動しないというアンプがありました。原因はフットスイッチの接触不良でした。

そんな感じで以下のチャートを参考になさってください。
JPG Tube Chart, Fender
真空管のポジションと役割

次のチャートはギター信号がどういう経路をたどってパワーチューブまでたどり着くのかを、簡略に書いたものです。 Fender アンプの Normal チャンネルにつないだときと Vibrato チャンネルにつないだときとで、ギター信号が通過する真空管が異なります。

【例3.】 Vibrato チャンネルの音は問題ないのに Normal チャンネルだけが、極端に音質低下したというような場合、V1 を交換してみてください。それで治らなかったら修理に出してください。Normal チャンネルはギター信号を V1 で受けて一回目の増幅をし、トーンコントロールとボリュームポットに信号を送り、再度 V1 で2回目の増幅をし、その信号を V6 のフェーズインバーターに送ります。V6 には Vibrato チャンネルの信号も送られてきており、パワーアンプをドライブしています。

【例4.】 Normal チャンネルは何も問題ないのに Vibrato チャンネルの音がおかしい場合、V2 と V4 が交換対象です。リバーブとトレモロについては例1.と例2を参照ください。

【例5.】ノイズが大きくなったとき
いつもよりもノイズが大きくなってしまったという場合、そろそろオーバーホールの時期かもしれません。でも待って、単純に真空管の劣化かもしれません。それは確かめてみないと断言はできません。ノイズは様々な要因で起こります。特に「以前に比べて大きくなった」場合、真空管を含めたあらゆる回路部品が原因となりえます。
ノイズの問題を真空管の劣化により引き起こす場合、全ての真空管がその原因となりえます。
私の場合は、まず整流管を交換してみます。次にパワー管です。そして次にプリ管という順番で図の右側の真空管から左に向かって確認をしています。

ノイズというよりも「ピューーーーヒョロヒョロ」というような変な音が出る場合、マイクロフォニックという症状です。プリ管特にゲインの高い 12AX7 が劣化すると起こしやすい症状です。

壊れていないが付いているプリ管の銘柄を変えてサウンドの変化を見たいときにもこれらのチャートは役立ちます。
Vibrato チャンネルの音をよくしたいと思ってV1の真空管を換えていらっしゃるケースを時折見受けます。正しくは V2 が Vibrato チャンネルのギター信号の入り口です。
JPG Guitar signal path
ギター信号の流れと真空管


下の Fig3. はツイード・デラックスの真空管ポジションと役割です。
ツイード・アンプはギター信号の流れが単純に V1, V2, V3 と流れていきます。そのためツイードデラックス用にはFig 2.のようなギター信号の流れのチャートは作っていません。
JPG Tweed DX tube chart
ツイードデラックスの真空管のポジションと機能


【プリ真空管のタイプ】
Fig 1. と Fig 3. のTube Type のところに互換名を記載しています。
例えば 12AX7 ( ECC83 ) です。12で始まるタイプ名は米国でのタイプ名です。 ECC ではじまるタイプ名はヨーロッパにおけるその真空管のタイプ名です。つまり 12AX7 と書いてあれば ECC83 と同じ真空管タイプであることを示します。
同じようにして、12AT7 は ECC81 です。 

7025 というのは米国での呼び名で、タイプとしては 12AX7 です。12AX7 の高信頼管です。
7025 でも 12AX7 でもどちらも使えます。現行メーカーの中で 7025 として販売しているのは今のところ TAD ( Tube Amp Doctor ) の 7025 です。 EH や Tungsol などの 12AX7 と比較してみると、大して音が良いとか、ノイズが少ないとかの差は見受けられませんでした。

市販されている真空管の中には 12AX7WC のように後ろにサフィックスの付いているものがあります。サフィックスが付いている分、少しづつ特性が違うのですが、サフィックス無しのものと互換です。

【12AX7 と 12AT7 との互換性】
ウェブサイトのあちらこちらで 「12AX7 ( ECC83 ) の代わりに違うタイプを挿して音が変化する。しかもそれらは互換があるから問題ない」というような記述を多く見受けます。
しかし、厳密にいうと回路部品、特に真空管の動作点を決めているプレート抵抗とカソード抵抗は真空管のタイプが変わると大きなストレスを受けることがあります。
言い方を変えますと使用するプリ管の真空管タイプに合わせて動作点を決定するプレート抵抗とカソード抵抗の値が決められて配線されています。

12AX7 用に設計した回路に12AX7 の代わりに使用して全く問題の無いのは
5751と 12AY7( 別名 6072 、なおヨーロッパ名の ECCxx はありません) です。

12AX7 の代わりに 12AT7 をお使いになったり、逆に本来は 12AT7を使う場所に12AX7 をお使いになったりすることは、あまりお勧めしていません。

下の2枚の図は12AX7 と 12AT7 の動作曲線に書き込みをしたものです。
このグラフの縦軸に着目してください。

12AX7 を普通に使った場合、流れる電流は 0 から 3mA の間で動作します。
ところが、12AT7 を普通に使う場合は 0 から20mA の間で動作するのです。
その差は実に7倍の電流の違いになります。
JPG 12AX7 operation curve
12AX7 の動作曲線 0から3mA
つまり、この2つの管は厳密にいうと互換ではないのです。ピンの並びや各ピンに割り当てられたて素子は同じでも、動作するときの挙動、つまらり、回路部品である抵抗にかかるストレスの度合いはまったく異なります。
JPG 12AT7 operation chart
12AT7 の動作 0から 20mA
 12AX7 の代わりに 12AT7  を使ったり、 12AT7 の代わりに 12AX7 を使ったりして、すぐさま何か目に見える問題が起こるとは限りません。しかし、回路部品は確実に余分なストレスを受けています。
過去に、12AX7 でギリギリの動作をするような回路を組みました。12AX7 では問題なく作動していました。そこに 12AT7 を入れて使うという実験を行いました。見事に 12AT7 のガラス管は白濁し壊れました。 プリ管の動作点を決定するプレート抵抗も劣化していました。

【パワー管のタイプ】
ギターアンプに使われるパワー管で代表的なものは 6V6GT, 6L6GC, EL34, EL84 です。

Champ に使われているのが 6V6GT x1本
Deluxe Reverb、Princeton Reverb、Tweed Deluxe は 6V6GT x 2本
Vibroverb、Proreverb、Vibrolux 、Tweed Bassman は 6L6GC x2本
Twin reverb は 6L6GC X4本
Blues Jr. と Pro Jr. は EL84 x2本です。

Marshall 1987 は EL34 x2本
Marshall 1959 は EL34 x4本

VOX AC30 と Matchless DC30 は EL84 x4本

この他に 6550 や 7581 、KT66、KT77 などがあります。

これらの真空管のタイプが異なるものは基本的に別物と考えてください。
各々流れる電流の値が異なります。つまり、例えば 6V6GT 用の回路に6L6GC を載せた場合、設計者の想定よりも多くの電流が流れます。

6V6GT 用のアンプに EL34 の真空管はいれないでください。
アンプの健康上、つまり、トランスや回路がダメージを受ける可能性がとても高い。

では、6V6GT 用のアンプよりも大き目のトランスを積んでいる、6L6GC 用のアンプにEL34を入れる場合は、もうどこかで書いた気がしますが、もう一度書いておきます。
パワー管のソケットの一番ピンが問題になります。
6L6GC は 1番ピンは使いません。( 6V6GT も同じく1番ピンは使いません) そのため、ソケットの 1番ピンに何もつないでないケースと別の目的に使用しているケースとがあります。
Fender のアンプで 6L6GC や 6V6GT を使うものはこの 1番ピンにフェーズインバーターからの信号線を繋いでいます。そして1番ピンと5番ピンの間に1500Ωの抵抗が橋渡しされています。
この抵抗のことを Grid Stopper と呼びます。目的は発振防止です。
一方で EL34 は 1番ピンを使います。この1 番ピンはサプレッサー・グリッドもしくは G3 と呼ばれます。EL34 を普通に使う場合は1番ピンをグラウンドに落とします。
6L6GC 用のアンプに EL 34 をつけたいならば、一番ピンをグラウンドに落とすことが必要です。 fender であれば一番ピンに繋がっていた 1500Ω抵抗とフェーズインバーターからの信号線とをラグ端子などの別の端子を使って配線しなおした後で、一番ピンをグラウンドに落としてから EL34 に交換します。元々一番ピンに何もつながっていないアンプの場合は一番ピンをグラウンドに落とすだけの手間が必要です。

では1番ピンだけが問題なのか、いいえ、電源トランスの容量、電源電圧の電流許容量に余裕がないといけません。さらにヒーター電圧 6.3V の電流許容量も余裕が必要になります。
6L6GC は一本あたり 900mA の電流を消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 1.8A( 1800mA)  です。
 EL34は一本あたり 1.5A(1500mA) も消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 3A( 3000mA)  です。
プッシュプルアンプを想定した場合、電源トランスの6.3V ヒーター巻線の許容電流にさらに 1.2A の上乗せの余裕がないといけません。
もしも 4本使いのTwin revreb に EL34を使う場合は実に2.4A もの余裕がないといけません。
余談ながら、電源トランスのヒーター巻線はパワーチューブだけでなくプリチューブも使っています。
12AX7 の場合一本あたり300mA 消費しています。

ヒーター巻線の電流許容量に余裕がないのに EL34 を無理やり使うと、トランスのメーカーの保証していない領域で使うことになります。電源トランスが発熱し、内部で絶縁破壊がおき、内部の巻線がきれてしまう可能性がとても大きくなります。

はじめっから、メーカー側で 「6L6GC でも EL34 でも好きなほうを使ってください」といっているアンプは一番ピンをはじめからグラウンドに落としてあるのと同時に電源トランスの巻線の許容電流量に余裕があるアンプということです。

今日はこのへんで。
ではよきキダーライフをお過ごしください。