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2022年6月26日日曜日

LED Tester

 LED 簡易テスターの工作

最近アンプにLED を搭載することが多くなってきました。
LED はどこでも入手可能なサトーパーツ製を使っています。

アンプを作っていてふと気づきました。
「製作中のアンプの電源回路とリレー式フットスイッチ回路が出来上がるまでの間は取り付けたLED がちゃんと点灯するLEDなのかどうかをテストする場面が無いな」ということに。
もちろんテスターでダイオード特性は調べてはいるものの、やはり、ちゃんと光っているところを確認したうえでアンプに取り付けたいなと思います。

そこでLED が光るのを自分の目で確認できるテスターを作っちまえと
かといって大げさな物は作る気は無く、簡易的なものにしました。

swab container used to contain parts
簡易 LED テスター

本体は綿棒の空き容器プラスチックです。
その他の部品は
抵抗 x2, 電池ボックス x1, スイッチ x1, クリップ x2 , 配線材

サトーパーツの中で私がよく使う緑色と黄色のLED は流す電流が若干異なります。黄色に比べて緑のほうが少し少なめの電流を流します。緑LEDと黄LED の両方がテストでへきるようにスイッチを使い、電池のプラスとLED のプラス端子の間に挟む抵抗値を変えられるようにして、電流値を各色に合わせています。
電源の電圧は1.5V 乾電池の2個直列で 3Vを使用。この3V に対して何ミリアンペア流すのかを抵抗値を変える事で制御します。この抵抗値はきっちり正確でなくとも、だいたいの値で十分機能します。

LED の端子は細長い金属です。クリップでその端子を挟んで通電し点灯確認します。

下に回路図を掲載しておきます。
switching total resistance upon testing LED's color green and yellow.
LED テスター回路図

Youtube で点灯しているところが見られます。


2019年9月18日水曜日

Parts Layout Design ( アンプのレイアウト設計)


 Introduction


ギターアンプを製作するときに
「最も大切な作業」
それはレイアウト設計です。

レイアウトと言うと
「物を並べるだけ、配置するだけ」
と思われるかもしれません。

しかし、
レイアウト設計をいい加減にした結果、
アンプに問題が起きた場合、後で取り返しがつきません。
どのような後付けの対策をやっても、
いい音で鳴らない危険性があります。

つまり、レイアウトが悪いと、音に影響します。
×  安物コンデンサーのチープな音、
× ハンダ付不良が原因のノイズ等
と同じぐらいもしくはそれ以上に「音に悪い影響」を及ぼします。

部品の問題であれば、
後から部品交換すれば解決できます。
イモハンダならばハンダをやり直せば済みます。
しかし、

レイアウトの失敗は
トランスや真空管ソケットを一旦全部取り外し、
シャーシーの穴あけからやり直す必要があります。
場合によっては、シャーシーの問題ではなくなり、
スピーカーとシャーシーの位置関係の問題となり、
キャビネットの作り直しが必要となることもあります。


電気部品は電磁波を発生させる側
であると同時に、
他が発生させた電磁波の影響を受ける側
でもあります。

電磁波は様々な悪さをします。

不快なノイズを発生させたり、
ギター信号を削って音質低下させたり、
不調とまでは言えないものの、
好ましくない音、色気のない音にしてしまいます。
その原因はレイアウトが悪いことによる
アンプ内での電磁波の干渉のことがあります。

実際に何をレイアウト設計するのかを見ていきましょう。

今回は
1. トランス同士の向きと距離
2. 真空管同士の向きと距離
3.回路部品の並べ方
について述べ
続いてレイアウト設計した実例を載せます。


トランスの向きと隣のトランスとの距離


トランスは強力な電磁波を発生させます。
同時に他のトランスの電磁波の影響を受けやすい部品です。
シャーシーの上にしっかりと固定することに加え、

・どういう向きに載せるか、
・他のトランスとの距離をどのぐらいあけるか、

を考えてレイアウトする必要があります。


Fig1. トランスの向きと放射電磁波の強さの違い
Transformer's megnetic field strength of each direction

Fig 1. の矢印の色の説明
赤色 矢印 = 放出される磁力線が最も大きい方向を表します
黄色 矢印 = 放出される磁力線が中くらいの方向を表します
緑色 矢印 = 放出される磁力線が最も小さい方向を表します


トランスのレイアウト設計で必要なことは以下の4点です。

(a) トランス同士はなるべく距離を離して設置する
  しかし、あまり距離を稼げないときは以下を守る
(b) 出力トランスが電源トランスの影響を受けにくい向き
(c) 出力トランスがチョークトランスの影響を受けにくい向き
(d) チョークトランスが電源トランス に干渉されにくい向きにする

増幅された音を最終的にスピーカーに送りだす、出力トランスは
最も敏感で、干渉されやすいのです。



Two bad layout samples and two good samples
Fig2 メーカーのレイアウト実例



上記のFig2. で色々なアンプメーカーのレイアウトとその良し悪しを
実例として挙げています。参考にしてください。

〇 Fig2. では2種類のアンプのトランスレイアウトが良好です。

この2つのアンプに共通しているのは、
比較的小さい出力であると同時にシンプルな回路で、
十分に余裕のある容量のシャーシーに収めていることです。
出力が小さいとトランスの大きさも小さくなり、
相互干渉しにくくなります。


× Fig2. で好ましくないレイアウトのサンプルとなったアンプは、

60W や100W の大きい出力を 15W用のプリンストンの小型キャビ
に詰め込んでいます。
トランスの容積は増え、大きくなり、トランスとトランスの間隔
を空けられずくっつきすぎとなり、
トランス間の電磁結合が起こりやすい。
加えてブースト機能やラインアウト機能満載の複雑な回路を、
余裕の無い小型シャーシーに詰め込んでいます。
回路部品間の電磁結合も起きやすくなります。

どこも壊れていないのにやたらとノイズが多い原因は
このレイアウトのまずさです。

いくつもの寄生発振対策を施し、配線のシールド化を行って
ようやく、なんとか使えるアンプになります。
( ギャンプスで過去に修理したものにはこの対策が入れてあります)
しかし、この対策も対処療法でしかありません。
固体によっては対策の効かない物も存在します。



上図のアンプ以外では、

20W 以上の出力のコンボアンプのシャーシーの大きさと
部品のレイアウトとは Fender が優秀で良く考えて設計されています。
トランスのレイアウトは〇です。

Marshall について
トランスの配置は問題なくレイアウトは〇です。
でもやたらとノイズが大きい個体があるのは、回路の問題です。
グラウンド配線のまずさが主な原因です。

真空管のレイアウト


真空管と隣の真空管とは向きと距離に気を付ける必要があります。
真空管のレイアウトで気を付けるのは熱干渉です。
ヒーターでわざわざ発熱させて機能を発揮する真空管は、自身の発熱には強い。しかし、さらに隣の真空管の熱が加わると熱しすぎとなり、壊れやすくなります。

そのため特にパワー管は2本並べたときには距離に制限があります。
下図のように
6V6 で 45mm以上、6L6 で52mm 以上、EL34 で 64mm以上離して
設置する必要があります。


また真空管の向きにも基準があります。

Fender や Marshall のように垂直に立てたり、吊るす場合は、
Pin 4 と Pin 8 が隣同士で水平になるようにします。
隣同士が熱干渉しにくい位置関係にします。

VOX の Bass amp や MesaBoogie のラック式パワーアンプのように
横向き(地面と水平)に使う場合は Pin2 と Pin6 が隣同士で水平になる
ように設置します。横向きにする場合は、重力の力でたわみが生じ
いわゆる「熱だれ」で音質低下したり、内部ショートしたり
しやすくなります。内部の金属機構が下にたわまない向き
に設置するための向きです。

12AX7 や 12AT7 などのプリ管の向きについて。
こちらはパワー管ほど神経質にならなくても不具合は
出にくいものの、一応基準は存在します。

Pin 2 と Pin6が直線上に並ぶようにします。
この向きにする目的は熱干渉ではなく、電磁的な信号の結合、
つまり、寄生発振をさせないための位置関係です。


Power tube and pre tube has a rule ofthe orient of installation
真空管のレイアウト規定


抵抗やフィルムコンデンサーのレイアウト

抵抗やフィルムコンデンサーなどの回路素子の並べ方も
よく考えて工夫して部品配置することで、
ノイズや発振の少ない回路にすることができます。

下図にその基本の配置方法を示します。
図中、抵抗で書いてある「置き方の基本」は
フィルムコンデンサーでも同じに当てはまります。

基本は片方の部品からもう片方の部品に信号の飛び火がしない
ようにレイアウトすること。信号が空中で電磁的に結合しない
ようにして、寄生発振を防ぐことです。


余裕のある広い面積にバラバラと部品が置けるのであれば、
それに越したことはないです。しかし、回路の置き場所は
さまざまな制約を受けることがあります。

回路部品のレイアウトもブラックフェース期の Fender が実に
良い手本になります。
元々ラジオ技術者であったレオ・フェンダーが在籍したいた
頃の Fender の作っていたアンプのレイアウト設計はていねい
であり、理にかなっていたということです。
Fender は Reverb や Tremolo という機能があり、
回路的には Bruno や Velocetteよりも複雑で回路部品点数が多い
ものの回路部品のレイアウトは整然としていて問題はありません。
トランスと真空管のレイアウトも狭い空間を上手に利用して正しい位置に置かれています。
注意すべきは配線材の取り回しはブラックフェース期までが良好で、 シルバーフェース以降の機種はオーバーホールして全ての配線材を 交換してはじめて使い物になるサウンドが得られるという事実です。

 同じFender とはいえブースト回路やライン・アウト端子が追加されたモデルは 部品レイアウトに問題があります。何らかの工夫を施してやらないと ノイズの問題や発振の問題が出やすくなります。

プリント基板配線を使った現行 Fender のモデルはレイアウトの観点からは問題ありません。 出音に迫力が感じられなかったり、高域のピークが耳に痛く感じるのは 以下の理由によります。
1. 抵抗・コンデンサー等の回路部品の質
2. トランスそのものの質
3. 配線材の質
4. プリント基板の音響特性



Layout picture
回路部品の並べ方

実際のレイアウト設計


上記に述べたレイアウト設計の基本を守り、アンプを製作します。

まずは、どの程度の出力、どの程度の規模の回路構成かを決めます。
今回の例は
・出力60W
・Fender Bassman 50 規模のベースアンプ
・チャンネルはベースチャンネルひとつだけ

次に特別な要求事項を盛り込みます
・スピーカーはセパレートとしてヘッド部を製作する
・なるべく小型にして持ち運びや置き場所をとらないこと
・オーディオアンプ向けの小型シャーシーを流用する
・そのためFender のレイアウトの流用はできない、
 当アンプ独自のユニークなレイアウトにする


選定したシャーシーの寸法を元にレイアウト図を設計します。

a) トランスのレイアウトを決めるシャーシー上部レイアウト図

b) 回路部品を載せる回路ボードのレイアウト図

この2つのレイアウト図は実際に使うトランスや回路部品の実寸
で作図し、部品間で干渉しないか、取り付けに無理はないか、
レイアウト上に問題が無いかを検証します。
実はこの机上検証にかなりの時間がかかります。
過去の経験に基づき、問題の置きやすい部品・距離・向きを
何度も検証します。


問題があればレイアウト図を作図し直します。
スペースが小さすぎる場合には、シャーシーの選定から
やり直し、問題がなくなるまで試行錯誤してやり直します。

actual layout designing
レイアウト設計


レイアウト設計が完了してはじめてシャーシー穴開けをし、
部品を取り付けていきます。
レイアウト設計時に手を抜くと取り付け時に部品同士が干渉して
取り付けられなかったり、取り付けても操作できなかったりと、
思いもかけない問題にぶちあたります。

curtting of transformer and tube sockets
部品の実装

部品をあらかた付け終わると、次に
回路ボードのレイアウト図に基づいて配線をします。
真空管ソケットから回路ボードまでの配線材の長さやポットから
回路ボードまでの配線の長さも、長すぎると発振したりノイズを
拾ったりしてしまいます。回路ボード設計時点でそれも考慮した
レイアウトに設計にしておくことがとても重要です。

parts view
回路ボード上の電気部品のレイアウト設計 

以上の観点から、レイアウト設計をしてアンプ製作をすると、
かなり窮屈なシャーシーを使っていたとしても発振の無い、
ノイズの少ない良質な音のアンプに仕上げる事が可能となります。

Picture of upperside and bottom side of the Chassis
トランスのレイアウトと部品のレイアウト


スピーカーとシャーシーの相対位置関係

今回はスピーカーとアンプ部の位置関係は解説していません。

しかし、
スピーカーとアンプ部が一つのキャビネットに同居する
コンボタイプのアンプでは、
スピーカー、特にスピーカー端子とアンプとの距離・
位置がアンプのサウンドに大きく影響します。
正常だと信じていても、
音が濁っていたり、変な振動音が混ざっている場合があります。

スピーカーのボイスコイルとアンプのトランスとの間に
電磁干渉が起こっている場合、
音が濁ったり、振動音が出たりします。

「どうすれば防げるのか」については、
当ブログもしくはギャンプスのウェブサイトに掲載した
アンプのオーバーホールの記事に既に掲載してあります。
ご参考までに。

2017年7月6日木曜日

Shield cable ギターアンプに使うシールドケーブル

ギターアンプの内部配線にシールドケーブルを使う場合に気を配っていることを記載します。

本来はシールドケーブル無しの配線で何も問題の無い音が出ればベストです。

アンプのシャーシー内の回路はローインピーダンス回路もあればハイインピーダンス回路も混在しています。

インピーダンスなどと小難しい言い方をせずとも、電磁波のノイズに強い回路と弱い回路が混在していると考えてください。

大きめのボリュームで5弦や6弦の低音弦を強めに弾いたときにだけ出る「ガリッガリッ」とか「ブルブル」とかいう不快なノイズ。もしくは弦を弾いた後サステインの余韻に浸ろうとしているとき、減衰していく音にまとわりつくビリビリビリというノイズ。これらが寄生発振のノイズです。

ノイズに弱い配線にギターアンプの他の回路の電磁波が寄生してこのような症状になります。

ギターアンプでは、
回路の配線材の取り回しや這わせ方が悪かったり、部品のレイアウト(並び方)が悪かったりしても寄生発振は容易に起こります。

同じ会社の同じ年代に作られた同じモデルでも発振する固体と発振しない固体があります。

部品のレイアウト(配置、向き、部品間の距離、配線の長さ、配線の道筋)が微妙に影響します。


配線の這わせ方の微妙な違いで寄生発振が起きたり起きなかったりする部分にはシールドケーブルを使って配線すると効果があります。

ギターアンプの中で最もノイズに弱く、他から寄生されやすい部位は入力ジャックに繋がっている配線です。入力ジャックに入るギター信号を増幅初段のプリ管(たいていのモデルでは12AX7 ) に送り届けるための線です。
この部分の配線はとても敏感です。例えば、JCM800 以前の Marshall からラジオ放送の音が聞こえたり、無線の会話を拾ったりすることがあります。 Marshall の入力ジャックの配線がアンテナになり、強い電波が寄生し内部で同調してしまい放送や会話が聞えるのです。
Marshall アンプのインプットジャックの発振対策については当ブログの
Marshall 1987 MKII Lead
【作業8. インプットジャック部の発振対策】をご覧ください。

じゃあこの部分はシールドにしちゃえば良いとなるのですが、世の中そんなに甘くはない。
使うシールド線によってはアンプの良さを殺すことがあります。
シールドケーブルは寄生されるのを防ぐだけでなく、副作用としてギター信号の中からある程度信号を削ってしまいます。

この副作用のことを専門的には線間容量といったり、分布容量といったりします。
容量とはコンデンサー成分のこと。

シールドケーブルをつなぐと、配線にコンデンサーを付けてグラウンドにつなぎ、音を削るのと同じ効果が出てしまいます。
ギター本体のトーンコントロールはパッシブ、つまり音を削るものですね。
シールドケーブルをアンプの入力ジャックで使うとつまみでコントロールできない極小のコンデンサーを一個ギターに追加したのと同じ副作用が出るのです。

理解の手助けとなるように、シールドケーブルの構造と、どのようにしてコンデンサーが形成されて音を削るのかを、以下に Fig1. から Fig4. まで4つの図を作ってみました。
Fig3. と Fig4. は同じことを表現方法を変えて説明しています。

シールドケーブルの略図
シールドケーブルから外側の絶縁被膜を取り除いた略図
シールドケーブルの断面図
シールドケーブルの等価回路 コンデンサーとみなすことができる図
ギターからアンプのジャックまでは既にシールドでつないでいます。アンプに入ってから、たかだか数十cm だけシールドが伸びたと考えれば問題ないのでは ?と思いますよね。
でも実はインプットジャックに入ってすぐにギター信号に対して1MΩの抵抗が付けられグラウンドに落としてあります。この抵抗は信号の送り手であるギターの回路とインピーダンス整合(信号をロスなく受けとるための調整)をするためになくてはならない物なのですが、このインピーダンス整合をした後の信号は極めてひ弱で、ノイズの影響を受けやすいだけでなく、ちょっとしたことで削られやすくなるのです。
つまりギターから出た直後の信号よりもさらにシールドケーブルの副作用をうけやすくなっているのです。

ではどうするのが良いのか。
応えは簡単、副作用の少ないシールド・ケーブルを使うことです。
線間容量の少ないシールドケーブルを使うことで何もシールドしていない配線材のときと音質か゛削られないようにする必要があります。

シールドケーブルの比較
簡単な実験をしてみました。長さ約15cm のシールドケーブルを3種類用意します。
順番に線間容量をテスターで計測します。
線間容量の測り方は、コンデンサーの容量を測るのと同じで、シールドの信号線とシールド端子間の容量を計測します。

微細な容量の計測のため、厳密に何 PF であるというよりも各々種類の異なるシールド線に差があるかどうかという観点でご覧ください。

一般的な内部配線用シールドです。市販されているギターにつなぐシールドよりは線間容量は少なめです。このシールドは 0065 という数値でした。
一般的なシールドケーブルの線間容量 0065
次が Mogami 電線の低容量シールドとして売られているシールドです。
数値は 0025 を示し、一般的なシールドよりは音を削りにくい。
Mogami のシールドの線間容量 0025 
3番目は GAMPS の自作シールドです。芯線を電磁波から確実に保護しつつ、なるべく線間容量が少なくなる工夫をして作成しました。数値はMogami よりもさらに良く、0019 を示します。
自作シールド の線間容量 0019
シールドをわざわざ自作するのは手間と時間がかかり効率が悪い。
一方で市販されているシールドケーブルは少ない容量のものが見つかりにくい。
良心的なメーカーやケーブル販売店では以下の Belden の例ような仕様を掲載してくれています。

Nominal Conductor DC Resistance = 44.5Ω/1000ft
1000 フィート約305m の長さのときに芯線の抵抗が44.5Ωになることを示します。

 Nominal Capacitance Conductor to Shield = 16.3PF/ft
1フィート約30.5cm の長さのとき、芯線とシールド間の容量が 16.3PF あることを示します。

しかし、他のメーカーや販売店では DC Resistance の記載はあるものの、容量の仕様の記述がなかったり、単に Low Capacitance とだけ謳って販売されていたりします。

そのため、「ああこれは内部配線につかえるかも」という直観を頼りにシールドを購入し、実際にアンプに使ってテストし、使えるシールドかどうかを検証している日々が続いています。

容量値は少ないものの、
芯線が単芯ではなく撚り線で音の解像度が弱かったり、
芯線は純銀の単芯線であり、解像度が良いものの容量値が大きく、
せっかくの高域音を削りすぎていたりと、GAMPS の求めるシールド線に出会うのに苦労しています。

高価なギター用のシールド・ケーブルも購入しプラグを切り落としてアンプに使ってみたりもしました。ギター用のケーブルは過酷な取り扱いに耐えられるように外皮を分厚くし、シールド部分の配線も切れないように強固にされ、芯線は折れないように単芯ではなく撚り線であったりします。それが音に悪影響していて、どれも使えるものはありませんでした。

現在、これは使えるというケーブル数種類と出会うことができ、ストックし、自作のケーブルと併用しています。






2017年4月7日金曜日

Amp Cradle アンプ・クレードル

Note: 当ブログで紹介している「改良型アンプクレードル」は滋賀県近江八幡市、あきんどの里に工房を構える 木工房 YZ --- アンプ修理架台-- の吉積さんのところで作成してもらえます。興味のある方は木工房 YZ までお問合せください。


Guitar アンプのシャーシーをキャビネットから外し、回路の修理作業をするとき、必要となるのがアンプを置く台です。英語では Cradle ( ゆりかご) と優しい単語で表現されます。

Weber 製のクレードルにシャーシーを載せたところ
【1】ギターアンプのシャーシーの形状と回路作業時の問題点
ギターアンプの回路を収めているシャーシーには必ずトランスが搭載されます。
 
Single Jingle のシャーシー
回路部品は写真のシャーシーの裏側に収められています。

Twin Reverb のシャーシー
回路の作業をする場合は上写真のシャーシーをひっくり返し回路にアクセスすることになります。
そうするとトランスの頭がテーブルと直に接することになり以下のことが問題となります。
A) トランスに傷をつけてしまう
B) テーブルに接する面が不均衡となり、シャーシーがガタついたり倒れてしまう

【2】簡易対策

シャーシーの底部に発砲スチロールを取り付け作業する Marshall アンプ
 A) B) ふたつの問題を解決するために試行錯誤をし、当初は発砲スチロールをシャーシーの裏側に両面テープで留め、問題が起きないようにしていました。
トランスの頭部を発砲スチロールで養生して作業する Fender アンプ

ところが新たな問題に直面します。

C) 回路部分が水平になってしまう。ハンダ付をしたり、部品搭載するアクセス時には座って作業できず、常に立って作業しないといけない。

回路部品を交換する作業には集中力が必要です。これを立ったままで行うと大きく疲労したり、集中力が途切れてしまいます。特に腰と首が痛くなります。

座ったままでアンプの回路にアクセスしやすいアンプ台が必要となるのです。

【3】アンプクレードルの導入
アンプ・クレードルを使う場合、回路にアクセスしやすい

あちらこちらネット検索し、当時、米国の Weber で販売されていた アンプクレードルを購入しました。材質はメープルで、価格は当時 $120、 Fedex の輸送料金が $100 かかりました。

クレードルの両端にある L 字型の木製アングルにシャーシーの両端を載せ、L字アングルをスイングさせて固定することにより回路部分と正対して座って作業することができるようになりました。

約10年にわたりこのクレードルのお世話になりました。



【4】Weber 製のクレードルの問題
Weber 製のアンプクレードル

使い込むに従い Weber のクレードルにもいくつかの使いづらい問題が出てきました。


( 問題1.)  L字アングルの角度調整ネジノブとトランスの干渉
シャーシーを傾けて作業しやすくするために L 字型のアングルは回転させることができ、手動でネジを締め付けて任意の位置で固定することが可能です。ところがこの手で締め付ける大きめの取っ手がクレードルの内側にあり、アンプのタイプによっては取っ手とトランスが干渉しあい、シャーシーがうまく L字アングルに載らないことがあるのです。

真の原因はネジを止めるためのナット(鬼爪ナット)が端にある壁板に付いていることです。L字アングルにナットが埋め込まれていてネジの取っ手が壁板の外に付いていればよいのに。
L字アングルの角度調節用のネジ、この部分がトランスと干渉することがある

(問題2.) 横幅の調整の不連続性で作業効率低下
アンプのモデルによってシャーシーの横幅が異なります。シャーシー横幅にクレードルの横幅を合わせるために右側の L字アングルが壁板と共に左右に移動できるようにしてあります。
下の写真に見える黒く丸いノブを緩めて右の壁板をスライドさせます。
この移動量よりも幅の狭いシャーシーのときには一旦丸いノブを完全に緩め、丸ノブを左にある穴に差しなおして壁板を調整します。


横幅調整用のノブと壁板
クレードルの下部には全部で3ヶ所のナットがあります。
アンプのシャーシーの幅に合うように丸ノブを差しなおすのですが、どちらの穴にしてもピッタリとシャーシーの幅に合わない不連続性が存在します。
そのときシャーシー幅に合わせた状態で丸ノブが固定できません。
丸ノブのネジ穴

この横スライドをなんとか連続的にできないものか。いちいちナットに丸ノブをネジこまなくてもいいように連続的でスムーズなスライドにできないものかと思います。
幅調整を最も狭くした状態

( 問題3. ) L 字アングルの長さと高さ不足

3 つめの問題が L字アングルの L の長さと高さです。現状だと奥行のある Twin Revreb などのシャーシーはトランスの重量が重いこともあり、L字の傾斜にピッタリと沿わずシャーシーの手前が少し浮き上がる場合があります。あともう少し長さと高さがあると浮き上がり防止できます。
L字アングルの長さと高さ( 青線 )

【5】改良型アンプクレードルの作成

近江八幡市の「あきんどの里」に工房を構えていらっしゃる木工房 Yz の吉積さんところへ遊びに行き、世間話で「Weber のアンプクレードルにいくつか問題があり、困っている」という話をしたところ、現物を見て改良型が作れるかどうか検討してくださるとのこと。

今年に入り Weber のアンプクレードルを工房へ持ち込み、吉積さんと、ああでもないこうでもないと検討を重ねた結果、改良型アンプクレードルの作成は可能であるという結論に至りました。
数日後、彼はさっそく設計図を書いてくれました。
改良型アンプクレードルの設計図
設計図を元に細かな仕様はおまかせするということで制作をお願いし、2台分を発注しました。

出来上がったのが下の写真です。
固くて耐久性がある、美しい桜材を使ってくれました。
完成した改良型アンプクレードル、木工房 Yz 製

奥行のある Concert のシャーシーも浮き上がることなくしっかりと収まっています。
改良型アンプクレードルにシャーシーを載せたところ

[ 改善点1.]  L字アングル固定方法の改良、トランス干渉無し

 L字アングルの中心に固定用のナットを埋め込み、角度調整後の締め付け取っ手は壁板の外側に来るようにし、トランスとの干渉は一切なくなりました。
L字アングルの固定方法の改善

[ 改善点2.]  連続スライド方式による幅調整

スライドの溝をクレードル本体の底部に設けることにより、連続して横幅調整が行えるようになりました。この溝には金属のガイドレールが埋め込まれています。固定ノブを回すのも少しの力ですみます。
以前のように不連続に穴を移動する手間がなくなり素早く位置決めの作業ができてます。
クレードル本体側にガイドレールで溝作成
右側の L字アングル固定ノブはわずかに回し緩めてスライド、わずかに締め付けて固定が可能となりました。
固定ノブは引き抜かず少しゆるめてスライドし少し締めて即固定


横幅を最も狭くした場合

[ 改善点3. ] L 字アングルの長さと高さの拡大

L字アングルの長さと高さを拡大し、奥行の広いシャーシーも浮き上がることなく斜めの角度で作業できるようになりました。

改良型アンプクレードルによる生産性の向上は測り知れません。
しかも以前のクレードルに比較してはるかに美しい。
一台あたり 3万円台という格安の値段にしてくれた吉積さんに感謝です。

L字アングルの高さと長さを拡大

2台オーダーしたうちの 1台はわたくし用です。
もう 1台は東京在住の桑元ヒカル君にプレゼントとして送りました。

彼は昨年、当ギャンプスにアンプ技術の修行に来ました。何日もかけて技術と知識を習得し、東京に戻ってからはプロギタリスト向けギターテク(フリー) を業務とする傍ら、いろいろなアンプを自分で修理し自己研削に励んでいる将来有望な若者です。彼の日頃の努力に対して、なにかしてあげたいなと思っていた次第です。
2台のうちの 1台は東京在住のギャンプスの弟子、桑元ヒカル君へのプレゼント
当ブログを書いていたら、ちょうど桑元君から別件で電話がありました。
アンプクレードルの使い心地はどうかと尋ねたら、「もう最高です。今までの腰の痛みとおさらばです」とのこと。
Weber のクレードルを所持している仲間に改良ポイントをうらやましがられたとも言っていました。「ギャンプスで修行したものだけの特権です」とまでは言いませんでした。
吉積さんに頼めば誰にでも作ってくれますからね。

2016年12月10日土曜日

Bias modulation tremolo

【Princeton Reverb Tremolo, vibrato】
【プリンストンリバーブのトレモロ、ヴィブラート】


Speed, Intensity knob of Princeton reverb  

プリンストン、プリンストンリバーブのトレモロはデラックスリバーブやツインリバーブ等のトレモロとは回路が少し異なります。

そのために、扱い方でどこが違うかというと
デラックスリバーブやツインリバーブのトレモロはバックパネルにフットスイッチを繋いでオンしてはじめて効きます。

対してプリンストンはフットスイッチを繋がなくても Intensity のつまみをあげれば揺れ始めます。
Foot Switch Jack

音質も異なります。
デラリバやツインリバーブのトレモロは揺れるときに原音の音色(高域)が少しだけ味付けされた感じです。

対してプリンストンのトレモロはもう少し自然で、原音に味付けすることなく揺れている感じです。
揺れ方もダイナミックです。

差は回路の違いからきています。

デラリバやツインリバーブのトレモロは「真空管をわざと発振させ作り出した電圧の揺れ」を、LDRという素子内で光の点滅信号に変えます。次に光の強弱に連動して抵抗値が変化するLDR の内部の抵抗をプリアンプの出力にかませることにより、プリアンプ信号を揺らします。
LDR とは Light Dependent Resistor の略で、光により抵抗が変化するという意味です。
LDR は別名 Opto Coupler (光結合器) とも呼ばれます。

プリンストン・リバーブのトレモロの方式は、ネット上では Bias modulation tremolo ( バイアス・モジュレーション・トレモロ ) という呼称です。「真空管をわざと発振させ作り出した電圧の揺れ」をアンプのバイアス回路にぶちこみます。つまり、バイアス電圧が一定ではなく揺れることにより、パワーアンプの音そのものを揺らす方式です。

下図 デラリバの回路の一部、LDR と繋がった Intensity がプリアンプ出力に繋がっています
Deluxe Reverb Tremolo circuit using LDR
 下図 Intensity はパワーチューブのバイアスに繋がっています
Princeton Reverb Circuit using bias modulation

ギャンプスのウェブサイト、ギターアンプの技術情報からリンクしている
ギターアンプのヴィブラート(トレモロ)というページはLDR 方式のトレモロについて述べています。

Bias Modulation Tremolo については書いていませんでした。当ブログに技術情報として掲載しています。

【Bias Modulation Tremolo を使っている Fender のアンプ】
プリンストン・リバーブだけが Bias Modulation Tremolo ではありません。
以下に主なものを列記してみました。

a) バイブロ・チャンプ ( Vibro Champ)
ブラックフェースもシルバーフェースも共通

b) プリンストン、プリンストン・リバーブ ( Princeton, Princeton Reverb )
ブラックフェースもシルバーフェースも共通。ブラウンフェース 6G2も。
'64 リイシューも。

c) 6G3 デラックス ( Deluxe )
ブラウンフェースのデラックスだけは Bias Modulation。

d) トレモラックス ( Tremolux )
6G9 ブラウンフェース
訂正: ブラックフェースはLDRです。


e) 6G11 ヴァイブロラックス( Vibrolux )
ブラウンフェースはBias Modulation です。
訂正: ブラックフェースはLDRです。

f) 6G16 ヴァイブロバーブ(Vibroverb)
ブラウンフェースのバイブロバーブはBias Modulation です。
'63 リイシューもです。

'64 リイシューはLDR です。
Vibroverb は AB763 回路の時点でLDR 回路に変更されています。


2016年11月17日木曜日

Capacitors and resistors ギターアンプに使うコンデンサーと抵抗について

ギターアンプの製作と修理に使うコンデンサーと抵抗について過去に書いたウェブサイトの内容やブログの内容を以下に抜粋掲載してまとめました。

【カップリング・コンデンサーについて】

増幅回路と増幅回路をつなぐコンデンサーのことを
Coupling ( カップリング ) コンデンサーといいます。

一番目の増幅回路から出力された信号はコンデンサーを通過し、
通過した信号だけが2番目の増幅段に送られます。
この時コンデンサーはふたつの仕事をします。
一つ目は、直流電圧をシャットアウトし、交流電圧(増幅されたギター信号) だけを通過させる。
二つ目の仕事は、交流電圧(ギター信号) のうちコンデンサーの値に見合った周波数だけを通過させ、その値からはみ出る周波数は通過させません。
高域の周波数が優先的に通過します。どこまでの低域を通過させるかはコンデンサーの値(μF)の大きさで決まり、値の大きいほど低い周波数を通過させます。

インプット・ジャックから入った信号を初段の増幅回路で増幅し、
次の増幅段に送るために 仮に0.02μF のコンデンサーを使うとします。
耐圧を600V を使います。この耐圧は一番目の仕事であるシャットアウトする直流電圧の大きさに比例して決めます。ギターアンプの場合、およそ400V の直流電圧がかかっています。余裕を見て600V 耐圧を使うのです。

この時に、どのタイプのコンデンサーにするかで音質、つまりコンデンサーを通過するギター信号の倍音が変化します。

(1) コンデンサーに使われている誘電体による違い
  a)ポリエステル・フィルム ---迫力のある中に低域がプリッと締まります。
  b)ポリプロピレン・フィルム---全帯域にわたり Hi-Fi です。
  d) セラミックディスク --- 高域の倍音が少し歪む感じがします。

(2) メーカーとそのメーカーの品種による違い
  下の写真の左から
 イ) Jupiter RedAstron
  ロ) SOZO BlueMolded
  ハ) SOZO YellowMastered
  ニ)150M Mallory 
  ホ)SBE OrangeDrop 716P
  ヘ) CDE OrangeDrop PS
 ト) セラミックディスク 3社 

この音の違い、つまりギター信号の倍音の出方の差というのは「交流電圧のうちコンデンサーの値に見合った周波数だけを通過させ、その値からはみ出る周波数は通過させません」という性質が各々の銘柄により少しづつ個性をもっていることによる差です。つまり同じ0.02μF でもギター信号を通過させるときの周波数に癖があるというかムラがあり、それがコンデンサーの違いによる音の違いとなって出てくるのです。

ホ)オレンジドロップの716Pの誘電体はポリプロピレンです。 715P もポリプロピレンで、音は716P と同じです。715P の容量値のバラツキを抑えたものが716Pで基本的には同じ物です。
ヘ)オレンジドロップのPS の誘電体はポリエステルです。715Pや716P と明確に音が違います。
イ) Jupiter や ロ)SOZO や ニ) 150M Mallory はポリエステルです。

誘電体がどうだからとか値段が高いからとかで一概にこれが良いというもの
ではありません。生かすも殺すもどの回路の部位に使うかで決まります。

一般的に以下のようなことが言われています。

・誘電体がポリエステルの物は50年代から60年代のアンプに合う。
 ( Fender でいうとツイードからブラックフェース)に使われた。
・SOZO の Yellow Mastered は  Marshall や VOX の回路と相性が良い。
・ Fender には Orange Drop が相性が良い。
などです。

しかし、これはあくまで一般論です。信じて疑わず、全てのコンデンサーをある一つの銘柄やひとつの誘電体のものにしても、当時のヴィンテージの音は再現できません。なぜなら現在販売されているどんなコンデンサーも決して昔のコンデンサーと全く同じ癖を持っていないからです。

Hi-Fi なポリプロピレンはカップリング・コンデンサーとしての性能が
良いと考えられます。Hi-Fi ということは癖が少なく周波数特性が均一であるということです。
いろんなコンデンサー・メーカーがこぞって生産しています。
ちなみにオーディオ・アンプ用の部品屋さんが売っているコンデンサーの主流はポレプロピレンです。

セラミックディスクは60年代に Fender で使われていました。
特にブラウンフェースやブラックフェースには必ず、
肝心かなめの一箇所にだけ使われていました。
他の大部分は Blue Molded なのにその部分だけはセラミックです。
Leo Fender はコンデンサーの誘電体の違いによる音質の違いを
使い分けていたということですね。

どの部位に使うかによりその才能の発揮の仕方が異なる良い例です。

写真のコンデンサーはどれを使ってもそれなりの良い音がするものだけを
集めています。
同じ値0.02μのコンデンサー各種
【エレキギターのコンデンサーは音を通すのではなく音を削っている】
少しアンプの話から脱線します。

エレキギターのトーンコントロールにもコンデンサーが使われています。
ギター回路の概略図が下です。ピックアップの出力は赤色で直接ボリューム
に入り、シールドへ送られます。同時にトーンコントロールに繋がっています。
トーンコントロールに付いているコンデンサーはグラウンドに繋がっています。

楽器屋さんのギター解説記事を読んでいると、
ピックアップの出力がコンデンサーを通過してから出力されるような表現をよくみかけます。つまりカップリング・コンデンサーであるような書き方です。あれは厳密には間違いです。
Electric Guitar circuit concept diagram
ギターの場合、ジャックから出力される信号はコンデンサーを通過していません。下の図で、左端のカールした模様のような記号はピックアップのコイルを表し、右向きの赤い矢印の先にボリュームとジャックがあります。
ピックアップの信号は右向きの矢印の方向に流れていきボリュームヘ向かいます。
そのときトーンコントロール(R と書いたギサギザ) のポットの先に付いているコンデンサーから少しだけ音を削っています。つまりギターのコンデンサーを通過した音は全部捨てられるのです。ギタリストが効いているサウンドはコンデンサーを通過しなかった(削られなかった)音です。(赤色矢印)

full up the tone control
トーンを上げたときはコンデンサーへの抵抗値が高く、コンデンサーで
削られる音の量は極小です。全く削られないのではなく、
ごくわずか削られます。そしてコンデンサーを通過しなかった音がアンプへ
出力されます。(赤い矢印の方向)

トーンを絞ると、削られる音の量は増えます。緑の矢印が削られる音です。高域ほどたくさん削られます。中・低域の削られる量は小なめでコンデンサーの大きさが大きいほど削られる低域の周波が低くなってきます。トーンを絞るとコンデンサーで削る音の量が増えモコモコとして高域の少ない音になります。

コンデンサーを通過した音(緑の矢印) は捨てられます。


コンデンサーとしての性能が優秀なもの、例えば誘電体がポリプロピレンのものを使うと、忠実に音をたくさん捨てることになります。
zero down the tone control

オイル・ペーパー・コンデンサーは通過させる周波数にムラが出ます。つまり、Hi-Fi なポリプロピレンに比べると癖があるといえます。なにせオイルという液状のものを染みこませた紙が誘電体に使われているのだから、感覚的に捕らえやすいでしょう。
オイル・ペーパー・コンデンサーはポリプロピレンに比べ、捨てる周波数にムラがあり、性能の良いコンデンサーであれば忠実に捨てられてしまう周波数の音が削られずに残されてジャックから出てくるということなんです。バンブルビーも同じです。セラミックディスクも癖があります。

そろそろ言いたいことを書きましょう。コンデンサーとして性能の良いコンデンサーはギターのトーン・コントロールに使うと、音が削られすぎて曇った音になります。コンデンサーとしての性能がいまいちのコンデンサーほど忠実に音を削らないので、巷で言われる「良い音」がするのです。

では、安いギターに付いている小さくて黄色いコンデンサーの音が悪いのは?
あれは性能の悪いコンデンサーではないの ?
いえいえ、耐圧が低いので小さい。耐圧の低いコンデンサーは安価で製造できてしまい、値段が安いだけなのです。
耐圧の低いコンデンサーはギターのピックアップのように低い電圧( 1V にも満たない電圧)で使うと、高性能を発揮します。耐圧を高くするための工夫が不要なため、コンデンサー本来の性能が低い電圧のときにに発揮しやすいのです。それでトーン回路に使うと忠実に音を削る。そうです。低い電圧のときに高性能を発揮するコンデンサーだからギターのトーンに使うと音が悪い。

パラドックスですね。

じゃあ、コンデンサー無しにしてピックアップの音を全く削らないとどうなるのか。
今度は音圧はあり、元気であるものの電気的で少し無骨な音になってしまいます。
やはり何らかの周波数は削ってほしい。でもその削り方に個性がほしいということですね。

オイルコンデンサーやバンブルビーは超高値で売られています。コンデンサーとしての性能が良いから高いのではなくて、コンデンサーとしての性質に癖があってその癖にお金を払っているのですね。
よく楽器屋さんでオレンジドロップのコンデンサーも高値で売られています。オレンジドロップがギタリストの間で有名になり、ギターのトーンに使う人がたくさん買うようになり需要があるから売っている。

一方で、ギターアンプのカップリング・コンデンサーとしてオレンジドロップがよく使われるのは、コンデンサーとしての性能が良いからなんです。つまり、信号が通過するとき、変な癖があまり出ず素直に信号を通過させてくれる。715P や 716P ほどこの性能が良いコンデンサーです。美しいクリーンを信条とする Fender アンプと相性が良い。繰り返しますが、だからといってアンプの回路の全てのカップリング・コンデンサーを 715P や 716Pにすると音に色気がなくなってしまいます。特定の回路部分に使うのが正解です。
どの部分に使うと良いのかは、アンプのコンデンサーを色々変えてサウンドを試す実験をしてみればすぐに身に付きます。人にこうだと言われた知識と異なり、実験して得た知識が技術となります。 

脱線終わり。

3種類に絞り込んだ後で、容量の実測も参考にし決定します。

【抵抗について】
抵抗もカーボン・コンポジット抵抗、カーボン・皮膜抵抗、金属皮膜抵抗、酸化金属皮膜抵抗、セラミックコンポジション抵抗とさまざまな種類があります。
用途、つまりとどの部分に使うとよいのかが決まります。またメーカーによっても特性の差があります。
Fender アンプの信号回路にはカーボン・コンポジットが良いと感じています。
カーボン皮膜抵抗はMarshall の回路には合います。しかし、 Fenderに使うと音が薄っぺらく迫力が少ないと感じます。
金属皮膜抵抗や酸化金属抵抗を信号回路に使う場合、チャンネル切替のあるハイゲイン回路の付いているアンプには合います。Marshall や Fender では高域にキンキンと癖が出ると感じています。これはあくまで信号回路に限ったことです。また信号回路の中でも、どんな材質の抵抗でも音はあまり変化しない部分もあります。

電源回路になると事情が変わります。Fenderのヴィンテージではカーボンコンポジットの 1W が使われていた部分 ではセラミック抵抗が良い音がするように思います。 カーボン・コンポジットの 1W でも音質は良いものの、耐久性に問題が出ます。カーボン・コンポジットは高い電圧の場所に使うと経年変化で抵抗値が高くなっていくという性質があるからです。
金属抵抗や酸化金属でも音質がキープでき、耐久性はカーボン・コンポジツトより勝ります。

信号回路に使うカーボン・コンポジット抵抗を使う上での注意点は使う場所と、その抵抗の値です。
5% から 10% のバラツキがあります。たとえば5% 誤差の 220KΩの抵抗を購入すると209KΩ~231KΩの間でバラツイテいます。ピッタリ 220KΩだけを使うのではありません。
回路のある場所には高めを使い、ある場所には低めを使うということで目指す音質により近づけることが可能です。私はカーボン・コンポジット抵抗を仕入れるたびに抵抗の値を元に選別し、保管しています。

カーボン・コンポジット抵抗の抵抗値を実測し選別しているところ

上段: 購入した時点の抵抗の接続リード
下段: 酸化物を取り除いた接続リード  
抵抗を測定し、選別し、いよいよアンプの回路にハンダ付けするとき、そのままハンダ付けしていませんか? 上の写真の抵抗の足(リード)に注目してみてください。分かりやすいように拡大した写真が下の写真です。

抵抗のリードの拡大写真
購入した時点ではリード線に酸化物が付着しています。酸化物とは、リード線の金属の一部が酸化したもの。酸化とは金属の元素と酸素とが結合してできる不純物。酸素があるところでは必ず発生します。人間が生きていける場所では金属は必ず酸化し、劣化していく宿命です。
まして高温の状態では酸化は加速されます。

ハンダ付けのときハンダにはフラックスが含まれています。このフラックスには酸化物を除去する働きがあります。しかし、完全に酸化物を除去するハンダ付けをマスターするには時間がかかります。マスターしていても、毎回毎回、アンプ一台で数百箇所に及ぶハンダ箇所全てに酸化物の残留はないと言い切れるでしょうか。
フラックス溶剤で除去できるとはいえ、もしも酸化物が残留したままハンダ付けされてしまったらどうなるでしょうか。ハンダ付けの内部、つまり部品A の接点と部品Bの接点の間に酸化物が混入してしまうと、ハンダ付けした時点ではなんの問題もなく電気的な抵抗はゼロです。
しかし、経年変化、つまり時間が経過すると混入した酸化物のまわりに電気がよく流れる部分と流れにくい部分の差が広がり、最終的にはその部分の発熱が大きくなり、ハンダ付け部分の接触不良を起こしてしまいます。

このような長期にわたる信頼性の観点から、念のために新品部品のリード線は全て酸化物を取り除いてからハンダ付けしています。
抵抗だけでなく、コンデンサーのリード線も、ポットの端子もジャックの端子も全てです。
写真の下側のリード線が酸化物除去の工程の後のリード線です。ピカピカにしています。

この工程は何百個という部品のリード線全てについて実施します。

コンデンサーと抵抗についてのお話でした。
良きギターライフを。