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2022年6月4日土曜日

2510 DP (Dual Pre)

 ギャンプスのオリジナルアンプ 2510 にはプロトタイプが存在します。

2510 に関するブログ記事

2510 OD を完成させるために製作した試作機がプロトタイプです。
プロタイプは不要な機能があったり、必要な機能がなかったりと
そのままでは使いずらいアンプでした。
今回は、このプロトタイプを「使えるアンプ」にリニューアル
することにしました。

① Reverb 外します 
 AB763 回路をベースとし、きめ細かなハンドワイアード配線を施すと、豊富で潤沢な倍音に恵まれるアンプになります。このことがある種「リバーブ感」という言葉のとおり豊かな響きを生み出し、敢えてスプリング・リバーブを通さなくても音創りが可能となります。
スプリング・リバーブが付いていると、多少雑に弾いてもそこそこの音質が出せてしまいます。言い方を変えると音の個性が均質化される方向に行きます。弾き手の個性やギターの個性が生かされずらいという欠点があるため、リバーブは外すことにしました。
特に練習用アンプとして使用する場合、このことはとても重要です。音が均質化され、下手に弾いてもその欠点が隠されてしまうと上達の妨げとなります。

② 2つのプリアンプを作り、各々独立したボリュームとトーンコントロールを持たせます。
③ 2つのプリアンプ間をフットスイッチで切り替えられるようにし、ライブでの操作性を向上し、使い勝手を高めます。
Volume, Treble, Bass, Middle, Master Volume の6つのコントロールつまみを2重化し、瞬時にA から B へ、B から A に切り替えられるようにします。
随分前に、あるギタールシアーさんから「2つのマスターボリュームをスイッチングで使い分けられないか」という相談を受けたことがあります。小さめの音で弾いているリズムギターの音質をできるだけ変えず、マスターだけ上げた音圧でリードをとりたいということでした。(そのときは既成のアンプの改造というテーマでオリジナルアンプのように設計自由度が低くお断りしました。)
今回はギャンプス・オリジナルアンプであり、チャンネル毎にマスターもスイッチできるようにしています。そのため、あらかじめチャンネルAとBとで同じ音質になるようにトーンスタックを微調整しておけば、マスターの差だけを味わうことも可能となりました。


front view of 2510 prototype
2510 プロトタイプのキャビネットはそのまま流用


下の写真のように上側(白ノブ) がチャンネル A 下側( 茶色ノブ) がチャンネル Bで上下2列にポットを配列しました。
変更後のコンパネは 5つのツマミが2列に並ぶ
コントロールパネルの MOD

約2ヶ月かけてじっくりと回路の Modify を行いました。
元の回路とMOD 後の回路
回路のMOD

回路の変更部分を写真上にマークアップ
MOD後の回路
5月31日に完成しました。

当アンプはもうプロトタイプではなくなりました。
モデル名は 2510 DP ( Dual Pre ) です。
音は後日 Youtube にアップします。

狭いスペースに少し回路を詰め込みすぎました。
2つのプリアンプのコントロールノブ 全部で10個を搭載するにはシャーシーのスペースに余裕がなくレイアウト設計的にみると少し問題があります。
結果として 2510 OD にくらべ若干ノイズが多めとなってしまいました。

そのこともあり、当アンプは現在は非売品です。

私のギター練習のお供とします。

2022年1月23日日曜日

Original Guitar Amplifier Model-2510 Part 2.

 オリジナル・アンプ Model 2510 Part-2 回路設計・製作


GAMPS 2510-OD all tube hand wired guitar amplifier
#GAMPS #ギャンプス #ギターアンプ

2. 回路設計・製作

Part 1でキャビネットを製作しました。
こちらはアンプの回路部分の設計と製作をします。
front view of 2510 OD
2510 OD のフロントビュー

アンプの構想

どんなアンプにするのか、半年かけて構想を練りました。
構想と書くとカッコイイですね。しかし実態は「どんなアンプ作ろうかっなー、こんなんにしたら楽しいかな ?  こんなアンプにしたらユニークかな?  色はこんな色にしよかなー ? キャビネットの形はツイードのそれかな? スピーカーは何インチにしようかな? 」なんてーことをね、飽きもせずに考えてただけです。 

<例えば過去のアンプの構想> 
Single Jingle (シングルジングル) の場合、楽器屋さんに持ち運んで買いたいギターの試奏に使う。ライブハウスでも使える音圧も持ち合わせている。すぐに歪み始めるチャンプではなく、クリーン音の大きいアンプなのに、シングル・アンプ( パワー真空管 1本だけでパワーアンプを構成する)にして軽量化する。機能は超シンプルに Volume と Tone の2つにするというコンセプトでした。これ結構うけたみたいで、いまでも欲しいという人はおられます。気まぐれでゴメンなさい、また作るかも、作らないかも。

Browny G3( ブラウニー G3 ) は Fender のブラウン・フェース・デラックスの回路を基に、暖かい音質を継承しつつ、ヘッドルームをかせぐ工夫をし、ブラウンフェース特有の温かみのあるサウンドを持ちつつジャズにも使えるアンプにすること、というコンセプトでした。ブラックフェースのデラリバはよくあるけれどブラウンフェース・デラックスはなかなか世に(日本に)出回っていないというのも作ろうと思った理由のひとつです。もっと作っても良いモデルかもしれません。でも、新しいアンプ作りのほうに時間を使いたいと思い、今はお休み。

上の2機種は共にキャビネット専門家に作ってもらったグリーンのトーレックス貼りのキャビネットを使っていました。

今回は、
キャビネットは自作です。
加えて、機能に少し工夫をこらしたいと考えました。
自分なりに盛り込む機能を考えました。しかし、どんな機能が必要とされているのか他の人の意見をもらうことも大切だと思いました。
私は自分の考えをどんどん推し進めていくところがあり、カミさんに良く注意されます。「それはあなたの意見であって、他人はそんな風に考えて行動したり感じたりしないかも」と……一方で、単純に「どんなアンプが欲しいですか」とオープンに人に尋ねたとします。聞かれた側はどんどん夢を膨らませ、とてもじゃないけど私が実現不可能な要望も出てきてしまいます。
現実的な要望を上手に教えてもらう方法はないだろうかと考えました。
その結果、私が良かれと思う機能を持たせた実物のアンプを試作し、それを触り使いながら意見を出してもらうと良いのではないかというアイデアを思いつきました。

プロト・タイプのアンプをこの目的のために新規に製作する必要があり、早速製作しました。演奏現場でしばらく使用してもらい、その後にご意見とフィードバックを得ることにしました。プロトタイプ製作をし、実際に使ってもらい、フィードバックをもらうまでに、構想をスタートしてから一年かかりました。

実際にご意見やフィードバックを得てみると、自分が使えると思っていた機能が不要であったり、自分が不要だと思っていた機能が必要であったりし、目から鱗でした。プロトタイプを作って大正解でした。

今回のプロトタイプの評価はプロミュージシャンの田井さんに多大なご協力をいただきました。


Front view of 2510 Proto type
2510 プロトタイプ

rear view with back panel removed
2510 プロトタイプの回路

ちなみにプロトタイプのアンプはこんな音でした。
田井さんの動画を貼りました。


プロトタイプで得たフィードバックと私が作りたいと思うアンプのイメージをマッチさせ、今回のアンプのコンセプトが決まりました。

GAMPS Model 2510-OD のコンセプト

1. トーンコントロールはトレブル、バスだけでなくミドルも付ける
2. リバーブ機能は付けない
3. OD 回路を付ける ( 70's Dumble ODの回路を参考)
4. ノーマルとOD との切り替えはフットスイッチにする
5. ノーマルとODの切り替えノイズが出ないようにする
6. マスター・ボリュームをつける
   ( プリアンプのゲイン高くしても音量を抑えることができる)
7. オールチューブの持つ暖かいサウンドは今までどおり大切に
8. ブルースやロックにも使えるしジャズにも使えること
9. ワット数は25W近辺。音の抜けが良くライブで使えること
10. 手で持ち運べる重さをキープする(疲れない重さ)

以上のコンセプトを基に、数ヶ月かけ、回路図を設計しました。

回路設計

回路図を描いていきます。
抵抗はギザギザ、コンデンサーは二本の線で抽象的に表した絵です。

概念としては、入力されたギターの電気信号を複数回増幅する間にどのような増幅の色付けをして最後にスピーカー出力するのかを表したものです。
パワーアンプの増幅段はひとつで、プリアンプの増幅段は複数あるのが普通です。プリアンプの増幅段が多いほど倍音は多く付加されます。多すぎると原音から離れていきますし、少なすぎると無機質な音になります。各増幅段に使う抵抗やコンデンサーの値も含めて、良いころ合い加減に落とし込む匙加減(さじかげん)を考えることが楽しい作業です。

もっと細かい匙加減の話をします。
カーボン・コンポジット抵抗は 10% のバラツキがあります。仮に100KΩの抵抗を100本ほど購入すると90KΩから110KΩの間でバラツイテいます。回路図で100KΩと書いておくものの、製作時には 110KΩ 寄りの少し高い値を使ってゲインを上げ気味にしたり、90KΩ寄りの低い値を使ってゲインを抑えてくっきりとした音質寄りにしたりと微妙に調整することも可能です。製作時点、回路ボードに抵抗をハンダ付する時点で抵抗値を実測し、その値を回路図に書き足しておきます。こうすることで2台目以降を作る際の音の再現性を確保します。

ちょっと待って、少しエエカッコしてしまいました。この匙加減は万人がちょこっと聴くだけでわかるほど大きなサウンドの差がつくものではありません。微妙なものです。私自身の自己満足が大きいです。

匙加減を考えながら回路図を描いているのは、この時間が私にとって最も楽しい時間だから。妄想に胸躍らせる対象がアンプの抵抗値とコンデンサーの材質と配線材の被膜や芯線の材質や構造なんです。若い頃はもっと異なるものが妄想対象でした。
自己満足ですね。ゴメンナサイ。

参考:
1960年代から1980年代ごろまでの Fender のアンプには印刷された回路図が添付されていました。「ユーザーがメンテナンスするときに参照できるよう」にという DIY の考えの進んだ古き良きアメリカ企業としての責任感とユーザーへの配慮ですね。
Circuit diagram is written using PC
PC を使い回路図面製作

レイアウト設計

回路図を描き終わったら今度は実際に回路部品をどういう風にボード上に並べて配線するのかを示すレイアウト図面を描きます。

レイアウト設計についての詳しい解説は レイアウト設計の記事 を参照してください。

簡単に言うと部品と部品との位置関係、距離、並べる方向によって、変なノイズが出たり、発振して汚い音になったりしてしまうという事実があります。電気的に結合( 電磁誘導etc )することで起こります。そうならないように部品の配置を考えて設計することです。

ギターアンプのレイアウトはキャビネット内のスピーカーとトランス、回路、との位置関係や、複数あるトランスとトランスの向きや距離の関係、そして抵抗・コンデンサー・配線・ポット・真空管ソケット相互の位置関係の全てに当てはまります。

Picture of 2510 layout schematics
回路図(左) を レイアウト図に落とし込む

この回路レイアウト図、つまり抵抗・コンデンサー・ポットの位置関係と配線の繋がりを描いたレイアウト図も Fender アンプは公開しています。ブラックフェース期、シルバーフェース期のアンプを買うとアンプ中に回路図と一緒にレイアウト図も添付されていました。
下の添付参照
Fender Bandmaster のレイアウト図

ギャンプス 2510のレイアウト図としてはFender と同じような図面も書きました。しかし、それとは別に、大きめの画用紙を使い、主にトランス、真空管ソケット、スイッチやポット類の正確な位置関係を実寸で描いています。この実寸レイアウト図をシャーシーに転写し、正確な位置にシャーシーの穴あけをするのに使用します。

この実寸レイアウト図面を作っていなかったときは、
回路ボード取り付けのネジ穴をあけようとしたら、裏側のトランスが邪魔で穴があけられなかったり、ポットを最後にとりつけようとしたら、ポットの厚みを計算していなくて回路ボードの部品にあたってポットが付けられなかったりという基本的なミスを経験しました。

回路図に比べレイアウト図を書く作業はそんなに楽しくありません。
妄想する部分は一切なく、位置関係を正確に表すことが求められるから。
Pot layout and transformer layout on the chassis
2510 layout 

シャーシーに穴あけしてしまう前にレイアウト図を使って問題がないかの検証を入念に行います。
スイッチ、ポット、ソケット部品等は実物を使い、トランスは切り抜き型を使い、レイアウト図面上に並べ、不要な重なりがないか、干渉しあわないか、を物理的観点と電磁的結合の観点の両面から検証し(ああでもないこうでもないと空想すること)、必要であればレイアウト図を書き直しつつレイアウト図を完成させていきます。
過去に何回もの失敗があり現在に至っています。

物理的観点の例: アンプ部をキャビネットにネジ留めしようとすると出力トランスがスピーカーのマグネットにあたって取り付けられない経験もありました。

電磁結合の例: テストで音出しをすると低音弦で変なビビリ音が出ました。色々な原因を探り約一週間悩みました。結果、スピーカーの端子と電源トランス間の距離が近すぎて、電磁結合していました。距離を離して解決しました。
実際の部品やトランス切り抜き型を使いレイアウト図の検証をしている
レイアウト図の検証

回路ボードの製作

回路ボード用のレイアウト図をフェノール樹脂の板に直接貼り付けます。部品のハンダ付けのためのアイレットを打ち込む場所をドリルで穴あけします。穴あけが済んだらレイアウトを切り離し、アイレットを穴に打ち込みます。こうして回路ボードを製作していきます。
Drilling circuit board for eyelet holes
回路ボードのドリル穴開け

2510 OD はノーマルとブーストの切り替えにフットスイッチで作動するリレーを使います。リレー用のソケットを組み込んだ回路ボードを今回は製作しました。
small circuit board
5V リレー用のボード

シャーシーの穴あけ

シャーシーは厚さ 1.5mm のアルミニュウム製を使います。
鉄製のシャーシーにすると剛性が高くしっかりとする長所の反面、
重量がかさみます。
アルミにすると軽くできると共にシールド性能は鉄よりも優れます。
また鉄よりも加工しやすく、穴あけも楽にできます。
欠点としては鉄よりも華奢で変形しやすく、
搭載できるトランスの重さに限度があることです。

金属は一旦穴をあけてしまうと補正がききません。
慎重に作成したレイアウト図面はこのためにも必要です。
シャーシーに穴あけ中
シャーシーへの穴あけの様子

トランス、ソケット、ポット、スイッチのシャーシーへの取り付け

軽い部品から取り付けていき、重量のあるトランスは最後に取り付けます。始めにトランスを取り付けてしまうとシャーシーの取り回しがつらくなります。
トランス、ボックスコンデンサー、真空管ソケットを取り付けたところ
シャーシーへの部品取り付け

回路ボードへの部品のハンダ付

回路ボードの穴にアイレット( eylet ) 金具を打ち付けます。アイレット(eyelet) はブラス金属(真鍮)で出来ている穴のあいたリベットで、ハンダの乗りを良くするメッキがされています。アイレット(eyelet) に抵抗やコンデンサーの端子と配線材の端を入れてハンダ付けすることで回路の配線をしていきます。
Resistors, capacitors and wires are soldered on the eyelets of the board
回路ボード上に部品を載せてアイレット部分でハンダ付

ギャンプスのオリジナル・アンプの全てのモデルの回路ボードには、厚さ1mm幅10mmの銅の平棒をグラウンド・バスとして搭載しています。
ギターアンプのハムノイズの大きさは回路のグラウンド配線の良し悪しで決まります。厚く幅の広い銅の平棒を使うのは安定したグラウンド配線のための自分なりの工夫です。

部品のハンダ付けを済ませた回路ボードをシャーシーに取り付けます。
シャーシーに回路ボードを載せたところ
回路ボードをシャーシーに取り付け

回路ボードとポット、真空管ソケットとの接続

回路ボードとポットとの間、回路ボードと真空管ソケットの間を配線材で接続していきます。

配線材の被膜の材質の違い、芯線の太さ、単芯か撚り線かの芯線のタイプ、芯線のメッキのタイプ、によってさまざまな配線材が存在します。またオーディオ屋さんたちの間ではしきりに Western Electric ( WE ) のヴィンテージワイアーの音が良いという話がされています。自分の中ではこれをここに使うという内々の決まり、規則みたいなものがあることはあります。
しかし、昨日まで「この部分の配線材はこれに限る。この配線の音が一番」と思っていても、たまたま異なる配線材を試すチャンスがあり、その配線材が一番になってしまうということがよく起こります。そういう意味では「日々研究中で結論は出ていません」というのがここでは正しい。配線材にも自己満足の世界が広がっています。
ポットと回路ボードとの接続
ポットと回路ボードの接続作業

配線の完成したシャーシー
配線完了したシャーシー

フットスイッチの製作

ノーマル回路とブースト(OD) 回路のスイッチング用のフットスイツチを作製します。アルミダイキャストにあなを開け、フットスイッチを取り付け配線材を取り付けます。このフットスイッチに使う配線材は細いけど切れにくいものを使います。
フットスイッチの組み立て
フットスイッチの部品

フットスイッチの配線完了
フットスイッチの配線

スピーカーのキャビネットへ搭載とスピーカーケーブルの取り付け

2510 は 10インチスピーカーをメインに据え、Jensen JCH10/70 を搭載します。
写真の 2インチと 4インチの小型スピーカーは Eminence 製で、アッテネート時に鳴らします。
写真に写っている小さいアルミ箱にはトグルスイッチが付いています。このスイッチを右に倒しておくと通常モードで右の10インチが鳴ります。自宅で練習するときに、うるさいと言われたくないようなときはスイッチを左に倒します。小型スピーカー・モードになり、これで練習します。スピーカーの口径を小さくするとうるささは半減します。しかもサウンドはクリアでアッテネーターだけを使ったときのような音の濁りはなく、アンプのボリュームを絞っても満足な明良感が残ります。
キャビネットにスピーカーを取り付け
スピーカー、スピーカーケーブル、トグルスイッチ

バイアス調整と微調整

アンプの回路に真空管を入れてバイアス調整しています。
真空管を入れてバイアス調整
真空管を入れてバイアス調整
シャーシーをキャビネットに取り付け、テスト試奏を繰り返し、詳細に微調整( 抵抗の値の増減やトリムポット調整等) をして完成です。

GAMPS 2510-OD のスペック(仕様)

GAMPS 2510-OD の仕様は以下のようになっています
1) All tube hand wired circuit ハンドワイアード真空管アンプ
2) 真空管タイプと回路形式(タイプ)
 パワーアンプ: 6V6GT x2  ( 固定バイアス、プッシュプル )
 フェーズインバーター: 12AX7  ( Cathodyne 方式 )          
   OD ブースター : 12AU7  (70 Dumble OD タイプ )         
 プリアンプ : 12AX7 ( Fender タイプ )     
3) ダイオード整流
4) スピーカー 
 10インチ x1  Jensen JCH 10 /70  メイン・スピーカー
    4インチ x1 Eminence アッテネート時に使用
    2インチ x1 Eminence アッテネート時に使用
2510-OD のバックパネルを外してた写真
2510-OD の回路、真空管、スピーカー


プリアンプの増幅回路について

プリアンプ回路は Fender のプリアンプ回路形式と似ています。
回路部分
2510-OD 回路
Middle ポットがあるため、BF Twin Reverb やポールリベラの設計した Concert II などのプリアンプ回路に似ています。デッドコピーではなく、少しずつ値や接続が独自です。ポットの値は Marshall 寄りで少し大きい値、増幅回路は Fender の回路寄り。

フェーズインバーター Phase Inverter 回路

フェーズインバーター回路は大きく2つの方式があります。
Long tail Pair という方式と Cathodyne という方式

デラックスリバーブ、ヴァイブロラックスリバーブ、ツインリバーブ等
は Long Tail Pair という方式で増幅素子2個を使います。
上の波形と下の波形で別々の独立した増幅素子でフェーズインバートします。この回路を通すと信号のゲインは約4割増加されます。

それに対し、プリンストンリバーブや 57 ツイン等は Cathodyne 方式。一つの増幅素子のプレート部分で上の波形、カソード部分で下の波形を作りフェーズインバートします。この回路を通しても信号のゲインはほとんど増えません。

ギャンプスの Browny G3 と Green Reverb は Long Tail Pair です。
今回 2510-ODは Cathodyne 方式を採用しました。
OD 回路でブーストしたときのトータルゲインが上がりすぎないようするため、ゲイン増加のほとんど無い Cathodyne にしています。

使用する真空管の銘柄

真空管は現在生産されている現行管です。
Electro-Harmonix 6V6GT = パワーアンプ
JJ ECC83MG = フェーズインバーター
Electro-Harmonix ECC82 = OD ブースト
Tung-sol 12AX7 = プリアンプ

私が思う適材適所です。これをお勧めするわけではありません。
私の自己満足と思ってください。
最低限度の品質は必要です。新品なのに真空管の足が金属のつるつる感が無くてガサガサ、ザラザラしているようなものを作るメーカーはお勧めしませんし、使いません。
RCA でも無いのに RCA のオレンジ色とはほど遠い真っ赤な刻印を使ってRCA と書いてあるものも使いませんし、使わないことをお勧めします。
2510-OD に使用する真空管の箱
2510-OD に使用する真空管の外箱

コントロール・パネル

左から Input ジャック、ボリューム、トレブル、ミドル、バス。次にフットスイッチ・ジャック、赤色OD インディケーターLED、OD レベル、マスターボリュームと並びます。右端上がスタンバイスイッチ、下がパワースイッチ兼パイロットランプ(グリーン)です。
Face Plate は無く、アルミシャーシーに文字を直接刻印しています。

Control Panel view
コントロールパネル、無垢のアルミに文字刻印

OD 回路

OD 回路は 70年代のDumble Overdrive のドライブ回路にヒントを得ています。一本のプリ管内の2個の増幅素子を使いブーストさせます。 Dumble は 12AX7 を使っていますが、2510-OD は 12AU7 を使っています。ゲインの大人しい管を使い、暴れない落ち着いたドライブ、いわゆるクリーンブーストを実現しています。
ブースト回路のオン・オフはオムロン5V リレーを使い、フットスイッチでオン・オフします。

ブースト回路の入り口と出口には信号の大きさを調節できるトリム・ポットを付けています。Dumble Overdrive と同じ仕様です。このトリムポットを上げ今よりもダーティーな激しい歪みにすることもできます。わずかな上げ下げで敏感にOD サウンドが変化し、精密な調整が必要です。出荷時点では私の好みのクリーンブーストにセッティングしてあります。
OD 用リレーと内部調整トリムポットの写真
OD のスイッチングリレーとトリムポット

2510-OD の正面写真
Front view of GAMPS 2510-OD all tube hand wired guitar amplifier

2510-OD の背面 バックパネル
Rear View of GAMPS 2510-OD all tube hand wired guitar amplifier

GAMPS 2510-OD all tube hand wired guitar amplifier
#GAMPS #ギャンプス #ギターアンプ

サウンド・サンプル

サウンド・サンプルとして田井さんによるデモを貼っておきます。


こちらはギャンプスのオリジナル・デモです。途中の OD 切り替え時に手でフットスイッチを押しています。足で踏んで切り替えが可能です。





2022年1月20日木曜日

Original Guitar Amplifier Model-2510 Part 1.

 オリジナル・アンプ Model 2510  Part-1

1. キャビネットの製作

新アンプは、キャビネットも自主製作です。
コロナ禍で外出を自粛、家に籠った事が幸いしました。
Cabinet naked ( before painting )
2510 Cabinet


キャビネット製作時に考慮すべきポイント

キャビネットはスピーカーとアンプを取り付けるための箱です。
単なる箱でなく、以下のことが必要です。

a) 回路とスピーカーの距離や位置関係を適正にした構造。
 キャビネットの構造(3次元的位置関係) が良くないと、
 回路を載せ音を出すと発振やノイズに悩まされることがあります。
 キャビネットを大きくするとゆったりと配置できます。
 すると大きすぎて持ち運べない。
 コンパクトでありつつスピーカー、トランス、シャーシー間の配置
 に余裕を持たせられる構造を考えます。

b) 総重量15kg以上のアンプ部を安定に保持できること。
 ぐらつきが出たりキャビネットがたわんだりすると、
 スピーカー振動で共振し、耳障りなノイズとなります。

c) スピーカーを載せるバッフルボード自体は振動しにくいこと。 
 スピーカーを搭載する穴あきバッフルボードが振動しやすいと
 スピーカーの振動エネルギーを吸収してしまい、音圧が下がります。
 硬くて重くて厚みのある板が理想です。
 理想通りにすると重すぎて持ち運べなくなってしまいます。

d) 持ち運べる事。
 上記 a) b) c) を満足させる事だけ考えて作ると
 大きくて重いキャビネットになり持ち運べなくなります。
 キャビネット重量はなるべく軽くしたい、
 そうすると a) b) c)が不満足となってしまう。
 ノイズや共振の出ない良い音である事と
 持ち運びできる重さと大きさである事の
 両立をめざした調和をとるのがとても難しいのです。

「パイン材の一枚板が良い」とかの板材へのこだわりを耳にします。
ファルカタ材やバルサ材等の軽過ぎて振動しやすく、強度も無く割れやすい材は不向きです。それ以外の、ある程度の強度のある板材であれば、たとえパインでなくとも、たとえ一枚板ではなく合板であっても、しっかりとした構造で強度の出る組み立て方をすれば十分使えます。

板と板を直角に張り合わせることが製作の基本です。

釘を使って張り合わせると横方向の力に弱く変形することがあります。
ギャンプス(GAMPS) オリジナルアンプのキャビネットは全て
日本語で「通しアリ溝」英語では「Finger Joint( フィンガージョイント)」と呼ばれる方式で組み立てました。この方式で箱を作ると堅牢で変形しにくくなり、重いアンプやスピーカーを載せても大丈夫です。
'68 Proreverb Cabinet without tolex
フィンガージョイント (Finger Joint) 方式のキャビネット の例 Fender 68年製 

キャビネット製作に対する、ちょっとした思い入れ

以下の 1) と 2) を意識して製作しました。

1) 板材料は基本的に日本産の木材を使う
日本の山林の木を定期的に切り出して木材として利用していく必要があるのだそうです。木を切らずに放置すると山が荒れ、木が枯れてしまい、炭素定着能力が激減するのだそうです。少しでも日本産の木を使うことで、日本の山が荒れるのを食い止めたいものです。

2) 無害な塗料で塗装する
様々なアレルギーが増えて苦しんでいる人がいます。特に人工的な化学物質が良くない反応を引き起こしています。自家製キャビネットでたくさん使うケミカルは塗料です。合成・人工塗料は使わず自然の有機の塗料を使いたいと思っていました。そこで「赤ちゃんが間違って舐めても毒にはならない塗料」として有名なドイツ製のオスモカラー( Osmo Color )を使うことにしました。

フィンガージョイント

フィンガージョイントは釘を使わず複数の溝の切り込み同士を交互に張り合わせる方式で、強度が高く、余分な振動も起こさず、ギターアンプのキャビネットに最適な方式です。

ツール無しでフィンガージョイントの溝を削るのは至難の技です。
私のように木工の素人にも比較的簡単に溝切できる、ジグがあり、
いつかは使う日がくるであろうと、15年前に購入しておりました。
使う機会がなかなか無く、今回初めて使うことができました。
なんと、もう、このジグを作っていたメーカーはなくなっています。

このツールは簡単に言うと、フィンガージョイントのフィンガーにあたる部分を削りだすための溝が付いたトリマー用のガイド板です。
このガイド板の下に張り合わせる材料 2枚を同時に挟み、溝にならって(沿って)トリマーを稼働させ、木を削ることでジョイント(接合部の溝)が完成します。
Finger joint tool of Verment American
Finger Joint tool
一見簡単そうに見えて、木を削り始める前のセッティングが大事で手間がかかります。セッティングがまずいと木が斜めにいびつに削れ、ジョイントが接合しなくなります。

木工の専門化にこのツールを見てもらい、正しい使い方を探りだしました。近江八幡にある  木工房 yz さんにお世話になりました。工房にこの治具を持ちこみセッティングを解明してもらいました。
ちなみに 木工房 yz さんは私のアンプ回路の作業台であるアンプ・クレイドルを作ってもらったり、GAMPS オリジナルアンプ Green Reverb のキャビネットを製作してもらったりしました。信頼のおける木工房さんです。吉積さんがオーナーなので yz です。自分のオリジナル家具を作ってほしい人は 木工房yz さんに頼んでみると良いですよ。

フィンガージョイントの形状
フィンガージョイントを切った材

フィンガージョイント部の組み立て接着

フィンガージョイント溝を切った板材は釘を使わずに接着材だけで組み上げます。
ジョイント部の精度が悪いと、ジョイント(接合部) がゴソゴソで強度が出なかったり、隙間がきつすぎて、はめ込めなかったりします。ほんの少しだけきつめに溝を切り、その後少しずつ削りながら合わせていくとうまくいきました。

板材を接着し、圧力をかけつつ乾燥しているところ
フィンガージョイントの接合

バッフルボードの製作

次に、バッフルボード(スピーカーを取り付ける穴の開いたボード) を製作します。
写真のターコイズ色の板は30cm, 25cm, 12.5cm, 10cm と色々な口径のスピーカーの穴をあけるためのジグです。このジグの円周をトリマーでなぞり、バッフルボード材にスピーカー穴を開けます。
スピーカー穴開けに使うジグ
スピーカー用のジグ

下の写真はバッフルボードに穴あけをしている様子です。
トリマーで穴あけ
バッフルボードの加工

穴あけの済んだバッフルボード
穴あけの済んだバッフルボード

組み立て

キャビネット本体にバッフルボードをネジ留めします。
バッフルボードとキャビネットの仮組が下の写真です。
塗装前の状態のキャビネット
塗装前のキャビネット
次にバックパネルをネジ留めします。
後姿( Rear View )が下の写真です。
Rear view of gamps 2510 キャビネット
塗装前のキャビネット Rear view

塗装とグリルクロス( grill cloth ) の取り付け

塗装は人体に無害で天然の木材由来の塗料であるオスモカラー( Osmo Color ) を使います。ドイツ製です。
数回に分けて、塗りと乾燥を繰り返し仕上げていきます。
オスモカラーの既成の色に塗りたい色はありませんでした。
数種類のオスモカラーを混ぜ好みの色合いになるように色調整したギャンプスオリジナルの色にして塗りました。ピカピカのグロス仕上げではなくマットな質感にしてカジュアルな感じにしています。

バッフルボードにグリルクロスを貼っています。貼り付け方法は Fender アンプと同じくステープルガンを使い、色模様は黄色っぽい WHEAT にしています。 
塗装した後、グリルクロスを張り完成
正面 2510 OD
バックパネルは本体と異なる色のオスモカラーで塗装しています。こちらはキャビネット本体よりもさらに艶消しにしてあります。
Rear view of the cabinet
リアビュー 2510 OD

以上がギャンプス 2510 OD アンプのキャビネットの製作です。



2019年9月18日水曜日

Parts Layout Design ( アンプのレイアウト設計)


 Introduction


ギターアンプを製作するときに
「最も大切な作業」
それはレイアウト設計です。

レイアウトと言うと
「物を並べるだけ、配置するだけ」
と思われるかもしれません。

しかし、
レイアウト設計をいい加減にした結果、
アンプに問題が起きた場合、後で取り返しがつきません。
どのような後付けの対策をやっても、
いい音で鳴らない危険性があります。

つまり、レイアウトが悪いと、音に影響します。
×  安物コンデンサーのチープな音、
× ハンダ付不良が原因のノイズ等
と同じぐらいもしくはそれ以上に「音に悪い影響」を及ぼします。

部品の問題であれば、
後から部品交換すれば解決できます。
イモハンダならばハンダをやり直せば済みます。
しかし、

レイアウトの失敗は
トランスや真空管ソケットを一旦全部取り外し、
シャーシーの穴あけからやり直す必要があります。
場合によっては、シャーシーの問題ではなくなり、
スピーカーとシャーシーの位置関係の問題となり、
キャビネットの作り直しが必要となることもあります。


電気部品は電磁波を発生させる側
であると同時に、
他が発生させた電磁波の影響を受ける側
でもあります。

電磁波は様々な悪さをします。

不快なノイズを発生させたり、
ギター信号を削って音質低下させたり、
不調とまでは言えないものの、
好ましくない音、色気のない音にしてしまいます。
その原因はレイアウトが悪いことによる
アンプ内での電磁波の干渉のことがあります。

実際に何をレイアウト設計するのかを見ていきましょう。

今回は
1. トランス同士の向きと距離
2. 真空管同士の向きと距離
3.回路部品の並べ方
について述べ
続いてレイアウト設計した実例を載せます。


トランスの向きと隣のトランスとの距離


トランスは強力な電磁波を発生させます。
同時に他のトランスの電磁波の影響を受けやすい部品です。
シャーシーの上にしっかりと固定することに加え、

・どういう向きに載せるか、
・他のトランスとの距離をどのぐらいあけるか、

を考えてレイアウトする必要があります。


Fig1. トランスの向きと放射電磁波の強さの違い
Transformer's megnetic field strength of each direction

Fig 1. の矢印の色の説明
赤色 矢印 = 放出される磁力線が最も大きい方向を表します
黄色 矢印 = 放出される磁力線が中くらいの方向を表します
緑色 矢印 = 放出される磁力線が最も小さい方向を表します


トランスのレイアウト設計で必要なことは以下の4点です。

(a) トランス同士はなるべく距離を離して設置する
  しかし、あまり距離を稼げないときは以下を守る
(b) 出力トランスが電源トランスの影響を受けにくい向き
(c) 出力トランスがチョークトランスの影響を受けにくい向き
(d) チョークトランスが電源トランス に干渉されにくい向きにする

増幅された音を最終的にスピーカーに送りだす、出力トランスは
最も敏感で、干渉されやすいのです。



Two bad layout samples and two good samples
Fig2 メーカーのレイアウト実例



上記のFig2. で色々なアンプメーカーのレイアウトとその良し悪しを
実例として挙げています。参考にしてください。

〇 Fig2. では2種類のアンプのトランスレイアウトが良好です。

この2つのアンプに共通しているのは、
比較的小さい出力であると同時にシンプルな回路で、
十分に余裕のある容量のシャーシーに収めていることです。
出力が小さいとトランスの大きさも小さくなり、
相互干渉しにくくなります。


× Fig2. で好ましくないレイアウトのサンプルとなったアンプは、

60W や100W の大きい出力を 15W用のプリンストンの小型キャビ
に詰め込んでいます。
トランスの容積は増え、大きくなり、トランスとトランスの間隔
を空けられずくっつきすぎとなり、
トランス間の電磁結合が起こりやすい。
加えてブースト機能やラインアウト機能満載の複雑な回路を、
余裕の無い小型シャーシーに詰め込んでいます。
回路部品間の電磁結合も起きやすくなります。

どこも壊れていないのにやたらとノイズが多い原因は
このレイアウトのまずさです。

いくつもの寄生発振対策を施し、配線のシールド化を行って
ようやく、なんとか使えるアンプになります。
( ギャンプスで過去に修理したものにはこの対策が入れてあります)
しかし、この対策も対処療法でしかありません。
固体によっては対策の効かない物も存在します。



上図のアンプ以外では、

20W 以上の出力のコンボアンプのシャーシーの大きさと
部品のレイアウトとは Fender が優秀で良く考えて設計されています。
トランスのレイアウトは〇です。

Marshall について
トランスの配置は問題なくレイアウトは〇です。
でもやたらとノイズが大きい個体があるのは、回路の問題です。
グラウンド配線のまずさが主な原因です。

真空管のレイアウト


真空管と隣の真空管とは向きと距離に気を付ける必要があります。
真空管のレイアウトで気を付けるのは熱干渉です。
ヒーターでわざわざ発熱させて機能を発揮する真空管は、自身の発熱には強い。しかし、さらに隣の真空管の熱が加わると熱しすぎとなり、壊れやすくなります。

そのため特にパワー管は2本並べたときには距離に制限があります。
下図のように
6V6 で 45mm以上、6L6 で52mm 以上、EL34 で 64mm以上離して
設置する必要があります。


また真空管の向きにも基準があります。

Fender や Marshall のように垂直に立てたり、吊るす場合は、
Pin 4 と Pin 8 が隣同士で水平になるようにします。
隣同士が熱干渉しにくい位置関係にします。

VOX の Bass amp や MesaBoogie のラック式パワーアンプのように
横向き(地面と水平)に使う場合は Pin2 と Pin6 が隣同士で水平になる
ように設置します。横向きにする場合は、重力の力でたわみが生じ
いわゆる「熱だれ」で音質低下したり、内部ショートしたり
しやすくなります。内部の金属機構が下にたわまない向き
に設置するための向きです。

12AX7 や 12AT7 などのプリ管の向きについて。
こちらはパワー管ほど神経質にならなくても不具合は
出にくいものの、一応基準は存在します。

Pin 2 と Pin6が直線上に並ぶようにします。
この向きにする目的は熱干渉ではなく、電磁的な信号の結合、
つまり、寄生発振をさせないための位置関係です。


Power tube and pre tube has a rule ofthe orient of installation
真空管のレイアウト規定


抵抗やフィルムコンデンサーのレイアウト

抵抗やフィルムコンデンサーなどの回路素子の並べ方も
よく考えて工夫して部品配置することで、
ノイズや発振の少ない回路にすることができます。

下図にその基本の配置方法を示します。
図中、抵抗で書いてある「置き方の基本」は
フィルムコンデンサーでも同じに当てはまります。

基本は片方の部品からもう片方の部品に信号の飛び火がしない
ようにレイアウトすること。信号が空中で電磁的に結合しない
ようにして、寄生発振を防ぐことです。


余裕のある広い面積にバラバラと部品が置けるのであれば、
それに越したことはないです。しかし、回路の置き場所は
さまざまな制約を受けることがあります。

回路部品のレイアウトもブラックフェース期の Fender が実に
良い手本になります。
元々ラジオ技術者であったレオ・フェンダーが在籍したいた
頃の Fender の作っていたアンプのレイアウト設計はていねい
であり、理にかなっていたということです。
Fender は Reverb や Tremolo という機能があり、
回路的には Bruno や Velocetteよりも複雑で回路部品点数が多い
ものの回路部品のレイアウトは整然としていて問題はありません。
トランスと真空管のレイアウトも狭い空間を上手に利用して正しい位置に置かれています。
注意すべきは配線材の取り回しはブラックフェース期までが良好で、 シルバーフェース以降の機種はオーバーホールして全ての配線材を 交換してはじめて使い物になるサウンドが得られるという事実です。

 同じFender とはいえブースト回路やライン・アウト端子が追加されたモデルは 部品レイアウトに問題があります。何らかの工夫を施してやらないと ノイズの問題や発振の問題が出やすくなります。

プリント基板配線を使った現行 Fender のモデルはレイアウトの観点からは問題ありません。 出音に迫力が感じられなかったり、高域のピークが耳に痛く感じるのは 以下の理由によります。
1. 抵抗・コンデンサー等の回路部品の質
2. トランスそのものの質
3. 配線材の質
4. プリント基板の音響特性



Layout picture
回路部品の並べ方

実際のレイアウト設計


上記に述べたレイアウト設計の基本を守り、アンプを製作します。

まずは、どの程度の出力、どの程度の規模の回路構成かを決めます。
今回の例は
・出力60W
・Fender Bassman 50 規模のベースアンプ
・チャンネルはベースチャンネルひとつだけ

次に特別な要求事項を盛り込みます
・スピーカーはセパレートとしてヘッド部を製作する
・なるべく小型にして持ち運びや置き場所をとらないこと
・オーディオアンプ向けの小型シャーシーを流用する
・そのためFender のレイアウトの流用はできない、
 当アンプ独自のユニークなレイアウトにする


選定したシャーシーの寸法を元にレイアウト図を設計します。

a) トランスのレイアウトを決めるシャーシー上部レイアウト図

b) 回路部品を載せる回路ボードのレイアウト図

この2つのレイアウト図は実際に使うトランスや回路部品の実寸
で作図し、部品間で干渉しないか、取り付けに無理はないか、
レイアウト上に問題が無いかを検証します。
実はこの机上検証にかなりの時間がかかります。
過去の経験に基づき、問題の置きやすい部品・距離・向きを
何度も検証します。


問題があればレイアウト図を作図し直します。
スペースが小さすぎる場合には、シャーシーの選定から
やり直し、問題がなくなるまで試行錯誤してやり直します。

actual layout designing
レイアウト設計


レイアウト設計が完了してはじめてシャーシー穴開けをし、
部品を取り付けていきます。
レイアウト設計時に手を抜くと取り付け時に部品同士が干渉して
取り付けられなかったり、取り付けても操作できなかったりと、
思いもかけない問題にぶちあたります。

curtting of transformer and tube sockets
部品の実装

部品をあらかた付け終わると、次に
回路ボードのレイアウト図に基づいて配線をします。
真空管ソケットから回路ボードまでの配線材の長さやポットから
回路ボードまでの配線の長さも、長すぎると発振したりノイズを
拾ったりしてしまいます。回路ボード設計時点でそれも考慮した
レイアウトに設計にしておくことがとても重要です。

parts view
回路ボード上の電気部品のレイアウト設計 

以上の観点から、レイアウト設計をしてアンプ製作をすると、
かなり窮屈なシャーシーを使っていたとしても発振の無い、
ノイズの少ない良質な音のアンプに仕上げる事が可能となります。

Picture of upperside and bottom side of the Chassis
トランスのレイアウトと部品のレイアウト


スピーカーとシャーシーの相対位置関係

今回はスピーカーとアンプ部の位置関係は解説していません。

しかし、
スピーカーとアンプ部が一つのキャビネットに同居する
コンボタイプのアンプでは、
スピーカー、特にスピーカー端子とアンプとの距離・
位置がアンプのサウンドに大きく影響します。
正常だと信じていても、
音が濁っていたり、変な振動音が混ざっている場合があります。

スピーカーのボイスコイルとアンプのトランスとの間に
電磁干渉が起こっている場合、
音が濁ったり、振動音が出たりします。

「どうすれば防げるのか」については、
当ブログもしくはギャンプスのウェブサイトに掲載した
アンプのオーバーホールの記事に既に掲載してあります。
ご参考までに。