Guitar アンプのシャーシーをキャビネットから外し、回路の修理作業をするとき、必要となるのがアンプを置く台です。英語では Cradle ( ゆりかご) と優しい単語で表現されます。
Weber 製のクレードルにシャーシーを載せたところ |
ギターアンプの回路を収めているシャーシーには必ずトランスが搭載されます。
Single Jingle のシャーシー |
Twin Reverb のシャーシー |
そうするとトランスの頭がテーブルと直に接することになり以下のことが問題となります。
A) トランスに傷をつけてしまう
B) テーブルに接する面が不均衡となり、シャーシーがガタついたり倒れてしまう
【2】簡易対策
シャーシーの底部に発砲スチロールを取り付け作業する Marshall アンプ |
トランスの頭部を発砲スチロールで養生して作業する Fender アンプ |
ところが新たな問題に直面します。
C) 回路部分が水平になってしまう。ハンダ付をしたり、部品搭載するアクセス時には座って作業できず、常に立って作業しないといけない。
回路部品を交換する作業には集中力が必要です。これを立ったままで行うと大きく疲労したり、集中力が途切れてしまいます。特に腰と首が痛くなります。
座ったままでアンプの回路にアクセスしやすいアンプ台が必要となるのです。
【3】アンプクレードルの導入
アンプ・クレードルを使う場合、回路にアクセスしやすい |
あちらこちらネット検索し、当時、米国の Weber で販売されていた アンプクレードルを購入しました。材質はメープルで、価格は当時 $120、 Fedex の輸送料金が $100 かかりました。
クレードルの両端にある L 字型の木製アングルにシャーシーの両端を載せ、L字アングルをスイングさせて固定することにより回路部分と正対して座って作業することができるようになりました。
約10年にわたりこのクレードルのお世話になりました。
【4】Weber 製のクレードルの問題
Weber 製のアンプクレードル |
使い込むに従い Weber のクレードルにもいくつかの使いづらい問題が出てきました。
( 問題1.) L字アングルの角度調整ネジノブとトランスの干渉
シャーシーを傾けて作業しやすくするために L 字型のアングルは回転させることができ、手動でネジを締め付けて任意の位置で固定することが可能です。ところがこの手で締め付ける大きめの取っ手がクレードルの内側にあり、アンプのタイプによっては取っ手とトランスが干渉しあい、シャーシーがうまく L字アングルに載らないことがあるのです。
真の原因はネジを止めるためのナット(鬼爪ナット)が端にある壁板に付いていることです。L字アングルにナットが埋め込まれていてネジの取っ手が壁板の外に付いていればよいのに。
L字アングルの角度調節用のネジ、この部分がトランスと干渉することがある |
(問題2.) 横幅の調整の不連続性で作業効率低下
アンプのモデルによってシャーシーの横幅が異なります。シャーシー横幅にクレードルの横幅を合わせるために右側の L字アングルが壁板と共に左右に移動できるようにしてあります。
下の写真に見える黒く丸いノブを緩めて右の壁板をスライドさせます。
この移動量よりも幅の狭いシャーシーのときには一旦丸いノブを完全に緩め、丸ノブを左にある穴に差しなおして壁板を調整します。
横幅調整用のノブと壁板 |
アンプのシャーシーの幅に合うように丸ノブを差しなおすのですが、どちらの穴にしてもピッタリとシャーシーの幅に合わない不連続性が存在します。
そのときシャーシー幅に合わせた状態で丸ノブが固定できません。
丸ノブのネジ穴 |
この横スライドをなんとか連続的にできないものか。いちいちナットに丸ノブをネジこまなくてもいいように連続的でスムーズなスライドにできないものかと思います。
幅調整を最も狭くした状態 |
( 問題3. ) L 字アングルの長さと高さ不足
3 つめの問題が L字アングルの L の長さと高さです。現状だと奥行のある Twin Revreb などのシャーシーはトランスの重量が重いこともあり、L字の傾斜にピッタリと沿わずシャーシーの手前が少し浮き上がる場合があります。あともう少し長さと高さがあると浮き上がり防止できます。
L字アングルの長さと高さ( 青線 ) |
【5】改良型アンプクレードルの作成
近江八幡市の「あきんどの里」に工房を構えていらっしゃる木工房 Yz の吉積さんところへ遊びに行き、世間話で「Weber のアンプクレードルにいくつか問題があり、困っている」という話をしたところ、現物を見て改良型が作れるかどうか検討してくださるとのこと。
今年に入り Weber のアンプクレードルを工房へ持ち込み、吉積さんと、ああでもないこうでもないと検討を重ねた結果、改良型アンプクレードルの作成は可能であるという結論に至りました。
数日後、彼はさっそく設計図を書いてくれました。
改良型アンプクレードルの設計図 |
出来上がったのが下の写真です。
固くて耐久性がある、美しい桜材を使ってくれました。
完成した改良型アンプクレードル、木工房 Yz 製 |
奥行のある Concert のシャーシーも浮き上がることなくしっかりと収まっています。
改良型アンプクレードルにシャーシーを載せたところ |
[ 改善点1.] L字アングル固定方法の改良、トランス干渉無し
L字アングルの中心に固定用のナットを埋め込み、角度調整後の締め付け取っ手は壁板の外側に来るようにし、トランスとの干渉は一切なくなりました。
L字アングルの固定方法の改善 |
[ 改善点2.] 連続スライド方式による幅調整
スライドの溝をクレードル本体の底部に設けることにより、連続して横幅調整が行えるようになりました。この溝には金属のガイドレールが埋め込まれています。固定ノブを回すのも少しの力ですみます。
以前のように不連続に穴を移動する手間がなくなり素早く位置決めの作業ができてます。
クレードル本体側にガイドレールで溝作成 |
固定ノブは引き抜かず少しゆるめてスライドし少し締めて即固定 |
横幅を最も狭くした場合 |
[ 改善点3. ] L 字アングルの長さと高さの拡大
L字アングルの長さと高さを拡大し、奥行の広いシャーシーも浮き上がることなく斜めの角度で作業できるようになりました。
改良型アンプクレードルによる生産性の向上は測り知れません。
しかも以前のクレードルに比較してはるかに美しい。
一台あたり 3万円台という格安の値段にしてくれた吉積さんに感謝です。
L字アングルの高さと長さを拡大 |
2台オーダーしたうちの 1台はわたくし用です。
もう 1台は東京在住の桑元ヒカル君にプレゼントとして送りました。
彼は昨年、当ギャンプスにアンプ技術の修行に来ました。何日もかけて技術と知識を習得し、東京に戻ってからはプロギタリスト向けギターテク(フリー) を業務とする傍ら、いろいろなアンプを自分で修理し自己研削に励んでいる将来有望な若者です。彼の日頃の努力に対して、なにかしてあげたいなと思っていた次第です。
2台のうちの 1台は東京在住のギャンプスの弟子、桑元ヒカル君へのプレゼント |
アンプクレードルの使い心地はどうかと尋ねたら、「もう最高です。今までの腰の痛みとおさらばです」とのこと。
Weber のクレードルを所持している仲間に改良ポイントをうらやましがられたとも言っていました。「ギャンプスで修行したものだけの特権です」とまでは言いませんでした。
吉積さんに頼めば誰にでも作ってくれますからね。
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