本来はシールドケーブル無しの配線で何も問題の無い音が出ればベストです。
アンプのシャーシー内の回路はローインピーダンス回路もあればハイインピーダンス回路も混在しています。
インピーダンスなどと小難しい言い方をせずとも、電磁波のノイズに強い回路と弱い回路が混在していると考えてください。
大きめのボリュームで5弦や6弦の低音弦を強めに弾いたときにだけ出る「ガリッガリッ」とか「ブルブル」とかいう不快なノイズ。もしくは弦を弾いた後サステインの余韻に浸ろうとしているとき、減衰していく音にまとわりつくビリビリビリというノイズ。これらが寄生発振のノイズです。
ノイズに弱い配線にギターアンプの他の回路の電磁波が寄生してこのような症状になります。
ギターアンプでは、
回路の配線材の取り回しや這わせ方が悪かったり、部品のレイアウト(並び方)が悪かったりしても寄生発振は容易に起こります。
同じ会社の同じ年代に作られた同じモデルでも発振する固体と発振しない固体があります。
部品のレイアウト(配置、向き、部品間の距離、配線の長さ、配線の道筋)が微妙に影響します。
配線の這わせ方の微妙な違いで寄生発振が起きたり起きなかったりする部分にはシールドケーブルを使って配線すると効果があります。
ギターアンプの中で最もノイズに弱く、他から寄生されやすい部位は入力ジャックに繋がっている配線です。入力ジャックに入るギター信号を増幅初段のプリ管(たいていのモデルでは12AX7 ) に送り届けるための線です。
この部分の配線はとても敏感です。例えば、JCM800 以前の Marshall からラジオ放送の音が聞こえたり、無線の会話を拾ったりすることがあります。 Marshall の入力ジャックの配線がアンテナになり、強い電波が寄生し内部で同調してしまい放送や会話が聞えるのです。
Marshall アンプのインプットジャックの発振対策については当ブログの
Marshall 1987 MKII Lead
【作業8. インプットジャック部の発振対策】をご覧ください。
じゃあこの部分はシールドにしちゃえば良いとなるのですが、世の中そんなに甘くはない。
使うシールド線によってはアンプの良さを殺すことがあります。
シールドケーブルは寄生されるのを防ぐだけでなく、副作用としてギター信号の中からある程度信号を削ってしまいます。
この副作用のことを専門的には線間容量といったり、分布容量といったりします。
容量とはコンデンサー成分のこと。
シールドケーブルをつなぐと、配線にコンデンサーを付けてグラウンドにつなぎ、音を削るのと同じ効果が出てしまいます。
ギター本体のトーンコントロールはパッシブ、つまり音を削るものですね。
シールドケーブルをアンプの入力ジャックで使うとつまみでコントロールできない極小のコンデンサーを一個ギターに追加したのと同じ副作用が出るのです。
理解の手助けとなるように、シールドケーブルの構造と、どのようにしてコンデンサーが形成されて音を削るのかを、以下に Fig1. から Fig4. まで4つの図を作ってみました。
Fig3. と Fig4. は同じことを表現方法を変えて説明しています。
シールドケーブルの略図 |
シールドケーブルから外側の絶縁被膜を取り除いた略図 |
シールドケーブルの断面図 |
シールドケーブルの等価回路 コンデンサーとみなすことができる図 |
でも実はインプットジャックに入ってすぐにギター信号に対して1MΩの抵抗が付けられグラウンドに落としてあります。この抵抗は信号の送り手であるギターの回路とインピーダンス整合(信号をロスなく受けとるための調整)をするためになくてはならない物なのですが、このインピーダンス整合をした後の信号は極めてひ弱で、ノイズの影響を受けやすいだけでなく、ちょっとしたことで削られやすくなるのです。
つまりギターから出た直後の信号よりもさらにシールドケーブルの副作用をうけやすくなっているのです。
ではどうするのが良いのか。
応えは簡単、副作用の少ないシールド・ケーブルを使うことです。
線間容量の少ないシールドケーブルを使うことで何もシールドしていない配線材のときと音質か゛削られないようにする必要があります。
シールドケーブルの比較 |
順番に線間容量をテスターで計測します。
線間容量の測り方は、コンデンサーの容量を測るのと同じで、シールドの信号線とシールド端子間の容量を計測します。
微細な容量の計測のため、厳密に何 PF であるというよりも各々種類の異なるシールド線に差があるかどうかという観点でご覧ください。
一般的な内部配線用シールドです。市販されているギターにつなぐシールドよりは線間容量は少なめです。このシールドは 0065 という数値でした。
一般的なシールドケーブルの線間容量 0065 |
数値は 0025 を示し、一般的なシールドよりは音を削りにくい。
Mogami のシールドの線間容量 0025 |
自作シールド の線間容量 0019 |
一方で市販されているシールドケーブルは少ない容量のものが見つかりにくい。
良心的なメーカーやケーブル販売店では以下の Belden の例ような仕様を掲載してくれています。
Nominal Conductor DC Resistance = 44.5Ω/1000ft
1000 フィート約305m の長さのときに芯線の抵抗が44.5Ωになることを示します。
Nominal Capacitance Conductor to Shield = 16.3PF/ft
1フィート約30.5cm の長さのとき、芯線とシールド間の容量が 16.3PF あることを示します。
しかし、他のメーカーや販売店では DC Resistance の記載はあるものの、容量の仕様の記述がなかったり、単に Low Capacitance とだけ謳って販売されていたりします。
そのため、「ああこれは内部配線につかえるかも」という直観を頼りにシールドを購入し、実際にアンプに使ってテストし、使えるシールドかどうかを検証している日々が続いています。
容量値は少ないものの、
芯線が単芯ではなく撚り線で音の解像度が弱かったり、
芯線は純銀の単芯線であり、解像度が良いものの容量値が大きく、
せっかくの高域音を削りすぎていたりと、GAMPS の求めるシールド線に出会うのに苦労しています。
高価なギター用のシールド・ケーブルも購入しプラグを切り落としてアンプに使ってみたりもしました。ギター用のケーブルは過酷な取り扱いに耐えられるように外皮を分厚くし、シールド部分の配線も切れないように強固にされ、芯線は折れないように単芯ではなく撚り線であったりします。それが音に悪影響していて、どれも使えるものはありませんでした。
現在、これは使えるというケーブル数種類と出会うことができ、ストックし、自作のケーブルと併用しています。
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