楽器屋さんに行くとギターの試奏用のアンプとして置かれているところもあります。
そんなお手ごろで使い勝手の良い、ブルース・ジュニア、残念なことに楽器と呼べるレベルの音質にあともう一息のところ、たどりついていません。
「高域が耳に痛い」「音が細い」「弦上の指使いのニュアンスがもっと出てほしい」などなど様々な意見をお持ちの方が多いようです。
基板 ( PCB ) を使っていることから、いきおい「ハンドワイアード化してしまえ」という考えが浮かびます。しかし、ハンドワイアード化せず、なんとか楽器として成立する音質にまでレベルアップできないだろうかと昨年、試行錯誤してみました。結果、今回ご紹介する「 Blues Jr. 音質グレードアップ のMOD 」をすれば使えるアンプになるという結論です。
2014年 7月に大阪にお住まいの村井さまの Blues Jr. Ⅲの MOD を実施いたしました。
1年以上、問題なく稼働し続けているという実績も踏まえ、MOD の内容をみなさまにお知らせいたします。
【 MOD 前の試奏 】
作業前に試奏しました。
以下の感想はきちっと整備されたハンドワイアード・アンプと比較したときのMOD 前の Blues Jr. の評価です。
① 全体的に高域が耳につきます。
中・低域が出切っていないので高域ばかりが目立つ。
② Middle を少しでも下げると、サウンドが細く・薄っぺらに感じられます。
③ コード弾きのときに各弦の分離が悪い。少し潰れたように響く感じです。
④リバーブの目盛り 3あたりからリバーブの高域音が暴れる感じがします。
⑤リバーブ目盛り 0 にしてもわずかにリバーブ音が漏れて聴こえます。
⑥ノイズレベルが少し高い。どこかの劣化ではなく、
ほとんどの Blues Jr. のノイズ・レベルはこれぐらい高めです。
Blues Jr. Ⅲ FSR |
Blues Jr. Ⅲの回路 |
【 Dismount PCB 】
回路の MOD 作業は写真のようにポット付きの基板に付いているケーブルコネクターを外し、基板のハンダ面にアクセスしやすい状態で行います。完成したら、あとで組み立てなおします。
【パワーアンプに供給されるエネルギーの増強】
Dismounting PCB |
メインのフィルターキャップはアンプの増幅回路のエネルギー供給源です。
ブルースジュニアのメインのフィルターキャップは 47μF-450V です。
もしもこのアンプの整流回路が整流管を使っているのであればこの値で文句はありません。しかし、このアンプはダイオード整流です。メインのフィルターキャップの容量をまだ上げる余地があります。
メインのフィルターキャップの容量は大きいほどバックグラウンドのノイズを削ることができます。
さらに音質の迫力が゜増します。特に中・低域の迫力が増します。
言葉を変えると、「ダイオード整流なのに 47μFの450V 耐圧 しか付いていない」ということです。おそらくコスト削減のためこの値( 容量と耐圧 ) しか付けられていないものと推測します。
容量を倍の100μFにします。耐圧も450V から 500V へと増強し、アルミ電解コンデンサーの劣化を少しでも遅らせて壊れにくくしています。
Current filter cap 47μF-450V |
この基板のスペースに入る大きさのコンデンサーでなくてはなりません。しかも耐圧もじゅうぶんに高くなくてはいけません。色々探した結果 JJ のコンデンサーがぴったりと収まりました。
JJ はスロバキアのメーカーで真空管を生産しているところです。
<脱線情報>
様々なメーカーのコンデンサーの形状と容量・耐圧を検索した結果、この JJ よりも小型だったり、このサイズと耐圧で、もっと大きい容量のコンデンサーは一応名のとおったメーカーでは作られていません。理由は物理的に製造することに無理があるからだと推測しています。たまに値段の安いアンプに、もっと小型で容量も耐圧も高いコンデンサーが載っているのを見かけます。しかし、聴いたことのないメーカー名だったり、メーカー名が印刷されていなかったりした経験があります。もちろんその安いアンプは年数はたっていないのに、アルミ電解コンデンサーが完全に劣化して機能を果たしていませんでした。
JJ はスロバキアのメーカーで真空管を生産しているところです。
<脱線情報>
様々なメーカーのコンデンサーの形状と容量・耐圧を検索した結果、この JJ よりも小型だったり、このサイズと耐圧で、もっと大きい容量のコンデンサーは一応名のとおったメーカーでは作られていません。理由は物理的に製造することに無理があるからだと推測しています。たまに値段の安いアンプに、もっと小型で容量も耐圧も高いコンデンサーが載っているのを見かけます。しかし、聴いたことのないメーカー名だったり、メーカー名が印刷されていなかったりした経験があります。もちろんその安いアンプは年数はたっていないのに、アルミ電解コンデンサーが完全に劣化して機能を果たしていませんでした。
「リバーブ音の高域の暴れ」を少なくし、「ポット目盛り 0 での音漏れ」をなくすために C23 フィルムコンデンサーと R46抵抗の値を微調整しました。(C23 や R46 は回路図上での部品番号です)
Mixing 抵抗の値を 100KΩから120KΩにして音漏れを防止。
信号と直列につながる抵抗は皮膜抵抗よりもカーボン・コンポジットが勝ります。
【トーンスタックのコンデンサー値の調整による音質改善】
トーンスタックとは Treble, Bass, Middle の各ポットにつながる複数コンデンサーと抵抗で構成される回路のことです。
これらのコンデンサーの値によって、ポット調整できる周波数帯がおよそ決まります。
この作業後に行なう、プリアンプやフェーズインバーターの作業ではアンプ全体の音圧を高めていきます。それらと連動する形でこの部分の修正を行ないます。この部分単体で MOD しても確かに音は変化はします。しかし、効果としては薄くなります。
全ての MOD を同時適用することで少しずつの改善を積み重ね最終的な音質の向上になります。
Treble 250PF を 270PF にし、高域に厚みを加えます。
Reverb mixer after the MOD |
トーンスタックとは Treble, Bass, Middle の各ポットにつながる複数コンデンサーと抵抗で構成される回路のことです。
これらのコンデンサーの値によって、ポット調整できる周波数帯がおよそ決まります。
この作業後に行なう、プリアンプやフェーズインバーターの作業ではアンプ全体の音圧を高めていきます。それらと連動する形でこの部分の修正を行ないます。この部分単体で MOD しても確かに音は変化はします。しかし、効果としては薄くなります。
全ての MOD を同時適用することで少しずつの改善を積み重ね最終的な音質の向上になります。
Tone Stack |
Bass 0.02μF を 0.068μF にし、低域を増すと共にタイトにします。
Middle 0.02μF を 0.015μF にし、中域を少し増強します。
トレブル、バスはコンデンサーの値を大きくします。対して、ミドルは値を小さくするほうが聴覚上中域が増加して聴こえる仕組みになっています。
Bass の値はこれ以上大きくすると低域が出すぎてしまい、低域の暴れが出たり、ブヨブヨの低音が出たりするように感じます。やりすぎに注意です。ほどほどに。
抵抗も一個交換します。Slope 抵抗 100KΩを 91KΩにします。
Middle Pot の基板側 |
Middle pot の配線 MOD |
前項のトーンスタックで音を分厚くしました。トーンスタックにはプリアンプから信号が送られます。プリアンプから送られる信号が細いままでは効果が得られません。そのため、プリアンプの音をアップグレードします。
C2 と C8 のコンデンサーをオレンジドロップにすると共に、値を約2倍に増やして中・低域を増やします。中・低域を厚くすると相対的に耳につく高域が減少する働きがあります。
R2,R3,R37 の抵抗をカーボン皮膜からカーボン・コンポジットに変更し、カッティング時のプリッとしたダイナミック感を増やします。
上の MOD で中・低域を増強した分、ゴーストノートが出やすくなるのを防止するため、C1 の値をほんの少しだけさげて低域のゲイン調整を行い、サウンドの調和をはかります。
【フェーズインバーター回路】
トーンスタックとプリアンプでは音を分厚くする MOD をしました。
ブリアンプ回路 |
プリアンプ回路 MOD 後 |
トーンスタックとプリアンプでは音を分厚くする MOD をしました。
フェーズインバーターはその信号をパワーアンプへ送り出す役目を担っています。
ここでの MOD は音を分厚くするのではなく、プリアンプとトーンスタックでグレードアップされた信号をロス無くパワーアンプに送ることを目的として、コンデンサーと抵抗の値はそのままに、部品のグレードアップをします。安価な部品ではなく上質なコンデンサーと抵抗に変更します。
C15, C16 をオレンジドロップにします。
C11 をセラミックディスクにします。
R20 をカーボンコンポジットにします。
Blues Jr.のパワーアンプのバイアスは固定バイアス方式です。しかし、バイアス調整用のポットはなく、2本の固定抵抗により、バイアスの値が文字通り固定されています。
一方で、この抵抗で作り出されているバイアス電圧は通常の EL84 プッシュプルのアンプよりも浅めの電圧となります。そのため、ヘッドルームが狭くなります。パワー管の歪みが早く出るものの、反面クリーン音の迫力が乏しく、音質がピーキーで高域が耳につきやすくなります。
またパワー管は過度の働きをさせられるため、熱をもちやすく、寿命もはやめにきます。
この欠点を補正するために、わずかながらバイアス電圧を深めに調節します。
固定抵抗 R52 の値を 22KΩから 24KΩに変更し、バイアス電圧を上げ、わずかに深めのバイアスにします。以前よりもヘッドルームを広くし、パワー管の寿命もわずかながら伸ばします。
せっかく回路をアップグレードしてもスピーカーに信号を伝達する出力トランスが貧弱だと効果は半減します。
出力トランスを MercuryMagnetics 製に交換しました。
Blues Jr. のオリジナルに比べ質量は大きくなります。
回路の MOD により音が分厚くなっている上に OTのグレードアップによりさらに信号が大きくなります。するとその分発振したりノイズが大きくなったりする危険性が上がります。
そのリスクを低減するために PT と OT の間に磁気シールドを設けました。
オリジナルの出力トランス ( 左 ) |
MercuryMagnetics の出力トランス |
OT から スピーカーに行くケーブルは貧弱なものが付いています。
回路をMOD して音質のグレードアップを図り OT もグレードアップしました。ここはやはり AIW 社製の WE 復刻版のスピーカーケーブルを付けるのがふさわしいと考えます。
現状のスピーカーケーブル |
左: オリジナル 右: WE 復刻版 |
スピーカーケーブル AIW 製 WE 復刻版 |
真空管は一切変えずに、元のままで試奏しました。
a) 音に厚みが増しました。耳につくいやな高域はなくなり、色気が出てきました。
Treble =5, Middle =5, Bass =5, Volume =3, Master =5
このセッティングから Middle を絞っていっても音がペラペラになることは無くなり、低域の残ったまろやかなサウンドが出ます。
ジャーンとコードを鳴らしたときの迫力と倍音あふれる音色は別物のアンプかと思うぐらいです。
ジャーンとコードを鳴らしたときの迫力と倍音あふれる音色は別物のアンプかと思うぐらいです。
b)コード弾きのとき各弦の分離がよくなりました。潰れた感じは無くなりました。また Blues Jr. 特有のパワーアンプの歪みはきちんと残されていつつもコントローラプルです。ピッキングの強弱への追従反応が良くなりました。
c) リバーブの高域暴れがなくなりスッキリとしました。Reverb 0 でのリバーブ音漏れは極小化しました。