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2017年7月9日日曜日

Film Capacitor outer foil フィルムコンデンサーの向き (指向性) について

アルミ電解コンデンサーはプラス(+) 端子とマイナス(-) 端子が決まっています。

一方フィルムコンデンサーには極性はありません。電圧が高いほうにどちらの端子をつないでも問題なく作動します。

でも厳密にはフィルムコンデンサーを取り付けるときの向きというのはあるのです。

部品のレイアウト( 部品どうしの配置、向き、距離、配線の長さ、配線の道筋) が微妙に影響して発生する ノイズや発振という問題と向き合う必要のある場合、ノイズや発振をわずかながら少なくするための指向性(2個の端子をつなぐときの法則) があり、それを利用して問題の低減をすることができます。

「回路のインピーダンスが高いほうとインピーダンスが低いほう」を区別して、2つあるフィルムコンデンサーの端子をつなぐと一般的には言われます。
ローインピーダンスはノイズに強く、ハイインピーダンスはノイズに弱いということも言われます。

【注意】
指向性(向き)に基づいたつなぎ方をしたからといってすぐに効果が出るとは限りません。
・ノイズレベルを最小にするグラウンド配線、
・発振の出にくい部品レイアウト、
・発振しにくい配線の経路、
等のアンプとしての基礎工事がしっかりとしていてはじめて相乗効果が得られます。

フィルムコンデンサーの構造を見ていきましょう。下図参照

端子(青) 棒の付いた2枚の薄い導体(茶) の間に絶縁体(緑)を挟みます。左側の図。つぎに、上の端子をくるくると回して、円筒形になるようにフィルムを巻いていくと右側の図のようになります。

さて下図をもう一度よく見てください。左図の上の端子を巻いていくと渦巻のように導体を巻いていくことになり、最終的に円筒の外側にくるのは上の端子に繋がっている導体です。下の端子に繋がっている導体は円筒の内側に来ます。
外側に来る導体のことを Outer Foil (アウターフォイル=外側のフォイル) と呼びます。

このようにフィルムコンデンサーに付いている2個の端子は、Outer Foil につながっている端子と Inner Foil(インナーフォイル=内側のフォイル) に繋がっている端子とに区別できます。
そしてこの Outer Foil かどうかで向き(指向性)が決まるのです。 

フィルムコンデンサーの概略図
 
 
フィルムコンデンサーのメーカーによっては、どちらの端子が Outer Foil に繋がっているか、目印を付てくれています。
下の写真は SOZO の Mustered です。メーカー名、容量値のほかに黒い線が印刷されています。この線の側、写真の左側の端子が Outer Foil に繋がっている端子です。
SOZO の Mustard Cap


オレンジドロップは2個の端子が同じ下向き (Radial ) に出ているものの、構造はSOZO などと同じくフィルムを巻いて作ってあります。 Outer Foil を示す表示はついていません。

こういう場合、どちらの端子が Outer Foil かは自分で調べます。
切断して中を観察できても、切断したコンデンサーは元にもどせず使えません。破壊せずに調べる方法があります。

粘着テープ付きの薄いアルミ板を用意します。下の写真。
Orange drop とアルミの薄板

アルミの薄板をコンデンサーの外皮に貼り付けます。
このとき、
・アルミ薄板は浮きが無いように密着するように貼り付けます。
・コンデンサーの端子はアルミ薄板に触れないようにします。
コデンサーの外側をアルミの薄板で覆う
容量計を準備します。
計測レベルは最も小さい容量(pF )に設定します。
容量計の計測用端子の片側(黒)をアルミ薄板につなぎ、もう一方の端子(赤)をコンデンサーの端子の片方につなぎ、容量を計測します。

コンデンサーの外皮とコンデンサーのひとつの端子の間の容量を計測しています。

下の写真ではコンデンサーの左端子と外皮の間は 11.6pF の容量があることを示しています。

アルミの薄板と2つあるコンデンサー端子のひとつとの間の容量計測
次にコンデンサーの端子を変えて、上と同じように外皮と端子間の容量を計測します。下の写真ではコンデンサーの右端子と外皮の間は 12.3pF の容量があります。

両極の間の距離が近いほど容量は大きいという特性があります。
外皮と端子間の容量を計測し、値が大きい端子は、外皮に近いフォイルの端子であるということがわかります。

つまり、写真の右側の端子は Outer Foil に繋がっているということです。
アルミの薄板とコンデンサーの右端子間の容量計測、この端子が Outer Foil
この計測をするとき、計測中にアルミ薄板が動くとと正確な計測はできません。容量計の値がほんのわずかな動きで変化します。何度か計測を重ねて、正確性を期するようにします。




既にOuter Foil の目印が付けられているコンデンサーで同じ計測をしてみましょう。
SOZO Mustered とアルミ薄板
アルミ薄板を外皮に貼り付けます。
アルミ薄板の貼り付け
アルミ薄板とコンデンサー端子間の容量計測をします。
右端子と外皮間の容量計測
左端子と外皮の容量値が高く、左端子が Outer Foil
左端子と外皮間の容量計測
このようにして 5個の Mustered を計測したところ、なんと 3勝2敗。
5個中、2個 の表示が間違っていました。
Yellow Mustardは3勝2敗
メーカーの書いた目印が間違っているのは良くあることです。

SOZO には Blue Molded という青色のコンデンサーもあります。黄色い Mustered よりもはるかに値段は高い。 Blue Moldedの表示は今までのところ間違いはありませんでした。

Orange Drop は Outer Foil の表示はないものの、製造ロットが近いものは向きが一定している傾向にあります。
例: あるロットは全て横書きの文字の右側が Outer Foil
ロットが異なる場合、つまり製造年とWeek の数字が異なると向きが反転することもあります。


ここまでで、 Outer Foil の見極め方がわかりました。

次は、どちらの端子をどこにつなぐかです

下の図はツイードアンプのプリアンプ回路です。Volume が2個とトーンコントロール1個ついています。
0.1μF(400v耐圧) は12AY7 のプレートとVolume の間を繋げています。
この場合、0.1μF コンデンサーの左側は高いDC電圧がかかっていて、コンデンサーはDC 電圧を遮断してギター信号だけを取り出して右側に出力します。

コンデンサーの左側がローインピーダンスで右側がハイインピーダンスです。
コンデンサーの左側はノイズに強く、右側はノイズに弱い。
よって Outer Foil は左側につなぎます。(図中の赤色線側)

1 M Ωの トーンコントロールの下に.005μF があり、グラウンドにつながっています。
このコンデンサーは信号をある程度削ってグラウンドに捨てています。
どのみち音を捨てる側はノイズなどが干渉しても関係ありません。
グラウンドはローインピーダンスです。
したがってグラウンドに繋がる端子を Outer Foil にします。(図中の青色線側)

トーンコントロールの上に 0.0005μF のコンデンサーが付いています。
このコンデンサーはハイパス(高域をバイパスする)として働きます。
既にハイインピーダンスとなってしまっているのでこのコンデンサーはどちら向きでもあまり関係はありません。しかし、ボリュームは全開ではなくだいたい5目盛りぐらいで使うことを想定すると上よりも下のほうが比較的にハイインピーダンスとなり、Outer Foil は上側につなぎます。

Outer Foil 側つまりコンデンサーの外皮により近い側をノイズの影響を受けにくいローインピーダンスサイドにつないでノイズに弱いハイインピーダンス側を内に包む形に取り付けることでコンデンサー本体が受ける電磁波ノイズの影響を少しでも少なくしようという考えです。

ツイードアンプでのつなぎ方の例、赤および青が Outer Foil


下図はギター本体のトーンコントロールの回路図です。
ギターに付いているコンデンサーは音を削るためのコンデンサーです。
ツイードアンプの .005 と同じです。
グラウンドに余分な音を捨てています。グラウンドはローインピーダンスのため図の下側をOuter Foil につなぎます。(図中の赤色線)

ギターのトーンコントロールのコンデンサーの向き、赤側が Outer Foil

以上がフィルム・コンデンサーを取り付けるときの向きについての解説でした。

良きギターライフを

2017年7月6日木曜日

Shield cable ギターアンプに使うシールドケーブル

ギターアンプの内部配線にシールドケーブルを使う場合に気を配っていることを記載します。

本来はシールドケーブル無しの配線で何も問題の無い音が出ればベストです。

アンプのシャーシー内の回路はローインピーダンス回路もあればハイインピーダンス回路も混在しています。

インピーダンスなどと小難しい言い方をせずとも、電磁波のノイズに強い回路と弱い回路が混在していると考えてください。

大きめのボリュームで5弦や6弦の低音弦を強めに弾いたときにだけ出る「ガリッガリッ」とか「ブルブル」とかいう不快なノイズ。もしくは弦を弾いた後サステインの余韻に浸ろうとしているとき、減衰していく音にまとわりつくビリビリビリというノイズ。これらが寄生発振のノイズです。

ノイズに弱い配線にギターアンプの他の回路の電磁波が寄生してこのような症状になります。

ギターアンプでは、
回路の配線材の取り回しや這わせ方が悪かったり、部品のレイアウト(並び方)が悪かったりしても寄生発振は容易に起こります。

同じ会社の同じ年代に作られた同じモデルでも発振する固体と発振しない固体があります。

部品のレイアウト(配置、向き、部品間の距離、配線の長さ、配線の道筋)が微妙に影響します。


配線の這わせ方の微妙な違いで寄生発振が起きたり起きなかったりする部分にはシールドケーブルを使って配線すると効果があります。

ギターアンプの中で最もノイズに弱く、他から寄生されやすい部位は入力ジャックに繋がっている配線です。入力ジャックに入るギター信号を増幅初段のプリ管(たいていのモデルでは12AX7 ) に送り届けるための線です。
この部分の配線はとても敏感です。例えば、JCM800 以前の Marshall からラジオ放送の音が聞こえたり、無線の会話を拾ったりすることがあります。 Marshall の入力ジャックの配線がアンテナになり、強い電波が寄生し内部で同調してしまい放送や会話が聞えるのです。
Marshall アンプのインプットジャックの発振対策については当ブログの
Marshall 1987 MKII Lead
【作業8. インプットジャック部の発振対策】をご覧ください。

じゃあこの部分はシールドにしちゃえば良いとなるのですが、世の中そんなに甘くはない。
使うシールド線によってはアンプの良さを殺すことがあります。
シールドケーブルは寄生されるのを防ぐだけでなく、副作用としてギター信号の中からある程度信号を削ってしまいます。

この副作用のことを専門的には線間容量といったり、分布容量といったりします。
容量とはコンデンサー成分のこと。

シールドケーブルをつなぐと、配線にコンデンサーを付けてグラウンドにつなぎ、音を削るのと同じ効果が出てしまいます。
ギター本体のトーンコントロールはパッシブ、つまり音を削るものですね。
シールドケーブルをアンプの入力ジャックで使うとつまみでコントロールできない極小のコンデンサーを一個ギターに追加したのと同じ副作用が出るのです。

理解の手助けとなるように、シールドケーブルの構造と、どのようにしてコンデンサーが形成されて音を削るのかを、以下に Fig1. から Fig4. まで4つの図を作ってみました。
Fig3. と Fig4. は同じことを表現方法を変えて説明しています。

シールドケーブルの略図
シールドケーブルから外側の絶縁被膜を取り除いた略図
シールドケーブルの断面図
シールドケーブルの等価回路 コンデンサーとみなすことができる図
ギターからアンプのジャックまでは既にシールドでつないでいます。アンプに入ってから、たかだか数十cm だけシールドが伸びたと考えれば問題ないのでは ?と思いますよね。
でも実はインプットジャックに入ってすぐにギター信号に対して1MΩの抵抗が付けられグラウンドに落としてあります。この抵抗は信号の送り手であるギターの回路とインピーダンス整合(信号をロスなく受けとるための調整)をするためになくてはならない物なのですが、このインピーダンス整合をした後の信号は極めてひ弱で、ノイズの影響を受けやすいだけでなく、ちょっとしたことで削られやすくなるのです。
つまりギターから出た直後の信号よりもさらにシールドケーブルの副作用をうけやすくなっているのです。

ではどうするのが良いのか。
応えは簡単、副作用の少ないシールド・ケーブルを使うことです。
線間容量の少ないシールドケーブルを使うことで何もシールドしていない配線材のときと音質か゛削られないようにする必要があります。

シールドケーブルの比較
簡単な実験をしてみました。長さ約15cm のシールドケーブルを3種類用意します。
順番に線間容量をテスターで計測します。
線間容量の測り方は、コンデンサーの容量を測るのと同じで、シールドの信号線とシールド端子間の容量を計測します。

微細な容量の計測のため、厳密に何 PF であるというよりも各々種類の異なるシールド線に差があるかどうかという観点でご覧ください。

一般的な内部配線用シールドです。市販されているギターにつなぐシールドよりは線間容量は少なめです。このシールドは 0065 という数値でした。
一般的なシールドケーブルの線間容量 0065
次が Mogami 電線の低容量シールドとして売られているシールドです。
数値は 0025 を示し、一般的なシールドよりは音を削りにくい。
Mogami のシールドの線間容量 0025 
3番目は GAMPS の自作シールドです。芯線を電磁波から確実に保護しつつ、なるべく線間容量が少なくなる工夫をして作成しました。数値はMogami よりもさらに良く、0019 を示します。
自作シールド の線間容量 0019
シールドをわざわざ自作するのは手間と時間がかかり効率が悪い。
一方で市販されているシールドケーブルは少ない容量のものが見つかりにくい。
良心的なメーカーやケーブル販売店では以下の Belden の例ような仕様を掲載してくれています。

Nominal Conductor DC Resistance = 44.5Ω/1000ft
1000 フィート約305m の長さのときに芯線の抵抗が44.5Ωになることを示します。

 Nominal Capacitance Conductor to Shield = 16.3PF/ft
1フィート約30.5cm の長さのとき、芯線とシールド間の容量が 16.3PF あることを示します。

しかし、他のメーカーや販売店では DC Resistance の記載はあるものの、容量の仕様の記述がなかったり、単に Low Capacitance とだけ謳って販売されていたりします。

そのため、「ああこれは内部配線につかえるかも」という直観を頼りにシールドを購入し、実際にアンプに使ってテストし、使えるシールドかどうかを検証している日々が続いています。

容量値は少ないものの、
芯線が単芯ではなく撚り線で音の解像度が弱かったり、
芯線は純銀の単芯線であり、解像度が良いものの容量値が大きく、
せっかくの高域音を削りすぎていたりと、GAMPS の求めるシールド線に出会うのに苦労しています。

高価なギター用のシールド・ケーブルも購入しプラグを切り落としてアンプに使ってみたりもしました。ギター用のケーブルは過酷な取り扱いに耐えられるように外皮を分厚くし、シールド部分の配線も切れないように強固にされ、芯線は折れないように単芯ではなく撚り線であったりします。それが音に悪影響していて、どれも使えるものはありませんでした。

現在、これは使えるというケーブル数種類と出会うことができ、ストックし、自作のケーブルと併用しています。






2017年7月3日月曜日

Marshall 1987 MKII Lead ( 38年前の思い出を取り戻す)

Marshall 1987 MKⅡ Lead  1973年製のオーバーホールをしました。

東京都在住の N様ご所有。1979年に購入された後、1984年まで5年間ご使用になり、調子が悪くなり、以来通電なさっていなかったそうです。1979年当時、ご自分の力でだけでは買うことができず、しかしどうしても Marshall が欲しくて、御母堂さまに無理を言って楽器屋さんに一緒にきてもらい、購入なされたそうです。ご母堂さまは数年前に他界されたということで、N様にとっては色々な思いの詰まったアンプです。

こういうエピソードには弱いです。

日頃は、基板アンプ(PCB で配線されたアンプ)については修理をお断りしています。しかし今回は 精魂込めてレストアさせていただきました。

79年当時のアンプカバーが付いています。


1987 アンプの正面

アンプの背面

【受け入れ検査の結果①】 インピーダンス・セレクターについて

アンプの背面にインピーダンス・セレクターが付いています。
接続するスピーカーキャビネットのインピーダンスに合わせ出力トランスの2次巻き線のタップを切り替えます。
スピーカーのインピーダンスと異なる値に切り替えると、パワーチューブ劣化の進行スピードが早くなり壊れやすくなります。
スピーカーを繋がない状態(無負荷)で電源をオンし、スタンバイも上げてしまうと、パワーチューブの劣化は一気に加速され壊れます。

当アンプのセレクターは過去に交換されています。
交換されたセレクターに問題点が2つあります。
① つまみが大きく小さな力で回転しやすく、
  意図しないポジションに動きやすい。
② 4Ωと8Ω間の1ヶ所と8Ωと16Ω間の1ヶ所の計2ヶ所に
  何もつながっていない接点がある。
気づかずに何もつながっていないポジションにセレクターが動いてしまう可能性があります。万一その状態で誤ってパワーオンしてしまうと、アンプは無負荷の状態となりパワーチューブ(EL34)に過大なストレスが加わり、壊れます。

EL34 は 6L6GC に比べると、真空管自身からの発熱量が多く、ただでさえ自身の熱量により壊れやすい真空管です。インピーダンス・セレクターの問題により無負荷運転が追い打ちをかけると、新品を入れてもすぐに EL34 の交換が必要となります。  

インピーダンス・セレクターを良いものに交換する必要があります。
過去の修理により交換されたインピーダンス・セレクター、何もつながらない位置にスイッチできてしまう

【受け入れ検査の結果②】 電源オンするとヒューズが飛ぶ故障

・アンプのインピーダンスセレクターを8Ωに合わせ、
 テスト用の8Ωスピーカーキャビネットにつなぎます。
・電源スイッチを入れます。
・パイロットランプが点灯します。
・約1分間その状態で暖機します。
・スタンバイスイッチをいれます。
・一瞬、ガリッというようなノイズが出て無音となります。

メインの3A のヒューズは飛んでいないものの、+B 電源用の500mA のヒューズが飛びました。

2回テストし、2回とも同じ結果です。

こういう場合、+B 電源を作り出すダイオードの不良か、パワーチューブ(EL34) の故障か、フィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー)の不良か、3つのうちのどれかが原因です。3つの中のどれが真の原因かは後程明らかになります。
左側が+B用ヒューズ 500mA、右がメインのヒューズ 3A

焼き切れた 500mA Slow Blow Fuse

【受け入れ検査の結果③】 アンプの外観検査

〇 トランスは全てオリジナルです。
     温湿度による腐食も見られず健全そうです。
× フィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー) は
  オリジナルのまま40年間交換されていません。
     交換が必要です。
× 真空管もオリジナルのままで交換されていません。
  状態を確認したうえで必要であれば交換します。

アンプの上部、トランス、真空管、アルミ電解コンデンサー

【受け入れ検査の結果④】 回路部の目視

回路部を目視で検査しました。
アンプの下部、回路部品

a) SG Stopper 抵抗の熱焼損

V4 ポジションの EL34 用チューブソケットの足にある SG Stopper 抵抗 1KΩ-5W が人間の皮膚がやけどしたような感じで火膨れになっています。
火膨れになっている SG ストッピング抵抗
抵抗値を測定するとオープン、つまり抵抗の内部で焼ききれています。

【考察】
単にこの部分が焼ききれた「だけ」であればヒューズをとばすことはありません。
つまり、この抵抗を焼き切った原因が存在するのです。つまり、この抵抗以外にまだ不具合が存在します。このまま受け入れ検査を続行します。
SG ストッピング抵抗は内部断線しています

b) 過去の回路に対する修理や改造(MOD)

3ヶ所で抵抗が交換されています。
2ヶ所はオリジナル設計通りの値です。
フェーズインバーター回路にあるグリッドリーク抵抗は設計値の1/3 の値に MOD されています。
本来は220KΩのところ 82KΩにされています。

【考察】
この抵抗の値は高いほどパワーアンプに送り込まれる信号電圧が大きくなり、低いと小さな信号しかパワーアンプに送られません。
抵抗の上限値はパワーチューブの種類により決まっていて、Fender や Marshall などのギターアンプメーカーの人気機種はほぼ上限の 220KΩを使います。
一方で回路のレイアウト設計の問題や配線のとりまわしに問題のあるアンプは発振しやすくなります。この発振問題を回避するために根本の問題を解決せず対処療法的にこのグリッドリーク抵抗の値を落とすという手法をメーカーで使うことがあります。その典型がCBS 経営になった Fender でつくられたシルバーフェースです。
本題をこの Marshall 1987 に戻すと、このアンプはおそらく発振しやすい個体だったのでしょう。そこで発振の問題の真の原因を追究することはしないで、単純にグリッドリーク抵抗の値を下げ、パワーアンプに送り込む信号を小さくして発振を回避していたものと推測します。

使われている抵抗の種類やハンダ接合部の汚れの感じから、おそらくお客様が購入なさる1979年より少し前に MOD されたものと推測します。
Modified Grid Leak


【受け入れ検査⑤】壊れている真空管 EL34

使用されている全ての真空管を点検しました。
・プリ管 12AX7 x3本
・パワー管 EL34 x 2本

パワー管 EL34 のうちの1本で内部金属の損傷により故障しているのを発見しました。
真空管内部の熱による熱疲労で破損したものです。
500mA ヒューズを飛ばしていた真の原因はこの故障した EL34でした。

受け入れ検査④で見つかった 火膨れしていた SG 抵抗はこの壊れた真空管のソケット部に付いていたものです。真空管がまだ完全に壊れる前の劣化した状態で大量の電流が真空管に流れその大量の電流を流すのに疲れてしまって「あもうだめ」とSG抵抗が焼けきれたのです。

Broken EL34
【考察】
真空管は内臓ヒーターによりガラス管内部を熱しています。
これはガラス内部をカソードからプレートに向けて電子が飛びやすくするためです。
電子が飛ぶということはプレートからカソードに向けて電流が流れるということです。このことで増幅が可能です。しかし、内部で電流が流れると必ず熱が発生します。

ただでさえ、ヒーターで加熱している上に増幅の電流によりさらに熱が出るのです。
この熱は真空管の内部構造に使われている金属を徐々に疲労させていきます。
真空管の内部金属の疲労は蓄積し、劣化が進行します。回復はしません。
劣化が進んでくると真空管内部を流れる電流の値が次第に多くなる傾向にあります。

電流が増える--温度が上がる---劣化が進む---さらに流れる電流が増える
この悪循環を繰り返し、最後には内部でショートするか断線するかの故障となります。

内部でショート(短絡)する故障の場合、ヒューズをとばします。
内部でオープン(断線)する故障の場合、ヒューズは飛びません。その代わりヒーターの灯が消えていたり、灯は付いているものの、変な音がしたり、無音だったりします。

真空管は電源を上げ続けるほどに確実に劣化し、故障に向かっていくのです。

もちろん他の電気部品、抵抗、コンデンサー、トランスも同じく電気を通す度に寿命を減らしていきます。ただ、その寿命の長さは部品の種類により異なります。同じ部品の種類でも、使われている回路の場所により異なる電圧や電流の大きさ、それと熱の多さにより、異なります。

私が時々「人類が作ったものは必ず壊れていく」という言い回しをするのはこのことです。


【修理方針】
パワーチューブが破損していたことを受け、
パワーチューブの劣化を速めてしまう要因を潰します。
以下の項目が該当します。
① インピーダンスセレクター交換
① SG 抵抗交換
② 電源回路(整流ダイオード、フィルターキャップ)
③ バイアス回路
④ フェーズインバーター回路

また発振防止の MOD があったことから、
音に影響が少なく且つ効果的な発振対策を実施し
回路の値は1987オリジナルの値に戻します。

【作業1. フィルターキャップの交換】
Marshall 1987 は一つの円筒の中に2個分のコンデンサーの入ったブロック電解コンデンサー( Multi section Can type capacitor ) を3つ使用しています。
1970年初頭製造のまま今まで交換されずにきたため、交換しておきます。
フィルターキャップ交換前
パワーアンプ用の2つは JJ 製(黒色) に交換し、プリアンプ用の1つは F&T 製(青色)に交換しました。
フィルターキャップ交換後

【作業2. グランド配線の補強】
φ1.2mm ( AWG17~16相当)の単芯線を使い、フィルターキャップ間のグラウンド接続を強化しておきます。このことで発振に強く、ノイズの少ないアンプに仕上がります。
発振対策--- グラウンド配線の補強

【作業3.インピーダンス・セレクターの交換】
現在付いている動きやすく不安定なロータリースイッチに替えて、近年の Marshall 用のインピーダンス・セレクターに交換しました。このスイッチは一個3,000円します。
インピーダンス・セレクターの交換
インピーダンス・セレクターの交換によって出力トランスの2次巻き線とスイッチ間の配線がすっきりとしました。このことも発振低減とノイズ低減に貢献します。
配線取り回しをすっきりとさせて発振防止

【作業4. SG Stopping 抵抗の交換】
火膨れしていた 1KΩ-5W 抵抗を交換しました。パワーチューブの熱により抵抗本体があぶられるのを少しでも避けるために真空管ソケットの真上を避けて配線しています。

SG Stopping 抵抗の交換

【作業5.バイアス回路のオーバーホール 】
Marshall 1987 バイアス回路は以下の部品で構成されます。
・アルミム電解コンデンサー x2
・ダイオード x1
・抵抗 x3
・調整ポット x1

【参考: Marshall のバイアス回路の特徴】
(a) Marshall の電源トランスの2次巻き線には Fender のようなバイアス電圧専用のタップはありません。そのためパワーアンプの増幅に使う+B 電圧を流用し、比較的大きい値の抵抗を介して低い電圧を取り出し整流してバイアス用のマイナス直流電圧を作っています。
(b) Marshall のバイアス回路の特徴として、バイアス電圧の調節用ポットの配線方法がFender とは異なり、ポットのワイパー出力をバイアス電圧としては使いません。ワイパーにつながれている固定抵抗と、ワイパーと3番端子の間の抵抗値の総和の変化により電圧を上下させます。
この方式は、パワーオンした直後バイアス電圧が意図した電圧で一定になるまで時間がかかります。Fender アンプであれば電源オンして約2秒で一定値になるところ Marshall は約1分かかります。 バイアス電圧が十分な値になる前にスタンバイを上げると、パワーチューブは壊れやすくなります。

バイアス用アルミ電解コンデンサー、液漏れしています。
バイアス回路のアルミ電解コンデンサーは液漏れしており(上の写真)、とっくに寿命を迎えています。バイアス回路の全ての部品を交換し、オーバーホールしました。
EL34 パワーチューブは 多くの電流を流すため 6L6GC 等よりも早く壊れます。加えてバイアス回路が不安定であればさらにEL34 の寿命は縮まります。そのため の措置です。

当アンプの EL34 真空管故障はこのバイスアス回路のへたりが引き金となったものかもしれません。
バイアス回路のオーバーホール

【作業6. フェーズインバーターのオーバーホール】
パワーチューブをドライブする増幅段のオーバーホールをしました。
受け入れ検査④の b) で見つけたゲインを設計よりも低くする改造がされていた回路です。
発振の原因をなくさず、対処療法がとられていました。
抵抗x4 とコンデンサー x3を交換しました。抵抗値は設計値にもどしました。
フェーズインバーター回路のオーバーホール
作業の途中で発振問題の真の原因が特定できました。
フェーズインバーターからパワーチューブへ信号を送るためのコンデンサーを取り外すためコンデンサーの足を持ち上げた瞬間にポロッとコンデンサーが折れました。
ピンセットを使い軽い力を加えただけで折れました。
常に300V 近辺の電圧が掛けられ電気ストレスにより次第にひび割れが進行していったものと推測します。ひび割れしている部分が振動するとガリッというノイズがパワーアンプに送られ、増幅されて発振の症状と同じノイズが出ていたものと推測します。
早めにこのコンデンサーを交換しておれば、グリッドリーク抵抗値を下げるという対処療法は不要であったはずです。
カップリング・コンデンサーの不具合

【作業7. プリアンプ回路のオーバーホール】
プリアンプ回路の中で比較的高い電圧ストレスや電流ストレスにさらされる部品を中心にオーバーホールをしました。
抵抗 x 7、コンデンサー x 6
低い電圧で使われ、ストレスをうけにくい部位の部品は正常であることを確認し、残しています。
プリアンプ回路部分の基板
Marshall 1987 の チャンネルⅠ とチャンネルⅡの音質は極端に異なります。一方は高域が鋭く出力され、もう一方は低域が強調されモコモコします。
どちらのチャンネルも特性・個性を生かしつつ、各々のチャンネルを「使える」音にする工夫をしておきました。使うコンデンサーのタイプ・メーカーを選定するとともに値も少しづつチューンアップしています。どのメーカーのどのタイプを使うと音がどうなるかということは記載しません。写真から類推してください。
プリアンプのオーバーホール後

【作業8. インプットジャック部分の発振対策】
Marshall のアンプはノイズレベルも高く、発振もしやすいアンプです。
作業2.で行ったグラウンド配線の補強はノイズ・レベルを下げる工夫です。
これから行う作業は発振のしやすさを低減します。

インプット・ジャックの Hi 側に入力されたギター信号は
・2本の緑色ワイアー(長さ約10cmx2本)で基板に繋がれます
・基板上の2本の68KΩを通過後に一つにまとめられ1本の緑色ワイアー(長さ約12cm)によりV1 真空管のグリッド端子に入り増幅されます。

ギターの信号はハイ・インピーダンスです。わかりやすく言うと、電流の量が非常に少なく、外来からの電磁波やアンプの中の大きな信号から発する電磁波が飛び込みやすいのです。
つまりギター信号は他の大きな信号に寄生されやすいのです。
時と場所によっては Marshall アンプからラジオ放送が聞こえることもあります。

ただでさえ寄生されやすいハイインピーダンス信号であるギター信号が緑色のワイアーにより、総全長で約 32cm もの距離を無防備なまま配線されています。

アンプのボリュームが低い場合、アンプの回路から発生する電磁波も低く、寄生されることはあまりありません。しかし、アンプのボリュームを上げるとたちまちこの入力ジャックからV1 真空管に至る配線上にアンプの後段から発生する大きな電磁波が寄生してしまい、ガリッガリッとかブルブルとか不快な雑音の原因となります。この現象を寄生発振といいます。

今回実施した発振対策は
①配線経路を最適化し、インプットジャックから V1 のグリッドを最短で結ぶ
②無防備な普通のワイアーではなくシールドワイアーで配線して寄生されるのを防ぐ
この2点です。
シールドワイアーを使うにあたり、どんなシールドワイアーでも良いわけではありません。
シールドワイアーは寄生しようとする電磁波からギター信号を守ってくれます。一方で守るべき信号から少しだけ信号を削るという副作用があります。
信号をなるべく削らず、普通のワイアーとほぼ変わりのない音質のまま信号を送り届けることのできるシールドケーブルを使います。

シールドケーブルについては当ブログ中の
シールドケーブルについて
を参照ください。 
インプットジャック部分の発振対策の前後
作業8.までで一通りオーバーホールとレストアが完了しました。次はテストと総仕上げです。


【作業9. 新しい真空管を搭載しバイアス調整】
 Marshall のアンプはEL34 を使用していることと、パワーオン後にバイアス電圧が安定するまで時間を要することの2点から EL34 パワーチューブの寿命は短くなりやすいという特徴があります。そのためバイアス調整は Fender のアンプよりもシビアに行わないと EL34 の寿命がさらに短くなってしまいます。

アンプにダミーロードと電流計測計を付けてバイアス調整の準備をします。
左手前=ダミーロード、右手前=電流計測器
プレート電圧とカソード電流の両方を計測しながら適正なバイアスに調整します。
プレート電圧が何 ボルト のときに適正な電流値は何アンペアにするとよいのかは、真空管のタイプ、メーカーにより決まります。(実際には電力損の計算式を使います) この電流値(アンペア)を決定してやることがバイアス調整です。適正な電流値には幅があります。電流値を多めにするとアンプの音はおおきく なるもののパワー管は疲労しやすくなります。電流値を低めにするとパワー管の疲労は最小限となるものの音質は元気のない方向にいきます。

ここでは計器を使い論理的に最適な値に設定します。試奏段階の音を聴いて電流が少なすぎるのか多すぎるのかを判定し、最終調整を行い実践的な設定にします。
プレート電圧とカソード電流の2つを計測しながらバイアス調整

【作業10. 試奏テスト】
アンプはまだキャビネットに組み込まず、シャーシーのまま Boogie の 12インチ 8Ωのスピーカーにつないでテストを行います。
今まで行った作業に間違いのないことの検証、思い通りの音質が出ていることの検証、作業項目以外に不具合のないことの検証、これら3つを検証しました。

Marshall 1987 は 12インチ一発につなぐと少し暴れた感じで使いずらい音です。そうなることが実は正解です。この暴れたぐらいの感じが12インチ 4発で使うときに丁度良い音質となります。
テスト試奏

【作業11.ポットの交換 】
試奏の結果、ボリューム2個と Treble, Bass のポットにガリが出ているのを発見しました。

ガリのあるポットの交換
Marshall のオリジナルのポットは CTS 製に比べ、ガリが出やすく、洗浄してもガリが取りづらい傾向にあります。すべて CTS 製の新品に交換しました。
交換前のポットと新しい CTS ポット

【作業12. 最終テスト】
ポット交換を行い、いよいよ最終テストです。
今度はインピーダンス・セレクターは Marshall の定番 の16Ωにします。
今度はインピーダンスを16Ωに設定
JCM800 用の 1960A ( セレッション16Ω x4発入り) につないで試奏を行いました。
まさに Marshall 50W の音が出ました。

ギターのボリュームを絞ったり上げたりするだけで、クリーンからクランチまで自在にコントロールできます。

チャンネルⅠ では高域寄りであるものの耳に痛いものではなく、色気と艶があります。
チャンネルⅡ は低域寄りではあるものの極端にモコモコすることはなく、た単体で使える音色です。
リンクしてもいい具合にミックスされます。

エフェクター無し、ギターとシールドだけで十分に音楽的なロックが演奏可能となりました。

Marshall 1960A につないで本格的にテスト試奏
真空管については、EL 34 の交換は必須でした。JJ の EL34 を入れています。
プリ管(12AX7) はオリジナルのまま交換されておらず、壊れていないものの、劣化しています。
3本とも、JJ の ECC83MG に交換しました。
新しい JJ の真空管
オリジナルの真空管は交換した JJ の箱に入れてお返ししました。
古い真空管は JJ の箱に入れて送り返します

以上が Marshall 1987 のオーバーホール、レストアの内容です。

良きギターライフを