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2015年11月25日水曜日

真空管交換で治せるギターアンプの故障

ひとくちにギターアンプの故障といっても、原因は様々です。
壊れていて交換しないといけない部品もケース・バイ・ケースで異なります。
真空管の交換で治る故障と回路部品の交換をしないと治らない故障があります。
ここでは真空管の交換で治るケースについてお話します。

真空管の交換は簡単です。古いのを抜いて新しいのを挿せばよい。しかし、闇雲に力任せで引っこ抜いたり、無理やりネジ込んだりしては、ピンを折ったり、ガラス管を割ったりしてしまいます。
そういう失敗をしてほしくなくてギャンプスのウェブサイトに
ギターアンプの真空管の交換方法 という記事を掲載しています。

今私のところに修理で来ているアンプのプリ管のほとんどをお客さまご自身で交換なさっています。 12AX7 と 12AT7 計6本のうち、実に3本で、ピンの曲がりが発生していました。お客さまは、私のウェブサイトの記事をご覧になったにもかかわらずピン曲がりが起きています。おそらくグイッと強い力で押し込まれたのではないかと推測します。何かしらヒッカカリがあるような場合は押し込まずに真空管のピンの並びとソケットの穴の位置関係を再度よく目で見て確実に穴とピンが合わさる位置で押し込んでください。
このアンプも、ピン曲がりを修正すれば、すんなりとソケットに入りました。

また、ある日、
「真空管の交換を自分でやって感電したらどうしてくれるんだ」
とおっしゃる方からメールをいただきました。

私の真意は、
「ギターアンプの故障が発生し、大慌てで修理屋さんに送ったら、真空管が交換されただけで返された、にもかかわらず高い修理代金を払った」というようなケースでギタリストの方に少しでもお金を節約してもらいたくて、「もしもご自分で真空管交換なさりたい方には方法はこうですよ」という意味あいで掲載しています。
そうはいっても、あまり細かい作業が苦手で力加減が分からず、ピンをまげてしまうかもしれないというお方もいらっしゃるかと思います。自分で交換するのはめんどうだったり、自信がなかったりのお客さまは修理屋さんに真空管交換の依頼なさることをお勧めします。
お客さまご自信による真空管交換を強制するつもりは全くございません。

以上の主旨をご理解なさったうえでこの先をお読みください。

1. ヒューズが飛ぶとき、真空管交換でなおることもあるケース
電源スイッチをオンにし、次にスタンバイスイッチもオンにした瞬間にパイロットランプが消えたというような場合。以後は電源スイッチをいれなおしてもパイロットランプは消えたままです。
あせるでしょうね。気を取り直してよく考えて、ヒューズボックスにたどりつき、コンセントからプラグを抜いてから、ヒューズを抜いてみると切れている。そこで新しいヒューズを買ってきて入れて見る。プラグを挿して、スイッチオンするとまた飛んでしまう。

この時点で、あと一回だけチャンスがあります。
もう一度コンセントから電源プラグを抜いてください。電源スイッチがオフであることを確かめてから、新しいヒューズを入れます。
次に、パワーチューブと整流管を交換してください。
もしも整流管を使っていないアンプ(ダイオード整流)であればパワーチューブだけを交換します。
たとえばデラックスリバーブであれば整流管の 5AR4 ( 別名 GZ34 ) 一本と 6V6GT,二本です。
もしもツインリバーブであれば 6L6GC 四本を交換します。

そして再度コンセントにプラグを挿して、電源スイッチをオンにし電源が上がるか見てください。電源も上がり、スタンバイを上げてもヒューズが飛ばなければ、今交換した真空管のうちのどれかが壊れていたということです。

もしも真空管交換しても、またヒューズが切れたら、故障しているのは真空管ではなくて内部の電源回路です。その時点ですぐにテストを中断してください。故障しているのはアルミ電解コンデンサーだったり、デカップリング抵抗だったり、ダイオードだったり、時には電源トランスのこともあります。修理屋さんに出すしか手はありません。


以上のことを言い方を変えますと、ヒューズが飛ぶ故障のうち何パーセントかの確率で真空管が故障しているケースがあるのです。
真空管が必ず壊れているわけでもありませんよ。真空管が壊れているケースも時にはあるということを言いたいのです。

2. 真空管のポジションと各々の真空管の役割
下の図は典型的な Fender のギターアンプの真空管ポジション番号( V1 ~ )とそのポジションの真空管の機能・役割について記載したものです。画像はクリックすると大きくなります。アンプの中で各真空管がどういう役割をまかされている真空管なのかを理解なさると、故障したときの目安となります。

【例1.】 リバーブが鳴らないとき
リバーブの機能をまかされているのは、V3 のリバーブドライバーと V4 のリバーブミキサーです。
V3 と V4 を交換してリバーブが鳴り出せばラッキー!!! 真空管故障で済みます。V3 とV4 が同時に壊れる確率は低いので、どっちが悪いかは、また古いのを一本ずつ挿しなおして調べて一本に絞ってください。
真空管交換で治らなかったら、リバーブ・パンが悪いかリバーブ・ケーブルが悪いか、回路が悪いかです。

【例2.】 トレモロが鳴らないとき
ひところ前によくあったのがフットスイッチをつながずにトレモロの Intensity を上げても揺れがでないことから修理依頼なさるケース。フットスイッチをつないでオンしないと鳴り出さないのはブラックフェース 以降、シルバーフェースも含むです。ブラウンフェースはフットスイッチをつながずとも鳴り出します。さすがに当方のウェブサイトでの記述の甲斐があってか、フットスイッチをつながないでトレモロがならないというお方はめっきり減りました。

きちんとフットスイッチもつないでいる、Vibrato のスイッチをオンしたのに鳴り出さないとき、 V5の真空管がトレモロのゆれを作り出しています。 V5 を交換してみてください。V5 交換でなおればラッキーです。V5 を交換しても直らないとき、フットスイッチの接触不良がないか確かめてください。フットスイッチの接触不良もないのにトレモロ鳴らなければ、残念ながら回路の問題です。修理に出す必要があります。

注) 最近、トレモロが鳴らなかったり、時にはスイッチオンにしてある時間が経過しないとトレモロが作動しないというアンプがありました。原因はフットスイッチの接触不良でした。

そんな感じで以下のチャートを参考になさってください。
JPG Tube Chart, Fender
真空管のポジションと役割

次のチャートはギター信号がどういう経路をたどってパワーチューブまでたどり着くのかを、簡略に書いたものです。 Fender アンプの Normal チャンネルにつないだときと Vibrato チャンネルにつないだときとで、ギター信号が通過する真空管が異なります。

【例3.】 Vibrato チャンネルの音は問題ないのに Normal チャンネルだけが、極端に音質低下したというような場合、V1 を交換してみてください。それで治らなかったら修理に出してください。Normal チャンネルはギター信号を V1 で受けて一回目の増幅をし、トーンコントロールとボリュームポットに信号を送り、再度 V1 で2回目の増幅をし、その信号を V6 のフェーズインバーターに送ります。V6 には Vibrato チャンネルの信号も送られてきており、パワーアンプをドライブしています。

【例4.】 Normal チャンネルは何も問題ないのに Vibrato チャンネルの音がおかしい場合、V2 と V4 が交換対象です。リバーブとトレモロについては例1.と例2を参照ください。

【例5.】ノイズが大きくなったとき
いつもよりもノイズが大きくなってしまったという場合、そろそろオーバーホールの時期かもしれません。でも待って、単純に真空管の劣化かもしれません。それは確かめてみないと断言はできません。ノイズは様々な要因で起こります。特に「以前に比べて大きくなった」場合、真空管を含めたあらゆる回路部品が原因となりえます。
ノイズの問題を真空管の劣化により引き起こす場合、全ての真空管がその原因となりえます。
私の場合は、まず整流管を交換してみます。次にパワー管です。そして次にプリ管という順番で図の右側の真空管から左に向かって確認をしています。

ノイズというよりも「ピューーーーヒョロヒョロ」というような変な音が出る場合、マイクロフォニックという症状です。プリ管特にゲインの高い 12AX7 が劣化すると起こしやすい症状です。

壊れていないが付いているプリ管の銘柄を変えてサウンドの変化を見たいときにもこれらのチャートは役立ちます。
Vibrato チャンネルの音をよくしたいと思ってV1の真空管を換えていらっしゃるケースを時折見受けます。正しくは V2 が Vibrato チャンネルのギター信号の入り口です。
JPG Guitar signal path
ギター信号の流れと真空管


下の Fig3. はツイード・デラックスの真空管ポジションと役割です。
ツイード・アンプはギター信号の流れが単純に V1, V2, V3 と流れていきます。そのためツイードデラックス用にはFig 2.のようなギター信号の流れのチャートは作っていません。
JPG Tweed DX tube chart
ツイードデラックスの真空管のポジションと機能


【プリ真空管のタイプ】
Fig 1. と Fig 3. のTube Type のところに互換名を記載しています。
例えば 12AX7 ( ECC83 ) です。12で始まるタイプ名は米国でのタイプ名です。 ECC ではじまるタイプ名はヨーロッパにおけるその真空管のタイプ名です。つまり 12AX7 と書いてあれば ECC83 と同じ真空管タイプであることを示します。
同じようにして、12AT7 は ECC81 です。 

7025 というのは米国での呼び名で、タイプとしては 12AX7 です。12AX7 の高信頼管です。
7025 でも 12AX7 でもどちらも使えます。現行メーカーの中で 7025 として販売しているのは今のところ TAD ( Tube Amp Doctor ) の 7025 です。 EH や Tungsol などの 12AX7 と比較してみると、大して音が良いとか、ノイズが少ないとかの差は見受けられませんでした。

市販されている真空管の中には 12AX7WC のように後ろにサフィックスの付いているものがあります。サフィックスが付いている分、少しづつ特性が違うのですが、サフィックス無しのものと互換です。

【12AX7 と 12AT7 との互換性】
ウェブサイトのあちらこちらで 「12AX7 ( ECC83 ) の代わりに違うタイプを挿して音が変化する。しかもそれらは互換があるから問題ない」というような記述を多く見受けます。
しかし、厳密にいうと回路部品、特に真空管の動作点を決めているプレート抵抗とカソード抵抗は真空管のタイプが変わると大きなストレスを受けることがあります。
言い方を変えますと使用するプリ管の真空管タイプに合わせて動作点を決定するプレート抵抗とカソード抵抗の値が決められて配線されています。

12AX7 用に設計した回路に12AX7 の代わりに使用して全く問題の無いのは
5751と 12AY7( 別名 6072 、なおヨーロッパ名の ECCxx はありません) です。

12AX7 の代わりに 12AT7 をお使いになったり、逆に本来は 12AT7を使う場所に12AX7 をお使いになったりすることは、あまりお勧めしていません。

下の2枚の図は12AX7 と 12AT7 の動作曲線に書き込みをしたものです。
このグラフの縦軸に着目してください。

12AX7 を普通に使った場合、流れる電流は 0 から 3mA の間で動作します。
ところが、12AT7 を普通に使う場合は 0 から20mA の間で動作するのです。
その差は実に7倍の電流の違いになります。
JPG 12AX7 operation curve
12AX7 の動作曲線 0から3mA
つまり、この2つの管は厳密にいうと互換ではないのです。ピンの並びや各ピンに割り当てられたて素子は同じでも、動作するときの挙動、つまらり、回路部品である抵抗にかかるストレスの度合いはまったく異なります。
JPG 12AT7 operation chart
12AT7 の動作 0から 20mA
 12AX7 の代わりに 12AT7  を使ったり、 12AT7 の代わりに 12AX7 を使ったりして、すぐさま何か目に見える問題が起こるとは限りません。しかし、回路部品は確実に余分なストレスを受けています。
過去に、12AX7 でギリギリの動作をするような回路を組みました。12AX7 では問題なく作動していました。そこに 12AT7 を入れて使うという実験を行いました。見事に 12AT7 のガラス管は白濁し壊れました。 プリ管の動作点を決定するプレート抵抗も劣化していました。

【パワー管のタイプ】
ギターアンプに使われるパワー管で代表的なものは 6V6GT, 6L6GC, EL34, EL84 です。

Champ に使われているのが 6V6GT x1本
Deluxe Reverb、Princeton Reverb、Tweed Deluxe は 6V6GT x 2本
Vibroverb、Proreverb、Vibrolux 、Tweed Bassman は 6L6GC x2本
Twin reverb は 6L6GC X4本
Blues Jr. と Pro Jr. は EL84 x2本です。

Marshall 1987 は EL34 x2本
Marshall 1959 は EL34 x4本

VOX AC30 と Matchless DC30 は EL84 x4本

この他に 6550 や 7581 、KT66、KT77 などがあります。

これらの真空管のタイプが異なるものは基本的に別物と考えてください。
各々流れる電流の値が異なります。つまり、例えば 6V6GT 用の回路に6L6GC を載せた場合、設計者の想定よりも多くの電流が流れます。

6V6GT 用のアンプに EL34 の真空管はいれないでください。
アンプの健康上、つまり、トランスや回路がダメージを受ける可能性がとても高い。

では、6V6GT 用のアンプよりも大き目のトランスを積んでいる、6L6GC 用のアンプにEL34を入れる場合は、もうどこかで書いた気がしますが、もう一度書いておきます。
パワー管のソケットの一番ピンが問題になります。
6L6GC は 1番ピンは使いません。( 6V6GT も同じく1番ピンは使いません) そのため、ソケットの 1番ピンに何もつないでないケースと別の目的に使用しているケースとがあります。
Fender のアンプで 6L6GC や 6V6GT を使うものはこの 1番ピンにフェーズインバーターからの信号線を繋いでいます。そして1番ピンと5番ピンの間に1500Ωの抵抗が橋渡しされています。
この抵抗のことを Grid Stopper と呼びます。目的は発振防止です。
一方で EL34 は 1番ピンを使います。この1 番ピンはサプレッサー・グリッドもしくは G3 と呼ばれます。EL34 を普通に使う場合は1番ピンをグラウンドに落とします。
6L6GC 用のアンプに EL 34 をつけたいならば、一番ピンをグラウンドに落とすことが必要です。 fender であれば一番ピンに繋がっていた 1500Ω抵抗とフェーズインバーターからの信号線とをラグ端子などの別の端子を使って配線しなおした後で、一番ピンをグラウンドに落としてから EL34 に交換します。元々一番ピンに何もつながっていないアンプの場合は一番ピンをグラウンドに落とすだけの手間が必要です。

では1番ピンだけが問題なのか、いいえ、電源トランスの容量、電源電圧の電流許容量に余裕がないといけません。さらにヒーター電圧 6.3V の電流許容量も余裕が必要になります。
6L6GC は一本あたり 900mA の電流を消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 1.8A( 1800mA)  です。
 EL34は一本あたり 1.5A(1500mA) も消費します。2本使いのプッシュプル・アンプの消費電流は 3A( 3000mA)  です。
プッシュプルアンプを想定した場合、電源トランスの6.3V ヒーター巻線の許容電流にさらに 1.2A の上乗せの余裕がないといけません。
もしも 4本使いのTwin revreb に EL34を使う場合は実に2.4A もの余裕がないといけません。
余談ながら、電源トランスのヒーター巻線はパワーチューブだけでなくプリチューブも使っています。
12AX7 の場合一本あたり300mA 消費しています。

ヒーター巻線の電流許容量に余裕がないのに EL34 を無理やり使うと、トランスのメーカーの保証していない領域で使うことになります。電源トランスが発熱し、内部で絶縁破壊がおき、内部の巻線がきれてしまう可能性がとても大きくなります。

はじめっから、メーカー側で 「6L6GC でも EL34 でも好きなほうを使ってください」といっているアンプは一番ピンをはじめからグラウンドに落としてあるのと同時に電源トランスの巻線の許容電流量に余裕があるアンプということです。

今日はこのへんで。
ではよきキダーライフをお過ごしください。





 








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