左から PT, CT, OT |
Fender ギターアンプ 1台に次の 4種類のトランスが搭載されます。
チョークトランス(CT)やリバーブトランス(RT)が使われないモデルがあります。電源トランス(PT) と 出力トランス(OT) は必ず必要です。
1. 電源トランス Power Transformer ( PT )
電源コードを介してコンセントにつながり、コンセントの100V を変圧し、アンプに必要な電圧を作り出します。増幅に必要な 約300V(モデルにより電圧が異なります)、真空管のヒーター(フィラメント) を点灯させる6.3V、バイアス電圧用の70V、整流管専用のヒーター(フィラメント)を点灯させる5V等です。
2. 出力トランス Output Transformer ( OT )
スピーカーにつながり、パワーチューブの出力を変換してスピーカーを駆動します。
3. チョークトランス Choke Transformer ( CT )
電源回路の中にあり、なめらかな直流電圧を作り出します。
4. リバーブトランス Reverb Transformer ( RT )
アンプの信号を変換してリバーブ・スプリングをドライブします。
RT はほぼ全てのリバーブ搭載モデルに共通のもの( 同じ電気特性のもの)が使われています。
但し、VibroKing と Reverb Unit だけは異なる RT を使います。
RT |
ここでは1. 電源トランス PT, 2.出力トランス OT, 3. チョークトランス CT の3つに着目し、Fender の代表的なアンプにどのような トランスが使われているのかを表にまとめてみました。
3つのトランス |
注)
(a) Fender のブラックフェースとシルバーフェースにフォーカスしてます。
(b) プラウンフェースの中のVibroverb は、参考のために表に載せています。
(c) 他のブラウンフェースとツイードは載せていません。
(d) 各アンプの設計図(論理回路図)に記載されているトランスの番号からトランスの仕様(スペック)を調査して表にまとめたものです。
下の JPEG をクリックすると拡大されます。
アンプの各モデルと使われているトランスの種類 |
この表から、なかなか興味深い事実が見えてきます。文中の①②③④……
【Champ SF と BF】
チャンプは、パワーアンプに、6V6GT 1本だけを使うアンプです。SE ( Single Ended ) と呼ばれます。
PT は125P1B というタイプの2次電圧325V-0-325Vで 70mA が使われています。このトランスには 022292 という刻印があります。
OT は 125A35A で、一次側インピーダンス 7KΩ、二次側インピーダンス 3.2Ωです。6V6GT の特性に合わせたインピーダンスです。
CT は付いていません。CT の代わりに 1KΩ-1W の抵抗が使われています。
Schematic のカラムに AA764-BF と CBS-SF と両方書いてあります。これはブラックフェースでもシルバーフェースでも同じ電気的特性(スペック)のトランスが使われていることを意味します。驚きでしょうが、事実です。製作年が異なるため、トランスに使われているコアやエナメル線など細かなところは異なるものの、仕様つまりスペックは同じトランスが使われているのです。Champ だけでなく、他のモデルも、シルバーフェース、ブラックフェース共に同じ電気特性のトランスが使われています。
【Princeton, Princeton reverb SF と BF】
プリンストンはパワーチューブ x2 本を使います。( 6V6GT x2 ) プッシュプル・アンプ PP ( PushPull)と呼ばれます。ここには載せておりませんが、ツイードのプリンストンはSE (シングルエンデド)です。ご参考までに。
②PT はチャンプもプリンストンも同じ
PT は 125P1B です。なんとチャンプと同じなんです。出力がチャンプの倍の 15W となっているにも関わらず、電源トランスは同じです。チャンプの電源トランスは6V6GTを二本稼働させる余裕があるともいえます。
OT は 125A10B で一次側インピーダンス 8KΩ、二次側インピーダンス 8Ωです。
プリンストンはプッシュプル・アンプであるため SE であるチャンプとは全く別物の出力トランスが必要となります。
もしもチャンプをプリンストンに改造する場合、 PT は交換せずに流用できます。しかし、OTは必ず交換する必要があります。
もしもチャンプをプリンストンに改造する場合、 PT は交換せずに流用できます。しかし、OTは必ず交換する必要があります。
6V6GT x2 本で 15W 出力する仕様のOT が必要となるのです。
CT は付いていません。CT の代わりに 1KΩ-1W の抵抗が使われています。
Schematics は、AA964, AA164, AB1270 で、ブラックフェースでもシルバーフェースでも同じトランスを使用しています。
【Deluxe, Deluxe Reverb SF と BF】
デラリバはプリンストンと同じく 6V6GT x2 本のプッシュプルであるものの出力は 22W とプリンストンよりも大きくなっています。PT, OT 共にプリンストンよりも少し大きめのトランスが使われています。
PT の定格は120mA で、プリンストンよりも50mA 多くの電流を流すことができます。
OT のプライマリーインピーダンスは 6.6KΩで、プリンストンの8KΩよりも下がります。
このプライマリーインピーダンスの値はパワーチューブの動作点を決定する重要なファクターです。
値が低いほどパワーチューブには多くの電流が流れ、パワーチューブとしての仕事をたくさんさせると考えると分かりやすいでしよう。
③ CT が使われるのはデラリバとそれ以上の機種
デラックスリバーブから CT ( チョークトランス) が使われます。
デラリバのチョークトランスの定格は 4H 50mAです。
【Vibrolux Reverb / Tremolux SF と BF】
Vibrolux から上位の機種のパワーチューブは 6L6GC x2 のプッシュプルとなります。Tremolux と Vibrolux のトランスは同じです。
PT ( 125P26A-022723) の許容電流は180mA と定格が上がります。デラリバよりも60mA 多くの電流が流せます。
OT (125A6A-022848) のプライマリーインピーダンスは 4KΩと、デラリバよりも低い値になります。
デラリバよりもパワーチューブの仕事量が増えることになります。
セカンダリーのインピーダンスが 4Ωなのはスピーカーの個数が2個になり、8Ωの2個並列つなぎでトータル4Ωのスピーカーが繋がるためです。
④ Vibrolux の CT はデラリバと同じものが使われている。
CTの定格 は 4H 50mAとデラリバと同じです。この定格の CTを使うのは Deluxe Reverb と Vibrolux Reverb / tremolux の 3機種だけです。それよりも上位機種はより大きい CTに変更となります。
【Vibroverb ブラウンフェース】
⑤ ブラウンフェースの Vibroverb の PT と OT はVibrolux と同じものが使われます。しかし、
⑥ CT は 4H-90mA (125C1A-022699) と、Vibrolux よりも定格の大きいものを使います。
CT の内部抵抗が167Ωから 106Ωと少なくなったことにより、パワーチューブの SG に流れる電流の量が増えます。するとパワーアンプの増幅ゲインも増えます。より多くの電流を流す分、定格電流も増えています。ブラウンフェースのVibroverb は Vibrolux Reverb よりも少しだけ出力が高くなっていることを意味します。
ブラウンフェースの Vibroverb と シルバーフェースやブラックフェースのVobrolux Reverb は 6L6GC x2 のパワーチューブを使い、10インチのスピーカーを2個搭載しています。トランスは PT と OT も同じです。 CTだけが異なります。
2つの機種のサウンドの差はどこから来るかというと、 CT の定格の差に加え、パワーアンプのドライバーのプリ管タイプが Vibroverb は 12AX7で Vibrolux は 12AT7であること、プリアンプの回路とトーンスタックの抵抗とコンデンサーが異なることが影響しています。
【ProReverb SF と BF】
Pro reverb は 12" のスピーカーを2個搭載しています。⑦Pro reverb は、ブラウンフェースの Vibroverb と比べると、OT と CT は同じものを使います。PT ( 125P5D-022798) だけ大きくなります。
⑧Vibrolux reverb と比較すると、OT だけ同じで PT と CT が大きくなります。
【Vibroverb BF】
SF のVibroverb はありません。BF だけです。Pro reverb と比較すると
PT と CT は同じで、OT の番号が 125A7A となっています。これは 125A6A の8Ωタップバージョンで、電気特性は同じです。つなぐことの出来るスピーカーのインピーダンスが8Ωとなっているだけです。15インチ x 1発の仕様の場合、PT のセカンダリーインピーダンスが8Ωのものを使うということです。
⑨ PT, OT, CT ともにProreverb と同じ仕様のものが使われていると言うことができます。
Stevie Ray Vaughan仕様の Vibroverb のOT はワンランク上の Bassman 用のものに載せ換えています。表に掲載した Bassman の 125A13A の 8Ωタップバージョンです。
【Twin Reverb】
Pro reverb と同様に 12インチ x2 発のスピーカーながらこちらは 6L6GC x4 本のパワーアンプのためPT (125P34A-022756) も OT (125A29A) も Pro Reverb よりも大きいものが使われています。⑩ CT ( 125C1A-022699) は ProReverb や Vibroverb 等と同じ 4H-90mAです。
MercuryMagnetics のサイトを見ると、この表よりもはるかに細かくトランスの種類が分けられています。特にブラック・フェースとシルバーフェースでは同じモデルでも異なる品番となっています。 Mercury ではツイード、ブラウンフェース、ブラックフェース、シルバーフェース、Reissue 用とそれぞれ別の品番で販売されています。トランスの電気的特性は同じでも使用されていたエナメル線の太さや巻き方、コア金属の違いなどシルバーフェース期とブラックフェース期で異なる違いを緻密に再現しています。Reissue アンプはトランスのサイズが微妙に異なっていてヴィンテージ用のトランスを取り付けるときにネジ穴が合わないことがあります。そのため、Reissue 用の Upgrade版は reissue のネジ穴に合わせた大きさとなっています。
そういう厳密なこだわりから少し離れると、トランスは交換せず、シルバーフェースの回路をブラックフェースに MOD すると、おおむねブラックフェースの音になります。「同じモデルであればブラックフェースで使っていたトランスとシルバーフェースで使っていたトランスの電気特性は同じ」だからです。Fender のヴィンテージ・シルバーフェースをブラックフェースに MOD したものの方が ブラックフェースのリイシューよりもブラックフェースに近い音になるのは、このトランスの特性が同じであることと、回路配線がハンドワイアードであることの2つが貢献しています。
以上ご参考になれば幸いです。
良きギターライフを
【表の見方】カラムの意味
Model :
Fender アンプの Model 名
Schematic :
回路図の識別子 ハイフンの後の BFは Blackface を意味し,SFはSilverfaceを意味します。
Speaker :
搭載されているスピーカーのインチ数と個数されとインピーダンス(Ω)です。
W:
公称出力です。厳密な値ではなく、おおよその目安となる数値ととらえてください。
Power Tube:
パワーアンプに使われる真空管のタイプと数
PT:
電源トランスのタイプと印字されている型番、メインの電圧と許容電流の値
OT:
出力トランスのタイプと印字されている型番、プライマリーインピーダンスとセカンダリーインピーダンス
CT:
チョークトランスのタイプと印字されている型番、ヘンリー(H) 値と許容電流
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