4年前に ギャンプスのアウトレット販売でご購入いただいたアンプです。
「あるとき長時間パワーオンしていたら音が途切れる症状が一度出た」「以後再発はしていないものの、心配なので見てほしい」というご要望です。
当アンプを購入なさり4年の間、パワーチューブの交換はなさっていないとのことです。
「消耗品ともいうべきパワー・チューブが劣化したのではないか」
というのが、お客様から、お話をうかがっての私の第一印象。
しかし、安易に結論付けずに、最新の注意を払い点検とメンテナンスを行いました。
過去にギャンプスが一度オーバーホールをしたハンドワイアードのアンプは以下で述べる作業1.から4.までは無料です。作業5.パワーチューブ交換のみ有料です。
(ギャンプスのオーバーホールがされていないアンプや基板アンプはこうはいきませんので悪しからずご了承ください)
まずは再現を試みます。
再現しない場合、お客様の経験された症状を引き起こす可能性のある部位を中心に総点検していきます。
【再現テスト】
「長時間パワーオンしていたときに音途切れが出た」というお話に基づき約1時間パワーオンし、お客さま立ち合いのもとで演奏してみましたが、再現しませんでした。
お客さまがお帰りになった後も日を替えて何度もトライするも再現しません。
音途切れの原因となりそうな部分はもとより、その他の部分も含めたアンプの総合チェックを実施することにしました。
故障再現テスト |
当アンプのスピーカーケーブルはAIW 製 WE復刻版を使い配線しております。
配線方式はブラックフェースと同じ方法で、小さめの回路ボードを中継点とし、中継点から2個のスピーカーに均等に並列接続配線しています。
この部分のハンダ付けをチェックしましたが、問題なし。増しハンダをしておきます。
スピーカーケーブルの中継点 |
増しハンダ |
【2.フィルターキャップのチェック 】無料サービス
フィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー群) のチェックをしました。
液漏れもなく、デカップリング抵抗も問題ありません。
当アンプのフィルターキャップ |
デカップリング抵抗の計測、問題なし |
Fender アンプに使われるカーボンコンポジット抵抗は音質が良いものの、経年変化で少しずつ抵抗値が大きくなるという特性があります。
特に高い電圧のかかるプレート抵抗の部分はその傾向があります。
全てのプレート抵抗を検査しました。
100KΩ抵抗の値が17%高めになっている部分が一か所見つかりました。
これが原因ではないものの予防交換しておきます。
117.6KΩのプレート抵抗 |
交換後 |
4年間一度も真空管交換していないのであれば真空管とソケットの接合部のクリーニングはかかせません。
プリ管の接続端子 |
アルコールを染ませた綿棒で一本ずつクリーニング |
ソケットのクリーニング |
ソケットのシャーシー側もクリーニング |
6L6GC をソケットから抜いたところ |
これは真空管をソケットに差す向きを定める目的とガラス管の先端を保護する目的をかねています。
経年変化が進んでくると、真空管は電流をたくさん流すようになり、最後には壊れます。
壊れる前兆としては真空管の温度が次第に高くなってきます。
そして電源を上げたときの真空管の温度がいぜんに比べて高くなってくると、この部分は折れやすくなります。つまり6L6GC の寿命が近くなっているということです。
今回の問題である「音途切れ」の原因はこの 6L6GC の劣化であると推測します。
Keyway の折れた6L6GC ( 左 ) |
プレート電圧は 472V |
今回の問題は真空管の劣化でほぼ間違いはないと思います。
しかし、もしも真空管ソケットの絶縁不足である場合でも音途切れの原因となりえます。
ソケットの絶縁低下が真空管の劣化を促進したかもしれません。
こればかりは証拠がないのでなんとも言えません。
そういうときは憂いをなくしておきます。
6L6GC のソケット |
真空管のソケットを絶縁性能の高いものに交換しておきます。
古いソケットを外したところ |
セラミック製の真空管ソケット |
ソケット部分の配線 |
【6. 6L6GC 真空管の交換】有料……真空管は消耗品のため交換料金を頂戴しました。
「真空管を換えるとしたら Tungsol にしてほしい」というお客様のご要望に基づきTungsol 6L6GCのマッチドペアに交換しました。
以前は JJ の6L6GC でした。銘柄の異なるパワーチューブに換える場合は真空管の特性値が少し異なるためバイアス調整は必須です。
パワーチューブを Tungsol 6L6GC に交換しバイアス調整 |