'68 Deluxe Reverb のオーバーホールの内容を掲載します。2016年1月から2月初旬まで作業。和歌山県の T さまのご所有のアンプです。
バッフルボードが痛んでおり、T さまご自身でバッフルボードを作り直されたそうです。アンプのキャビネットを拝見しますと、とてもていねいに新しいバッフルボードが作られていました。
回路部分については過去に一度修理に出されたそうです。
当方へお持込になり、その時点で試奏すると Normal チャンネルはかろうじて鳴ります。音圧が全く出ていません。Vibrato チャンネルはさらに音が小さい。確かにチャンプよりも音圧がなく、典型的なオーバーホールの必要なアンプの音です。
お客さまのご要望は「孫の代まで使えるアンプにしてほしい」です。
【1.】受け入れ検査
まずはシャーシーの内部を観察しました。
アンプのシャーシーを外したところ。下の写真。
アンプシャーシー内、回路全貌 |
ヴィブラート(トレモロ)機能用のポット、Speed を Vibrato チャンネルのMiddle コントロール に変更し、Intensity を 両チャネル共通のMaster Volume に変更しています。
Master Volume と Middle の改造 |
過去に交換された RT |
オーディオ用トランスは録音された音源の再生用のトランスです。楽器の一部として使われ、音を作り出す目的のギターアンプには合いません。
過去に色々試した結果、出力トランスは MercuryMagnetics もしくはHammond のギター用トランスが良い音色と感じ、使っています。この他にも最近になって US 製で色々出てきています。
今回は MercuryMagnetics にデラリバ用トランスを発注しました。
トランス代金はオーバーホールの基本料金に追加となります。
トランス代金はオーバーホールの基本料金に追加となります。
オーディオアンプ用の出力トランス |
過去の修理箇所その1. |
過去の修理箇所その2. |
回路ボード |
回路ボード |
もしもこのテストで合格すれば、カーボン抵抗やヴィンテージ・コンデンサー ( いわゆる Blue Molded と呼ばれる青色のカップリングコンデンサー) は再利用可能です。
抵抗のテスト。デジボルで各抵抗の抵抗値を測ります。
ほとんどの抵抗が本来の値よりもはるかに抵抗値が大きくなり、壊れる手前の状態です。
ほとんどの抵抗が本来の値よりもはるかに抵抗値が大きくなり、壊れる手前の状態です。
Fender のヴィンテージアンプにはカーボン・コンポジット抵抗が使われています。音質特性は良く、信頼性も10年やそこらは問題ありません。10年以上経過すると、空気中の湿度を吸収しはじめ、電気が通ると湿気を吐き出すという動作の繰り返しをします。次第に内部のカーボンの円筒の塊が、いびつな形状に変化し、内部に小さな空洞がいくつもできます。この形状変化に伴い、抵抗値も大きくなっていきます。古いアンプでよく出るガサゴソ・ノイズ。いくつかある原因のうちカーボンコンポジット抵抗の劣化も原因のひとつとなります。放置して使い続けると最後にパカッと割れてしまいます。当アンプは製造から50年近くたっています。残念ながら全て新しいカーボンコンポジット抵抗に交換する必要があります。「孫の代まで使えるように」というのであればなおさらです。
次に コンデンサーのDC Leak テストを行いました。これはコンデンサーの一端に直流電圧をかけ、もう一端に電圧が漏れ出てこないかをチェックするテストです。コンデンサーの性質のひとつは「交流は通すが直流は通さない」です。当テストは直流を通さないはずのコンデンサーが直流を通すような劣化を発生していないかを見るテストです。残念ながら漏れの大小はあるものの全てのコンデンサーが DC Leak ( 直流漏れ ) していました。 下の写真。
カップリングコンデンサーも残念ながら流用は不可能で、全数交換が必要です。
カップリングコンデンサーも残念ながら流用は不可能で、全数交換が必要です。
「音圧が出ない、音が小さい」という症状の原因は抵抗の劣化とコンデンサーの劣化があわさった結果です。
今まさに壊れる寸前の抵抗(今にも割れそうな抵抗) だけを交換し、加えてDC Leak のひどいコンデンサーだけを交換し、なるべくオリジナルの抵抗とコンデンサーを残したと仮定します。
修理直後には音は鳴るでしょう。しかし、そのあとが問題です。1ヵ月後か3ヶ月後か半年後か遅くとも1年後には、交換しなかった抵抗やコンデンサーが壊れ、再修理が必要となります。全ての抵抗とコンデンサーが新しくなるまで同じことを繰り返します。理由は部品メーカーの品質保証期限がとっくに EOL ( End Of Life )を過ぎているからです。ゆっくりとしたドミノ倒しのように次々と壊れていきます。 どんなメーカーの抵抗やコンデンサーも耐用年数はおよそ10年を目安に製造されています。このアンプのオリジナル部品は製造されて既に50年経過しています。
ギター本体の抵抗やコンデンサーは長持ちします。加わる電気ストレスが非常に少ないからです。
ギター本体に使われている抵抗やコンデンサーは長持ちするため、アンプの抵抗やコンデンサーも同じであろうという考えがあります。しかし、それはどうでしょうか。
ギターのピックアップが発電する電圧は 150mV ~400mV しかありません。それに比べてアンプの抵抗やコンデンサーは120V ~ 400V と実にギター本体の約1000倍の電圧にさらされています。
ギターのピックアップから取り出すことのできる電流は多くて数mA です。アンプに流れる電流は数百mA と ギター本体の約100倍にもなります。
電圧が高いほど、電流が高いほど部品のうけるストレスは大きくなります。
今まさに壊れる寸前の抵抗(今にも割れそうな抵抗) だけを交換し、加えてDC Leak のひどいコンデンサーだけを交換し、なるべくオリジナルの抵抗とコンデンサーを残したと仮定します。
修理直後には音は鳴るでしょう。しかし、そのあとが問題です。1ヵ月後か3ヶ月後か半年後か遅くとも1年後には、交換しなかった抵抗やコンデンサーが壊れ、再修理が必要となります。全ての抵抗とコンデンサーが新しくなるまで同じことを繰り返します。理由は部品メーカーの品質保証期限がとっくに EOL ( End Of Life )を過ぎているからです。ゆっくりとしたドミノ倒しのように次々と壊れていきます。 どんなメーカーの抵抗やコンデンサーも耐用年数はおよそ10年を目安に製造されています。このアンプのオリジナル部品は製造されて既に50年経過しています。
ギター本体の抵抗やコンデンサーは長持ちします。加わる電気ストレスが非常に少ないからです。
ギター本体に使われている抵抗やコンデンサーは長持ちするため、アンプの抵抗やコンデンサーも同じであろうという考えがあります。しかし、それはどうでしょうか。
ギターのピックアップが発電する電圧は 150mV ~400mV しかありません。それに比べてアンプの抵抗やコンデンサーは120V ~ 400V と実にギター本体の約1000倍の電圧にさらされています。
ギターのピックアップから取り出すことのできる電流は多くて数mA です。アンプに流れる電流は数百mA と ギター本体の約100倍にもなります。
電圧が高いほど、電流が高いほど部品のうけるストレスは大きくなります。
コンデンサーの DC Leak テスト |
全て Sprague の ATOM に交換されています。( ○ )
デカップリング抵抗も金属抵抗に交換されています。( ○ )
その場は、この部分はオーバーホールはいらないであろうと申し上げました。
いざ作業の段階になり、後日よくよく見てみると次のことに気づきました。
① 高電圧のかかる配線材の皮膜が劣化しており、耐圧に問題があります。(△)
⇒ できればベルデンの1000V耐圧の線に交換して安全性を高めたい
② コンデンサーの値は 5本全てが20μF が付いています。(△)
デラリバのオリジナルの値は本来は5個とも全て16μです。
⇒ 右から3つめまでのコンデンサーは 20μF でもよいです。しかし、左の2つはデラリバのオリジナルの値である 16μFにするほうがデラリバらしい音になります。
作業前のフィルターキャップ |
「孫の代まで使える」という合言葉もあります。店主の独自の判断により全交換するということで、見積は変更せず、全数交換を行なうことにしました。
少しおかしな言い回しをしますと、このあたりが個人事業の醍醐味でもあります。もしもこれが大きな企業であれば、見積をやり直し、増えた作業と部品の代金も上乗せ請求することになります。
自分の裁量でどんな作業もコストを気にせずできるところが個人事業の強みでもあり、弱みでもあります。
【2.】 フィルターキャップ部のオーバーホール
コンデンサーと抵抗を外したところ |
古い配線材を取り外し、ボードをクリーニング |
配線材はベルデンの1000V 耐圧にして絶縁性能を向上しました。
さらに配線材の上にガラス樹脂の皮膜(白い管)を被せ、さらに絶縁を高め、配線間の電気的結合を極力少なくしています。音には関係しません。でも安全第一なのです。
フィルターキャップ部分のオーバーホール完了 |
【フィルターキャップ部のアルミ電解コンデンサーの値について】解説しておきます。
「値が大きいほどノイズを少なく静かなアンプにできる」ということがネット上に書かれています。このことはメイン・フィルターとセカンダリー・グリッドのフィルターについてのみ当てはまります。
だからといってむやみに大きくはできません。整流回路に真空管を使うアンプの場合、整流管のタイプによりメインフィルターの大きさが制限されます。
5AR4 は60μF まで、5U4G は40μF まで、5Y3GT は20μF までと制限されています。
制限値を超えると整流管が壊れやすくなります。
ダイオード整流のアンプですと、100μF もしくはそれ以上に大きくできます。
プリアンプとフェーズインバーター部のコンデンサーは大きい値にすると、ギター信号に含まれる大切な倍音成分を削ってしまい、音質が低下します。過去に実験でプリアンプのフィルターとフェーズインバーターのフィルターを大きくしてみました。元々付いている16μFを、30μF にしてみました。変におとなしい音、色気のない音になり、弦のタッチニュアンスが減りました。加えてノイズ低減の効果はあまりありません。
プリアンプとフェーズインバーター用のコンデンサーは本来の設計図どおりもしくはわずかに少なめが良い音になります。
【3.】出力トランス OT の交換
注文しておいたトランスが MercuryMagnetics から送られてきました。
出力トランスを交換します。
出力トランスの配線を外したところ |
出力トランスを取り外しました |
付いていた出力トランス |
MercuryMagnetics の出力トランスを取りつけ、配線しました |
マーキュリーのFBFDR-O |
【4】電源コードの交換
過去に電源コードは交換されていました。しかし、細い芯線 (AWG 18)のものが使われています。AWG 16 の芯線を持つ 3コンダクター(グラウンド線付き) の頑丈なものに交換しました。
電源コードの内部配線。芯線の太さ AWG18 |
新しい電源コードに交換。芯線の太さ AWG16 |
新しい電源コード |
5】バイアス回路部分のオーバーホール
バイアス回路は過去にアルミ電解コンデンサーだけ交換されています。
ダイオードと抵抗はオリジナルです。
バイアス回路のボードはメイン回路のボードと同様にカビが付いています。
配線材は古い Cloth wire のままで、絶縁が低下しています。この部分は Cloth wire だからといって音質がよくなることはなく、むしろ絶縁低下による故障の心配があります。
回路ボードのカビをクリーニングすると同時に部品も新品にしました。
配線材はベルデンの600V 耐圧に交換しました。(青色の線)
バイアス回路 |
ネジ留めを外しバイアス回路を表に引っ張り出したところ。 |
回路ボードにカビ |
回路ボードを消毒・クリーニングし、新しい部品をむ取りつけ |
配線材もベルデンに交換(青色) |
【6】パワーチューブ・ソケットの抵抗
パワーチューブには 470Ω1W と 1500Ω1/2W の抵抗が取り付けられています。
470Ωは SG ストッピング抵抗、1500Ωはグリッドストッピングです。
これらの抵抗も新しくしました。
SG ストッピングは熱に強い KOA の酸化金属抵抗。
グリッドストッピングはギター信号が通過するため音質重視で Kamaya のカーボンコンポジット抵抗を使いました。
パワーチューブの抵抗 |
パワーチューブの抵抗交換 |
【7】回路ボードの消毒とクリーニング
お客さまが直接お見えになったときに、カビの生えたボードをどうするかご相談しました。
現状のボードを消毒・クリーニングするよりも、撤去して新しボードを作り直すほうが手間が省けることを申し上げました。しかし、ボードはオリジナルでいきたいとのご希望でした。
まずは、ボードと真空管のソケット間、ボードとポット間をつなぐ配線を全て外します。
それからボードの下の部分を消毒します。
ボードの下の部分をきれいにしていないと、カビが残ったままとなり、将来またカビだらけとなってしまいます。
消毒、クリーニングを行いました。
絶縁ボードのクリーニング |
さらに下のシャーシー金属にもカビが発生しています。
消毒し、クリーニングを行いました。
メインの回路ボード上の部品のハンダを外し、全て取り去りました。
回路ボードを裏返しますと、茶色い染みがハトメの周りにこびり付いています。
絶縁ボードのさらに下の金属シャーシー部分もカビが発生 |
メインの回路ボード上の部品のハンダを外し、全て取り去りました。
メイン回路ボードの部品をはずしたところ |
ハンダ中に含まれるフラックスが溶け出した跡です。
金属のハトメを一個ずつ熱して、綿棒でフラックスを取る作業です。100個以上あるハトメをひとつひとつきれいにしていきます。
カビの消毒・クリーニングとフラックス除去の作業を済ませました。
【8】回路ボードへの部品の取り付け
フラックス除去の作業 |
クリーニング完了 |
これで、ようやくメイン回路のオーバーホールができる状態になりました。
パワーアンプに近いフェーズシフター(写真の左) から、ギター入力のあるプリアンプ(右側)に向けて部品を取り付けていきます。
信号の流れとは逆方向に取り付けていくのには理由があります。
信号の流れとは逆方向に取り付けていくのには理由があります。
この作業が終わった時点で取り付け残しや配線ミスが無いかの目視検査を行います。
このときは信号の流れに沿って右から左に向けて論理回路図のとおりにギターの信号の流れが正しく流れるかを検査します。レイアウト回路図は時々間違いが記載されているため、あてにせずあくまで論理回路図の信号の流れに沿います。もしも取り付け作業も検査工程も同じ順番で行なってしまうと、取り付けたときの思考が支配的となり、ついつい検査がおろそかになるのです。実際に正しく取り付けられているのを確かめることが大切です。自己の思い込みで「正しくつけたはずやから大丈夫」という気持ちを除外するために、取り付けたときとは逆の順番で検査するための対策です。
作業時とは異なった新鮮な目で冷静に回路を見直すことがで大切です。本来であれば私とは別の人に見てもらうのがベストでしょう。過去に苦い経験をした一人で作業しておる人間の苦肉の品質安定化対策です。
作業時とは異なった新鮮な目で冷静に回路を見直すことがで大切です。本来であれば私とは別の人に見てもらうのがベストでしょう。過去に苦い経験をした一人で作業しておる人間の苦肉の品質安定化対策です。
部品の取り付けを開始したボード |
a) フェーズインバーター回路
フェーズインバーター作業前 |
この部分の抵抗の値とコンデンサーの値の組み合わせでブラックフェース回路となったり、シルバーフェース回路となったりします。ブラックフェース回路で組み上げました。
手間は同じのためオーバーホールの基本料金内です。追加料金は不要。
b) ヴィブラート回路 ( トレモロ )
・ Vibratoチャンネルの Middle のコンデンサーにだけ、オリジナルのコンデンサーを取り付けています。 下の写真の左側、本体が濃い青で紙のラベルが貼られているコンデンサーです。【1】の受け入れ検査のDC Leak テストで最もDC Leak が少ないコンデンサーを選びました。
インプットジャックに入った信号は 2本の68KΩの抵抗を通過し、12AX7 へ行きます。
フェーズインバーター作業後 |
b) ヴィブラート回路 ( トレモロ )
トレモロ回路は3つのコンデンサーと真空管で発振を作り出し、その発振をオプトアイソレーターという光素子で電気信号に変換します。
発振というのは回路素子にとって非常に大きな電気ストレスです。
コンデンサーもオプトアイソレーターも全て壊れていました。
発振用の3つのコンデンサーの値を微妙に調節することで、ヴィブラートのゆれを遅めにしたり早くしたりできます。一般的に Fender の純正の値ではSpeed をゼロにした時点でも少し早すぎることがあります。ほんの少しですが、ゆっくりになるように調味料をふりかける感覚でコンデンサーの値を調節しておきます。
c) リバーブドライバーとリバーブミキサーの回路
ヴィブラート回路作業前 |
ヴィブラート回路の作業後 |
c) リバーブドライバーとリバーブミキサーの回路
リバーブ・パンの中のスプリングに信号を送り出す回路と、スプリングから戻ってきた信号を生音とミックスし増幅する回路です。
Normal チャンネルと Vibrato チャンネルの両方にリバーブがかけられるように MOD を入れています。これも手間はMOD 無しの作業とほぼ同じ ( 抵抗一本を 1W 耐圧にすること、配線のつなぎ方が一箇所異なる)です。オーバーホールの基本料金内ですませることができ、追加料金は不要です。
d) プリアンプ
リバーブドライバー、ミキサーの作業前 |
Normal チャンネルと Vibrato チャンネルの両方にリバーブがかけられるように MOD を入れています。これも手間はMOD 無しの作業とほぼ同じ ( 抵抗一本を 1W 耐圧にすること、配線のつなぎ方が一箇所異なる)です。オーバーホールの基本料金内ですませることができ、追加料金は不要です。
リバーブドライバー、ミキサーの作業後 |
d) プリアンプ
入力されてきたギターの信号を増幅した後にトーンスタックと呼ばれるトレブル、ミドル、バスの3つのコンデンサーに振り分け、ポットに送り、ポットから帰ってきた信号を再度増幅する回路です。
アンプの中で最も敏感です。後段の増幅回路からシャーシー内部の空間に発せられている電磁界に寄生されて発振しやすいという意味です。特にカビの被害を受けたアンプでは回路ボードの絶縁性能が新品よりも確実に低下しています。そのため少しだけ予防対策が必要となります。
Treble, Middle, Bass の3つのカップリング・コンデンサーからポットへ向かう側の端子、これらをボードのハトメ端子につなぐのではなく、少し空中に浮かせ、ラグ端子につなぎます。
アンプの中で最も敏感です。後段の増幅回路からシャーシー内部の空間に発せられている電磁界に寄生されて発振しやすいという意味です。特にカビの被害を受けたアンプでは回路ボードの絶縁性能が新品よりも確実に低下しています。そのため少しだけ予防対策が必要となります。
プリアンプ回路( Normal チャンネルと Vibrato チャンネル) |
Treble, Middle, Bass の3つのカップリング・コンデンサーからポットへ向かう側の端子、これらをボードのハトメ端子につなぐのではなく、少し空中に浮かせ、ラグ端子につなぎます。
・Normal チャンネルと Vibrato チャンネルの両方にリバーブを効かす MOD を行ったため、Normal チャンネルに使わなくてすむ端子ができます。
・ Vibratoチャンネルの Middle のコンデンサーにだけ、オリジナルのコンデンサーを取り付けています。 下の写真の左側、本体が濃い青で紙のラベルが貼られているコンデンサーです。【1】の受け入れ検査のDC Leak テストで最もDC Leak が少ないコンデンサーを選びました。
後のサウンドテストでこのコンデンサーで使える音が出るものか出ないのかを確かめ、DC Leak テストの正当性を検証するためです。
シャーシーに回路ボードを取り付けます。
回路ボードをネジ留めしたら、回路ボードとポットとを接続します。この部分のワイアーは音質の観点から Cloth wire の単芯線をハンダ付けします。
回路ボードと真空管ソケットを接続します。この部分もCloth Wire の単芯線です。
【9】インプット・ジャック部分の抵抗の交換
インプットジャックはナットと本体に少し錆びが出ています。
見かけよりも回路の特性が大切です。ギターの入力信号が無駄に削られずに初段の 12AX7 のグリッドに届けられる必要があります。
シャーシーに回路ボードをネジ留めしたところ |
回路ボードをネジ留めしたら、回路ボードとポットとを接続します。この部分のワイアーは音質の観点から Cloth wire の単芯線をハンダ付けします。
回路ボードとポットとの接続 |
回路ボードと真空管ソケットを接続します。この部分もCloth Wire の単芯線です。
回路ボードと真空管ソケットの接続 |
【9】インプット・ジャック部分の抵抗の交換
インプットジャックはナットと本体に少し錆びが出ています。
見かけよりも回路の特性が大切です。ギターの入力信号が無駄に削られずに初段の 12AX7 のグリッドに届けられる必要があります。
インプット・ジャックの作業前 |
この抵抗はなんのためにあるのかというと、発振防止です。ギター信号が抵抗を通過すると高い周波数が削られます。可聴領域よりも高い周波数は発振を起こしやすく、アンプの動作を不安定にし、音質を悪化させます。そのため、あえて高い周波数をこの部分で取り除いています。抵抗の値が大きいほど削られる周波数も落ちてきます。削りすぎにはご用心。発振防止したいだけのはずなのに、本来のギターのサウンドまでも削りすぎるのは禁物です。
2本の68KΩをギター信号につなぐとその抵抗値の和は(並列計算となり半分)抵抗のバラツキも考慮に入れると34KΩ~37KΩの間が適正値です。
当アンプのギター信号が通過する抵抗値は 41.2KΩとかなり高くなっています。つまり余分な信号まで削ってしまっています。写真は Vibrato チャンネルのインプツト・ジャックです。 Normal チャンネルも同様に抵抗値が高くなりすぎていました。
インプットジャックを外し、付いている抵抗を全てはずします。インプットジャックには2本の 68KΩと1本の 1MΩが付いています。
ギター信号が通過するインプットジャックの抵抗の値 |
インプットジャックの錆びを落としてから写真のようにジャックの穴に合わせて新しい抵抗を取り付けます。
新しい抵抗を取り付けると 35.43KΩとなり適正な値に収まりました。
【10】ポット・ノブの交換
インプットジャックに新しい抵抗の取り付け |
新しい抵抗をつけた後の抵抗値 |
インプット・ジャックのオーバーホール完了 |
全部で9個あるノブのうち一個はネジの留まりが悪く、ポットを廻そうとすると限界以上にクルクルと回転してしまいます。新しいものに交換しました。
【11】フットスイッチのクリーニング
フットスイッチの動作を確認しました。スイッチが悪かったり、端子の接触が悪かったりすると修理もしくは交換となります。裏蓋を外し、テスターで検査しました。今回は動作は OK です。
錆びと汚れを落とすクリーニングを行い、どちらのスイッチか判別しやすいように Reverb 側のスイッチ近辺にラベルを貼っておきました。
【12】スピーカーケーブルの交換
ポット・ノブの交換 |
フットスイッチの動作を確認しました。スイッチが悪かったり、端子の接触が悪かったりすると修理もしくは交換となります。裏蓋を外し、テスターで検査しました。今回は動作は OK です。
フットスイッチ |
クリーニング後のフットスイッチ |
当アンプはスピーカーが Celestion に交換されています。
過去の取り付けのときにスピーカー側の端子が真上にされています。これはアンプとスピーカー間の発振が最も置きやすい向きです。修正が必要です。
スピーカーケーブルはオリジナルのものを流用して付けられています。
スピーカーとスピーカーケーブル |
ケーブルは皮膜が劣化し芯線も劣化して性能が落ちています。
スピーカー・ジャックは錆びだらけです。電気接点の端子となるジャックは錆び落とししても接触不良が出やすいため、新品に交換が必要です。
新しいスピーカージャックと F-Cap を使い、AIW 社製の WE 復刻版スピーカーケーブルで新しいスピーカーケーブルを作製しました。
新しいスピーカーケーブルをスピーカーに取り付けました。
錆びたスピーカージャックの端子部分 |
新しいスピーカーケーブルと古いケーブル |
同時にスピーカーとアンプ間での発振防止のためにスピーカーを取り付けなおし、スピーカ側の端子の位置を発振の出にくい適正な位置にしました。
【13】パワーチューブの交換とバイアス調整
新しいスピーカーケーブル取り付けとスピーカーの向きの修正 |
本機には RCA 製の 6V6GT のマッチドペアが付いています。この真空管は全く問題なく動作しています。しかし、この貴重な管をこのまま使い続けるよりも保管しておくか、売りに出されるのが良いのではないかとということになり、当たらしい真空管をお付けしました。
現行生産されている 6V6GT の中でも比較的タフで出力も大き目の ElectroHarmonics を使いました。
電流計、電圧計、ダミーロードをつないでバイアス調整を行いました。
【14】チューブ・リテイナーの取り付け
RCA 製 6V6GT |
ElectroHarmonics 製の 6V6GT |
バイアス調整 |
当アンプの整流管とパワー管のソケットには抜け落ち防止用のリテイナーが付いていません。
真空管のベースをバネで挟み込むタイプのリテイナーを取り付けました。
Fender アンプのように真空管を逆さまに吊るして演奏に使うアンプの場合、スピーカーの振動などで演奏中に真空管が抜け落ちるのを防止するためのリテイナーは付けた方が良いでしょう。
ここまで長い道のりでしたが、一段落です。しかし、まだ終わりではありません。
【14】試奏テスト
整流管とパワーチューブのソケット |
チューブリテイナーの取り付け |
リテイナー付きのソケットに真空管を取り付けたところ |
【14】試奏テスト
これまでの【1】から【13】の作業を終え、アンプはキャビネットに戻し、仮留めの状態で試奏テストを行いました。
音圧は驚くほど改善し、デラリバラらしい艶と迫力が蘇りました。
しかし、以下の問題がまだ残っていました。
(a) Vibrato の揺れの振幅が浅い。
(b) Vibrato チャンネルの音圧が低い。
(c) Vibrato チャンネルの中域の迫力がありません。
(d) Normal チャンネルの Bass ポットの回転がスムーズではありません。
(a)Vibratoの振幅が浅いのは V5 真空管の劣化でした。壊れていないものの劣化していました。
音圧は驚くほど改善し、デラリバラらしい艶と迫力が蘇りました。
しかし、以下の問題がまだ残っていました。
(a) Vibrato の揺れの振幅が浅い。
(b) Vibrato チャンネルの音圧が低い。
(c) Vibrato チャンネルの中域の迫力がありません。
(d) Normal チャンネルの Bass ポットの回転がスムーズではありません。
試奏テストの様子 |
もちろんフィラメントの光は点灯しています。
新しい 12AX7 ( ECC 83 ) JJ 製に交換し、ゆれの振幅が通常どおりになりました。
(b) Vibrato チャンネルの音圧が低いのは V2 真空管の劣化でした。フィラメントの光は点灯しています。 新しい 12AX7 ( ECC 83 -MG) JJ 製に交換し、音圧は戻りました。
しかし、(c) の中域の迫力はまだもの足りません。
今のところは、(b) と(c) の問題に直接は影響していないものの、将来の故障予防のために交換しました。
V2 の真空管ソケット |
新しい V2 ソケット |
Vibrato チャンネルのトーンスタック |
すると (c) の問題は解決しました。
DC Leakのあるコンデンサーは流用不可能であることが明らかになりました。
ミドルのコンデンサーを交換後 |
Normal チャンネルの Bass ポット |
新しいCTS ポットを配線 |
再度バイアス値を確認しました。問題なく正規の電圧が出ています。
最後の試奏をしました。
バイアス確認 |
アンプの正面 |
アンプの背面 |
フットスイッチの接続部とリバーブ・ケーブルの接続部 |
お客さまに出荷しますと、お客さまからお礼のお言葉を賜りました。この仕事をやっててよかったと思う瞬間です。
当ブログではいくつかのオーバーホールの事例をご紹介しました。
本来であれば企業ノウハウとして公開しないような内容もあえて包み隠さず掲載しました。
「ギャンプスのオーバーホールとはどういう作業をすることなのか」はご理解いただけたのではないでしょうか。
ここまでの作業をしたアンプであれば、将来万一故障した場合にも「単純に壊れたところだけを治す修理」ですませることができます。ところが50年前に生産され、一度もこのようなオーバーホールをしたことが無いアンプはどこかで必ずギャンプスで実施しているオーバーホールをする必要が出てきます。そうしないと、短期間に修理また修理の連続となり、修理したのに直っていないという状況に陥ってしまいます。
アンプはオーディオアンプと異なり楽器の一部です。
だからといってギターのようにヴィンテージのコンデンサーが長持ちする、ということはありません。
ギター本体よりもはるかに大きな電気ストレスに日々さらされている電気機器でもあるからです。
だからといってギターのようにヴィンテージのコンデンサーが長持ちする、ということはありません。
ギター本体よりもはるかに大きな電気ストレスに日々さらされている電気機器でもあるからです。
製造業の会社などで使われる品質用語のひとつに RAS があります。
以下の3つの単語の頭文字をとっています。
以下の3つの単語の頭文字をとっています。
Reliability: 信頼性
Availability: 有用性
Serviceability: 保守容易性
Reliability 信頼性は言葉を換えると壊れにくさをあらわします。壊れにくい部品を使い、壊れにくいハンダ付けをする。しかし、あくまで壊れにくいだけで絶対に壊れない部品を人間は作ることはできません。いつかは壊れることを覚悟する必要があるのです。
Availability:有用性とは、万一部品のどれかが壊れた場合でも、使い続けられる機能のことです。
コンピューターで言えば回路を2重化し壊れた側を切り離して壊れていない側だけで計算続行する機能です。アンプにそのような機能を盛り込まれていないし、もしも盛り込んだとしても、値段が極端に高くなったり、ノイズや発振の問題が増えたりして不合理です。ステージにアンプを2台並べておき、一台はバックアップとしてスタンバイさせておくという手法が主流です。
Serviceability :保守容易性は治しやすさのことです。
万一壊れたときに治しにくい構造であったり、元々治すことを想定して設計・製造されていなかったりした場合、壊れたら、それでおしまい、スクラップとなってしまいます。
基板(PCB : Printed Circuit Borad ) は基板ごと交換できる体制があってはじめて serviceability が発揮されます。もしも基板アンプを製造販売している各社が交換用の基板を市場に出しておれば、基板アンプのユーザーは真空管を交換するか、もしもそれで治らなければ、基板をごそっと交換すれば、大半のアンプの故障は治せます。ところが、アンプメーカーはその基板を市場には出しません。しかも基板のテクノロジーの欠点は、基板の上に付いている部品の載せ換え時のハンダ付けの回数に制限が設けられていることです。基板の上のミクロン単位の厚みしかない銅の配線が複数回のハンダ付けの熱に耐えられないからです。その点ハンドワイアードであれば、時間はかかるものの確実に全ての部品交換が可能で、今回のような大々的なオーバーホールが可能なのです。
日頃RAS なんて言葉は気にせずに過ごしておられる方も大勢いらっしゃるでしょう。もしも何か製品が壊れたら、この言葉を思い出してみられると物事の見方や世間の仕組みの理解がいままでよりも変化するのではないでしょうか。
良きギターライフを
Availability: 有用性
Serviceability: 保守容易性
Reliability 信頼性は言葉を換えると壊れにくさをあらわします。壊れにくい部品を使い、壊れにくいハンダ付けをする。しかし、あくまで壊れにくいだけで絶対に壊れない部品を人間は作ることはできません。いつかは壊れることを覚悟する必要があるのです。
Availability:有用性とは、万一部品のどれかが壊れた場合でも、使い続けられる機能のことです。
コンピューターで言えば回路を2重化し壊れた側を切り離して壊れていない側だけで計算続行する機能です。アンプにそのような機能を盛り込まれていないし、もしも盛り込んだとしても、値段が極端に高くなったり、ノイズや発振の問題が増えたりして不合理です。ステージにアンプを2台並べておき、一台はバックアップとしてスタンバイさせておくという手法が主流です。
Serviceability :保守容易性は治しやすさのことです。
万一壊れたときに治しにくい構造であったり、元々治すことを想定して設計・製造されていなかったりした場合、壊れたら、それでおしまい、スクラップとなってしまいます。
基板(PCB : Printed Circuit Borad ) は基板ごと交換できる体制があってはじめて serviceability が発揮されます。もしも基板アンプを製造販売している各社が交換用の基板を市場に出しておれば、基板アンプのユーザーは真空管を交換するか、もしもそれで治らなければ、基板をごそっと交換すれば、大半のアンプの故障は治せます。ところが、アンプメーカーはその基板を市場には出しません。しかも基板のテクノロジーの欠点は、基板の上に付いている部品の載せ換え時のハンダ付けの回数に制限が設けられていることです。基板の上のミクロン単位の厚みしかない銅の配線が複数回のハンダ付けの熱に耐えられないからです。その点ハンドワイアードであれば、時間はかかるものの確実に全ての部品交換が可能で、今回のような大々的なオーバーホールが可能なのです。
日頃RAS なんて言葉は気にせずに過ごしておられる方も大勢いらっしゃるでしょう。もしも何か製品が壊れたら、この言葉を思い出してみられると物事の見方や世間の仕組みの理解がいままでよりも変化するのではないでしょうか。
良きギターライフを
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