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2017年4月7日金曜日

Amp Cradle アンプ・クレードル

Note: 当ブログで紹介している「改良型アンプクレードル」は滋賀県近江八幡市、あきんどの里に工房を構える 木工房 YZ --- アンプ修理架台-- の吉積さんのところで作成してもらえます。興味のある方は木工房 YZ までお問合せください。


Guitar アンプのシャーシーをキャビネットから外し、回路の修理作業をするとき、必要となるのがアンプを置く台です。英語では Cradle ( ゆりかご) と優しい単語で表現されます。

Weber 製のクレードルにシャーシーを載せたところ
【1】ギターアンプのシャーシーの形状と回路作業時の問題点
ギターアンプの回路を収めているシャーシーには必ずトランスが搭載されます。
 
Single Jingle のシャーシー
回路部品は写真のシャーシーの裏側に収められています。

Twin Reverb のシャーシー
回路の作業をする場合は上写真のシャーシーをひっくり返し回路にアクセスすることになります。
そうするとトランスの頭がテーブルと直に接することになり以下のことが問題となります。
A) トランスに傷をつけてしまう
B) テーブルに接する面が不均衡となり、シャーシーがガタついたり倒れてしまう

【2】簡易対策

シャーシーの底部に発砲スチロールを取り付け作業する Marshall アンプ
 A) B) ふたつの問題を解決するために試行錯誤をし、当初は発砲スチロールをシャーシーの裏側に両面テープで留め、問題が起きないようにしていました。
トランスの頭部を発砲スチロールで養生して作業する Fender アンプ

ところが新たな問題に直面します。

C) 回路部分が水平になってしまう。ハンダ付をしたり、部品搭載するアクセス時には座って作業できず、常に立って作業しないといけない。

回路部品を交換する作業には集中力が必要です。これを立ったままで行うと大きく疲労したり、集中力が途切れてしまいます。特に腰と首が痛くなります。

座ったままでアンプの回路にアクセスしやすいアンプ台が必要となるのです。

【3】アンプクレードルの導入
アンプ・クレードルを使う場合、回路にアクセスしやすい

あちらこちらネット検索し、当時、米国の Weber で販売されていた アンプクレードルを購入しました。材質はメープルで、価格は当時 $120、 Fedex の輸送料金が $100 かかりました。

クレードルの両端にある L 字型の木製アングルにシャーシーの両端を載せ、L字アングルをスイングさせて固定することにより回路部分と正対して座って作業することができるようになりました。

約10年にわたりこのクレードルのお世話になりました。



【4】Weber 製のクレードルの問題
Weber 製のアンプクレードル

使い込むに従い Weber のクレードルにもいくつかの使いづらい問題が出てきました。


( 問題1.)  L字アングルの角度調整ネジノブとトランスの干渉
シャーシーを傾けて作業しやすくするために L 字型のアングルは回転させることができ、手動でネジを締め付けて任意の位置で固定することが可能です。ところがこの手で締め付ける大きめの取っ手がクレードルの内側にあり、アンプのタイプによっては取っ手とトランスが干渉しあい、シャーシーがうまく L字アングルに載らないことがあるのです。

真の原因はネジを止めるためのナット(鬼爪ナット)が端にある壁板に付いていることです。L字アングルにナットが埋め込まれていてネジの取っ手が壁板の外に付いていればよいのに。
L字アングルの角度調節用のネジ、この部分がトランスと干渉することがある

(問題2.) 横幅の調整の不連続性で作業効率低下
アンプのモデルによってシャーシーの横幅が異なります。シャーシー横幅にクレードルの横幅を合わせるために右側の L字アングルが壁板と共に左右に移動できるようにしてあります。
下の写真に見える黒く丸いノブを緩めて右の壁板をスライドさせます。
この移動量よりも幅の狭いシャーシーのときには一旦丸いノブを完全に緩め、丸ノブを左にある穴に差しなおして壁板を調整します。


横幅調整用のノブと壁板
クレードルの下部には全部で3ヶ所のナットがあります。
アンプのシャーシーの幅に合うように丸ノブを差しなおすのですが、どちらの穴にしてもピッタリとシャーシーの幅に合わない不連続性が存在します。
そのときシャーシー幅に合わせた状態で丸ノブが固定できません。
丸ノブのネジ穴

この横スライドをなんとか連続的にできないものか。いちいちナットに丸ノブをネジこまなくてもいいように連続的でスムーズなスライドにできないものかと思います。
幅調整を最も狭くした状態

( 問題3. ) L 字アングルの長さと高さ不足

3 つめの問題が L字アングルの L の長さと高さです。現状だと奥行のある Twin Revreb などのシャーシーはトランスの重量が重いこともあり、L字の傾斜にピッタリと沿わずシャーシーの手前が少し浮き上がる場合があります。あともう少し長さと高さがあると浮き上がり防止できます。
L字アングルの長さと高さ( 青線 )

【5】改良型アンプクレードルの作成

近江八幡市の「あきんどの里」に工房を構えていらっしゃる木工房 Yz の吉積さんところへ遊びに行き、世間話で「Weber のアンプクレードルにいくつか問題があり、困っている」という話をしたところ、現物を見て改良型が作れるかどうか検討してくださるとのこと。

今年に入り Weber のアンプクレードルを工房へ持ち込み、吉積さんと、ああでもないこうでもないと検討を重ねた結果、改良型アンプクレードルの作成は可能であるという結論に至りました。
数日後、彼はさっそく設計図を書いてくれました。
改良型アンプクレードルの設計図
設計図を元に細かな仕様はおまかせするということで制作をお願いし、2台分を発注しました。

出来上がったのが下の写真です。
固くて耐久性がある、美しい桜材を使ってくれました。
完成した改良型アンプクレードル、木工房 Yz 製

奥行のある Concert のシャーシーも浮き上がることなくしっかりと収まっています。
改良型アンプクレードルにシャーシーを載せたところ

[ 改善点1.]  L字アングル固定方法の改良、トランス干渉無し

 L字アングルの中心に固定用のナットを埋め込み、角度調整後の締め付け取っ手は壁板の外側に来るようにし、トランスとの干渉は一切なくなりました。
L字アングルの固定方法の改善

[ 改善点2.]  連続スライド方式による幅調整

スライドの溝をクレードル本体の底部に設けることにより、連続して横幅調整が行えるようになりました。この溝には金属のガイドレールが埋め込まれています。固定ノブを回すのも少しの力ですみます。
以前のように不連続に穴を移動する手間がなくなり素早く位置決めの作業ができてます。
クレードル本体側にガイドレールで溝作成
右側の L字アングル固定ノブはわずかに回し緩めてスライド、わずかに締め付けて固定が可能となりました。
固定ノブは引き抜かず少しゆるめてスライドし少し締めて即固定


横幅を最も狭くした場合

[ 改善点3. ] L 字アングルの長さと高さの拡大

L字アングルの長さと高さを拡大し、奥行の広いシャーシーも浮き上がることなく斜めの角度で作業できるようになりました。

改良型アンプクレードルによる生産性の向上は測り知れません。
しかも以前のクレードルに比較してはるかに美しい。
一台あたり 3万円台という格安の値段にしてくれた吉積さんに感謝です。

L字アングルの高さと長さを拡大

2台オーダーしたうちの 1台はわたくし用です。
もう 1台は東京在住の桑元ヒカル君にプレゼントとして送りました。

彼は昨年、当ギャンプスにアンプ技術の修行に来ました。何日もかけて技術と知識を習得し、東京に戻ってからはプロギタリスト向けギターテク(フリー) を業務とする傍ら、いろいろなアンプを自分で修理し自己研削に励んでいる将来有望な若者です。彼の日頃の努力に対して、なにかしてあげたいなと思っていた次第です。
2台のうちの 1台は東京在住のギャンプスの弟子、桑元ヒカル君へのプレゼント
当ブログを書いていたら、ちょうど桑元君から別件で電話がありました。
アンプクレードルの使い心地はどうかと尋ねたら、「もう最高です。今までの腰の痛みとおさらばです」とのこと。
Weber のクレードルを所持している仲間に改良ポイントをうらやましがられたとも言っていました。「ギャンプスで修行したものだけの特権です」とまでは言いませんでした。
吉積さんに頼めば誰にでも作ってくれますからね。

2017年4月6日木曜日

Fender Concert Ⅱ のオーバーホール 2017

愛知県の S 様ご所有 Concert Ⅱアンプのオーバーホールをしました。
Fender Concert Ⅱ


中古でご購入なさり、しばらくすると、内部から発煙する故障があり、他の修理屋さんで一度修理されています。しかし、部分的な修理にとどまっていたため、今後の故障が心配とのこと。

ご要望は、「長く使いたいので、徹底的にオーバーホールし、当分は故障が起こらないようにしたい」です。

こちらの Concert Ⅱのオーバーホールの記事をご覧になり、ギャンプスに任せたいと思われたそうです。ありがたいことです。
ご連絡をいただいたのが昨年、その時点でご予約くださり、およそ 1年お待ちいただいての作業開始です。ながらくお待たせしてしまいました。

愛知県から車で2時間かけ、ご自身でお持ち込みになりました。
アンプの使用目的や使用頻度などを伺い、お客さまと一緒にアンプの音を確認し、劣化した回路部品の確認をしました。

Concert の試奏の印象は以下のとおりでした。
①クリーン音の高域にざらつきが出ている
②全体的に迫力がない
③リバーブとOD は機能している。しかし、
 ・リバーブオンのかかりが少し不自然
 ・OD の音に色気がもっとほしい


ギター練習用に置いておる ギャンプス・オリジナルアンプ SingleJingle も同時に試奏なさり、
「レスポンスが良い、練習用としてはもってこいである、小規模なライブにも使える音圧である」という貴重なご感想を頂戴いたしました。

GAMPS  SingleJingle

【0】受け入れ検査

以下 6枚の写真が、受け入れ時のお客様のアンプです。


Concert Ⅱ front view

rear top view

bottom

rear view

chassis
シャーシー内部を見ると、 回路部品はほとんど交換されておらずオリジナルの状態です。

SG ( セカンダリーグリッド)抵抗が近年の5W 470Ωの金属皮膜抵抗に交換されています。この部分には 1W-470Ωのカーボン・コンポジット抵抗が付いたいたはずです。
スペックの 1W よりも耐圧の大きい5W は前回修理者が付けたのでしょう。

この抵抗の交換だけで発煙故障の原因がすべて取り除かれているかは定かではありません。そのことを頭に入れて作業を進めてまいります。

5W 470Ωに交換されている SG stopping 抵抗

【1】 スピーカーケーブルの交換
オリジナルのスピーカーケーブルは長年の経年変化でスピーカー端子につなぐファストンコネクターは酸化し、ケーブルの芯線も酸化しています。今のままでも音は出るのですが、ギターアンプの信号の出口、スピーカーへの入り口はちゃんとしたいといつも思っています。
元のスピーカーケーブル
スピーカーケーブルを外しました。
スピーカーケーブルを取り外したところ
AIW の WE 復刻版ケーブルと新しい 3M のファストンコネクターを使い、スピーカーケーブルを組みなおしました。

WE 復刻版スピーカーケーブル
新しいスピーカーケーブルをスピーカーに取り付けました。
新しいケーブルをスピーカーに取り付けたところ
【2】電源コードの交換
このアンプの電源コードもソケット部の根本で被覆に裂け目が出来、内部の芯線が見えており、安全上の問題があります。
電源コード、根本の被覆の裂け目から芯線が見えている状態
電源コードの内部配線の経路もよろしくありません。
パワー管のソケット端子のすぐ近くを AC 100V の芯線が通過しています。

現状のパワーコードの配線、芯線がパワーチューブソケット端子に触れそう
新しい電源コードに交換し、内部配線はどこにもショートしないように取り付けました。

新しい電源コードの配線
新しい3ピンの電源コードはソケット部分が被膜と一体化しているモールド式です。これなら永持ちします。
新しい電源コード、ソケットはモールド式
【3】フィルターキャップのオーバーホール
フィルターキャップ とは電源回路のアルミ電解コンデンサー群のこと。キャップはキャパシターの略。
電源電圧に含まれる交流成分をフィルターして直流化することからフィルターキャップと呼ばれます。
シャーシーの裏側にある弁当箱型の蓋( Cap Pan = キャップ・パン) の下にフィルターキャップが収まっています。

Cap Pan
Concert のCap Pan の中には
①パワーアンプ用+B電源
②SG 用電源
③フェーズシフター用電源
④バイアス用電源
の4種類の電源電圧を供給するアルミ電解コンデンサー群があります。
プリアンプ用電源は回路ボード側にあります。
アルミ電解コンデンサー群
下の写真は古いアルミ電解コンデンサーを外しているところ。
当アンプが製造されてから過去に一度も交換されていません。
およそ30年以上の年月が経過しています。
とっくにスペック(仕様)の寿命をすぎています。

興味のあるお方はニチコン等のコンデンサーメーカーのサイトを訪れて、アルミ電解コンデンサーの耐用年数を調べてみればわかります。使用する環境温度にもよりますが、およそ6~7年が目安です。
古いコンデンサーの取り外し
新しいアルミ電解コンデンサーを取り付けています。
下の写真はパワーアンプの+B 電源用を取り付けたところ。耐圧をかせぐために2個のコンデンサーの直列つなぎです。茶色い抵抗はふたつのコンデンサーにかかる電圧を均等にするための電圧平衡抵抗。抵抗値は極力同じ値にしないと各コンデンサー。にかかる電圧が同じではなくなり、コンデンサーの寿命が短くなってしまいます。

+B 電源用コンデンサー
全てのコンデンサーと抵抗の交換が終わりました。
アルミ電解コンデンサーのオーバーホール完了
【4】整流回路のオーバーホール
Concert の整流回路はダイオード x4個のブリッジ整流回路です。セラミックコンデンサーをダイオードと並行に取り付けノイズと発振の低減をしています。

このダイオードは今は壊れていないものの、いつかは壊れます。
整流回路
新しいダイオード x4 とセラミックディスクコンデンサー x4 を交換しました。
以前の Concert と異なり、スタンバイスッチ端子と整流回路の間にはクリアランスがあり、幸いにも端子と接触しておらず、整流回路の位置移動は不要でした。
オーバーホール後の整流回路

【5】バイアス電源用の整流回路

バイアス回路用のマイナス電圧は一個のダイオードと2個の抵抗で作り出します。これらも新しくしました。
バイアス用整流回路
オーバーホール後
1 から 5 までの作業でアンプサウンドの土台となる回路のオーバーホールが完了しました。
次からギター信号を増幅する回路の作業です。

【6】プリアンプのオーバーホール
Concert の回路は Paul Rivera により設計されています。彼の主な目的はドライブチャンネルを付けることでした。デラリバやツインリバーブとは異なるプリアンプ回路になっています。
回路の見た目も抵抗やコンデンサーが整然と配置されておらずゴチャゴチャとしています。

プリアンプの回路
まず目につくのが2個ある銀色のアルミ電解コンデンサーです。

プリアンプの増幅段を増やしゲインを上げる回路を組む場合、プリアンプの増幅段に電源供給するフィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー) と増幅回路の物理的距離が問題となります。
なるべく短い距離にしないと発振しやすくなります。

 Concert では増幅回路の近辺にこの2個の電源供給用のアルミ電解コンデンサーを配置しています。
デラリバやツインリバーブではプリアンプ用の電源供給用アルミ電解コンデンサーも Cap Pan の中に収まっています。

プリアンプの増幅段に電源供給するアルミ電解コンデンサー
プリアンプ用のフィルターキャップは容量の値を大きくしすぎるとサウンドをスポイルします。
Concert は増幅素子2個分( 12AX7 1 本) に対して容量 4μF耐圧450V が使われています。
耐圧を今よりも大きく600V にし、容量を4.7μFとします。フランスの SOLEN 製のフィルムコンデンサーが最適です。フィルムコンデンサーであるため、アルミ電解よりもはるかに寿命が長く、音質もGood です。オリジナルのアルミ電解コンデンサーに比べ、太さと長さが若干大きめになります。

プリアンプ用の2個ともに SOLEN に変更しました。

SOLEN 製 4.7μF 600V フィルムコンデンサー

Concert では入力されたギター信号を、まずはじめに Normal チャンネルと OD チャンネル共通の増幅回路で増幅します。初段で増幅された信号は Normal チャンネルと OD チャンネルのそれぞれ別々にあるトーンスタック( Treble, Middle, Bassノコンデンサーとポット) に送られます。その後、各々別の増幅段で再増幅されます。
この3つの増幅段のゲインを決定するカソード回路の写真です。

左からNormal チヤンネル、真ん中 OD チャンネル、右端NormalとOD共通の初段のカソード

Normal チャンネルは Sprague のアルミ電解コンデンサー25μF,  OD チャンネルは OSのアルミ固形コンデンサー22μF,  Normal/ OD 共通は Sprague アルミ電解コンデンサー25μF にしました。
こうすることにより、Normal チャンネルは Fender らしいブライトで押しのあるクリーン音に、OD チャンネルは余分な低域の唸りを抑えた躍動的なドライブサウンドに近づきます。
但し、この部分の味付けだけでは聴覚上は少しの変化しかありません。
以後に行うトーンスタックのコンデンサーや抵抗の味つけとの組み合わせで効果が出てきます。

抵抗とアルミ電解コンデンサーを交換

Normal チャンネルのトーンスタックが下の写真です。

Normal チャンネルのトーンスタック

Fender の味をうまく引き出すコンデンサーの組合せでトーンスタックをオーバーホールしました。
左から Middle, Bass, Treble のコンデンサーを交換
 
ここまでのプリアンプのオーバーホール作業で以下の写真のようになりました。
プリアンプ回路のオーバーホール後
【7】リバーブ回路
リバーブドライバーとリバーブミキサー回路のオーバーホールをしました。
試奏段階でリバーブの掛かり具合が少し不自然に感じたのはこの部分の抵抗とコンデンサーの劣化です。
リバーブドライバーとリバーブミキサーの回路
フィルムコンデンサーとセラミックディスクコンデンサーを適材適所で使い、自然なリバーブ音を目指しました。
リバーブ回路のオーバーホール後
【8】OD のトーンスタック
試奏段階でOD の色気が足らないと感じました。トーンスタックのコンデンサーはドライブ段に合うような部品の選択をしてオーバーホールしました。
OD のトーンスタック

OD のトーンスタック、オーバーホール後
【9】フェーズインバーター回路のオーバーホールとライン入出力段のバイパス

フェーズインバーターとライン入出力回路
フェーズインバーター回路をオーバーホールすると同時にプリアンプの出力からダイレクトにフェーズインバーターに信号入力することにより、ライン回路のために削られる信号ロスを減らしました。

フェーズインバーター回路をオーバーホールし、ライン入出力をバイパス
【10】パワーチューブ周辺のオーバーホール
フェーズインバーターからの信号はシールド線にして発振の低減をしました。
また SG ストップ抵抗とグリッドストップ抵抗も新しくしました。
パワーチューブソケット周辺
【11】バイアス・ポットの再配線
バイアスポットの配線をよく見ると、過去に修理されています。しかし、過去の修理に問題があります。
ポットのセンターに繋がる抵抗の片方の足はポットの外被にハンダ付けされています。そのハンダ付けが不完全です。
写真のようにポットの外被に盛られたハンダの上に抵抗の足が乗っているだけです。今のところは付いていますが、この接続は長持ちはせず、接合部の抵抗の足の金属とハンダとの境目に酸素結合による酸化が進行し、やがては接触不良となります。

使われている抵抗値も本来33KΩのところ、31KΩしかありません。パワーチューブのバアイス電圧が正規よりも浅めにかけられていることを示します。

バイアスポットの過去の修理痕跡
正規の33KΩを使い、正しいハンダ付をしました。
抵抗の足はハンダの中に納まり、ポットの外被・ハンダ・抵抗の足の3者が一体合金化するようにハンダ付けしました。
バイアスポットの再配線

【12】パワーチューブの検査
過去に起きた発煙故障の修理としてパワーチューブの SG 抵抗が交換されていました。もしも SG 抵抗そのものが発煙したとしたら、発煙時にかなりのストレスがパワーチューブにかかっていたことが想定されます。
加えて前の作業でバイアスポットの不完全な修理痕跡が見つかりました。
バイアスが浅めに設定され、パワーチューブに通常よりもストレスがかけられていました。

このことから、パワーチューブに何らかの異常が誘発されていないか検査してみました。

V9 ポジションの 6L6GC のヒーター( ピン②とピン⑦間)はテスター目盛り1.2Ωの抵抗値を示し、正常です。
V9 の 6L6GC のヒーター配線 (正常 )
V8 ポジションの6L6GC のヒーターは379KΩの抵抗値を示します。明らかに異常です。
管内のヒーターが切れかかっています。
V8 の 6L6GC のヒーター配線 ( 異常 )
【13】アンプ側のヒーター配線のやり直し
V8 ポジションの6L6GC 真空管のヒーターがきれかかっていました。そこでV8 真空管ソケットのヒーター配線を入念に調べてみました。外側から見るとわからないものの、ハンダを外して線を引っ張り出してみると、なんと黒く焦げています。


V8 の 6L6GC のソケットにつながるヒーター配線、焦げています
ヒーター配線を取り外して近くで観察してみると配線被覆は黒く炭化しています。
つまり、過去に発煙したのはこのヒーター配線材だったということです。

おそらくヒーター配線の被膜の耐圧が低下し、近辺にある配線端子、AC 100VもしくはDC 400Vの端子とヒーター配線6.3V との間で放電し、発煙に至ったことが考えられます。
炭化したヒーター配線の被膜
トランスのヒーター巻き線はパイロットランプに繋がれます。このパイロットランプから V9 のヒーターへ、 V9 のヒーターから V8 のヒーターへ、とヒーター電流が流れます。この経路の配線をすべて交換しました。交換にあたってはベルデンの 1000V 耐圧のテフロン線を使用し、再発防止しました。
古いヒーター配線と新しいヒーター配線
パイロットランプ-- V9 -- V8 の配線経路
古いヒーター配線
ベルデンのテフロン線で配線しなおしました。
耐圧強化した配線に変更
【14】パワーチューブの交換
ヒーターの切れかかった V8 の6L6GCは使い続けることはできません。 V8 と V9 まとめてマッチドペアの新しい 6L6GC に交換しました。

RUBY ( 中国製) が付いていました。ここは耐久性の優れた Electro Harmonics ( ロシア製) の 6L6GC にしました。
6L6GC マッチドペアの交換
【15】バイアス調整
ここまでの作業を終えて、ようやくバイアス調整をすることができました。
Concert のバイアスは深さ調整ではなく2本のペア管どうしのバランス調性方式です。
バイアスの深さは作業11で交換したポットの抵抗の値で決まります。抵抗の値が小さくなるとパワー管に電流が多く流れ、寿命を短くします。
バイアス調整
V8 , V9 共に ぴったりの電流値に納まりました。Electro Harmonics の 6L6GC にとっては余裕の電流値です。長くお使いいただけると思います。
バイアス調整後
【16】テスト試奏
試奏したところ、迫力のある音が蘇りました。

受け入れ時の試奏で感じた問題はすべて解決しました。

①クリーン音の高域にざらつきが出ている
⇒ 80年代の Fender らしいブライトで艶のある広域になりました。

②全体的に迫力がない
⇒ 迫力満点の音圧が回復しました。

③リバーブとOD は機能している。しかし、
 ・リバーブオンのかかりが少し不自然
⇒ リバーブのかかりが自然になりました。

 ・OD の音に色気がもっとほしい
⇒ OD の音色は色気があり、ソロに使える音質となりました。

テスト中

取り外した部品
今回は不具合があったために V8 と V9 を当方で交換しました。
V1 から V7 はそのままです。

V1 から V7 はプリ管で 12AX7 x 5個 12AT7 x 2個の組み合わせです。
現在音が出ているため交換していないものの、プリ管もゆくゆくは寿命が来てノイズを出したり、音がおかしくなったりします。真空管は消耗品です。

真空管のポジション番号と各々の機能を説明した書類をレポートに添付し、ご自身で交換なされるときの参考にしていただきます。
Concert の真空管ポジション番号
以上です。
Have the nicest guitar life.