Fender Concert Ⅱ |
中古でご購入なさり、しばらくすると、内部から発煙する故障があり、他の修理屋さんで一度修理されています。しかし、部分的な修理にとどまっていたため、今後の故障が心配とのこと。
ご要望は、「長く使いたいので、徹底的にオーバーホールし、当分は故障が起こらないようにしたい」です。
こちらの Concert Ⅱのオーバーホールの記事をご覧になり、ギャンプスに任せたいと思われたそうです。ありがたいことです。
ご連絡をいただいたのが昨年、その時点でご予約くださり、およそ 1年お待ちいただいての作業開始です。ながらくお待たせしてしまいました。
愛知県から車で2時間かけ、ご自身でお持ち込みになりました。
アンプの使用目的や使用頻度などを伺い、お客さまと一緒にアンプの音を確認し、劣化した回路部品の確認をしました。
Concert の試奏の印象は以下のとおりでした。
①クリーン音の高域にざらつきが出ている
②全体的に迫力がない
③リバーブとOD は機能している。しかし、
・リバーブオンのかかりが少し不自然
・OD の音に色気がもっとほしい
ギター練習用に置いておる ギャンプス・オリジナルアンプ SingleJingle も同時に試奏なさり、
「レスポンスが良い、練習用としてはもってこいである、小規模なライブにも使える音圧である」という貴重なご感想を頂戴いたしました。
GAMPS SingleJingle |
【0】受け入れ検査
以下 6枚の写真が、受け入れ時のお客様のアンプです。
Concert Ⅱ front view |
rear top view |
bottom |
rear view |
chassis |
SG ( セカンダリーグリッド)抵抗が近年の5W 470Ωの金属皮膜抵抗に交換されています。この部分には 1W-470Ωのカーボン・コンポジット抵抗が付いたいたはずです。
スペックの 1W よりも耐圧の大きい5W は前回修理者が付けたのでしょう。
この抵抗の交換だけで発煙故障の原因がすべて取り除かれているかは定かではありません。そのことを頭に入れて作業を進めてまいります。
5W 470Ωに交換されている SG stopping 抵抗 |
【1】 スピーカーケーブルの交換
オリジナルのスピーカーケーブルは長年の経年変化でスピーカー端子につなぐファストンコネクターは酸化し、ケーブルの芯線も酸化しています。今のままでも音は出るのですが、ギターアンプの信号の出口、スピーカーへの入り口はちゃんとしたいといつも思っています。
元のスピーカーケーブル |
スピーカーケーブルを取り外したところ |
WE 復刻版スピーカーケーブル |
新しいケーブルをスピーカーに取り付けたところ |
このアンプの電源コードもソケット部の根本で被覆に裂け目が出来、内部の芯線が見えており、安全上の問題があります。
電源コード、根本の被覆の裂け目から芯線が見えている状態 |
パワー管のソケット端子のすぐ近くを AC 100V の芯線が通過しています。
現状のパワーコードの配線、芯線がパワーチューブソケット端子に触れそう |
新しい電源コードの配線 |
新しい電源コード、ソケットはモールド式 |
フィルターキャップ とは電源回路のアルミ電解コンデンサー群のこと。キャップはキャパシターの略。
電源電圧に含まれる交流成分をフィルターして直流化することからフィルターキャップと呼ばれます。
シャーシーの裏側にある弁当箱型の蓋( Cap Pan = キャップ・パン) の下にフィルターキャップが収まっています。
Cap Pan |
①パワーアンプ用+B電源
②SG 用電源
③フェーズシフター用電源
④バイアス用電源
の4種類の電源電圧を供給するアルミ電解コンデンサー群があります。
プリアンプ用電源は回路ボード側にあります。
アルミ電解コンデンサー群 |
当アンプが製造されてから過去に一度も交換されていません。
およそ30年以上の年月が経過しています。
とっくにスペック(仕様)の寿命をすぎています。
興味のあるお方はニチコン等のコンデンサーメーカーのサイトを訪れて、アルミ電解コンデンサーの耐用年数を調べてみればわかります。使用する環境温度にもよりますが、およそ6~7年が目安です。
古いコンデンサーの取り外し |
下の写真はパワーアンプの+B 電源用を取り付けたところ。耐圧をかせぐために2個のコンデンサーの直列つなぎです。茶色い抵抗はふたつのコンデンサーにかかる電圧を均等にするための電圧平衡抵抗。抵抗値は極力同じ値にしないと各コンデンサー。にかかる電圧が同じではなくなり、コンデンサーの寿命が短くなってしまいます。
+B 電源用コンデンサー |
アルミ電解コンデンサーのオーバーホール完了 |
Concert の整流回路はダイオード x4個のブリッジ整流回路です。セラミックコンデンサーをダイオードと並行に取り付けノイズと発振の低減をしています。
このダイオードは今は壊れていないものの、いつかは壊れます。
整流回路 |
以前の Concert と異なり、スタンバイスッチ端子と整流回路の間にはクリアランスがあり、幸いにも端子と接触しておらず、整流回路の位置移動は不要でした。
オーバーホール後の整流回路 |
【5】バイアス電源用の整流回路
バイアス回路用のマイナス電圧は一個のダイオードと2個の抵抗で作り出します。これらも新しくしました。
バイアス用整流回路 |
オーバーホール後 |
次からギター信号を増幅する回路の作業です。
【6】プリアンプのオーバーホール
Concert の回路は Paul Rivera により設計されています。彼の主な目的はドライブチャンネルを付けることでした。デラリバやツインリバーブとは異なるプリアンプ回路になっています。
回路の見た目も抵抗やコンデンサーが整然と配置されておらずゴチャゴチャとしています。
プリアンプの回路 |
プリアンプの増幅段を増やしゲインを上げる回路を組む場合、プリアンプの増幅段に電源供給するフィルターキャップ(アルミ電解コンデンサー) と増幅回路の物理的距離が問題となります。
なるべく短い距離にしないと発振しやすくなります。
Concert では増幅回路の近辺にこの2個の電源供給用のアルミ電解コンデンサーを配置しています。
デラリバやツインリバーブではプリアンプ用の電源供給用アルミ電解コンデンサーも Cap Pan の中に収まっています。
プリアンプの増幅段に電源供給するアルミ電解コンデンサー |
Concert は増幅素子2個分( 12AX7 1 本) に対して容量 4μF耐圧450V が使われています。
耐圧を今よりも大きく600V にし、容量を4.7μFとします。フランスの SOLEN 製のフィルムコンデンサーが最適です。フィルムコンデンサーであるため、アルミ電解よりもはるかに寿命が長く、音質もGood です。オリジナルのアルミ電解コンデンサーに比べ、太さと長さが若干大きめになります。
プリアンプ用の2個ともに SOLEN に変更しました。
SOLEN 製 4.7μF 600V フィルムコンデンサー |
Concert では入力されたギター信号を、まずはじめに Normal チャンネルと OD チャンネル共通の増幅回路で増幅します。初段で増幅された信号は Normal チャンネルと OD チャンネルのそれぞれ別々にあるトーンスタック( Treble, Middle, Bassノコンデンサーとポット) に送られます。その後、各々別の増幅段で再増幅されます。
この3つの増幅段のゲインを決定するカソード回路の写真です。
左からNormal チヤンネル、真ん中 OD チャンネル、右端NormalとOD共通の初段のカソード |
Normal チャンネルは Sprague のアルミ電解コンデンサー25μF, OD チャンネルは OSのアルミ固形コンデンサー22μF, Normal/ OD 共通は Sprague アルミ電解コンデンサー25μF にしました。
こうすることにより、Normal チャンネルは Fender らしいブライトで押しのあるクリーン音に、OD チャンネルは余分な低域の唸りを抑えた躍動的なドライブサウンドに近づきます。
但し、この部分の味付けだけでは聴覚上は少しの変化しかありません。
以後に行うトーンスタックのコンデンサーや抵抗の味つけとの組み合わせで効果が出てきます。
抵抗とアルミ電解コンデンサーを交換 |
Normal チャンネルのトーンスタックが下の写真です。Normal チャンネルのトーンスタック |
Fender の味をうまく引き出すコンデンサーの組合せでトーンスタックをオーバーホールしました。左から Middle, Bass, Treble のコンデンサーを交換 |
プリアンプ回路のオーバーホール後 |
リバーブドライバーとリバーブミキサー回路のオーバーホールをしました。
試奏段階でリバーブの掛かり具合が少し不自然に感じたのはこの部分の抵抗とコンデンサーの劣化です。
リバーブドライバーとリバーブミキサーの回路 |
リバーブ回路のオーバーホール後 |
試奏段階でOD の色気が足らないと感じました。トーンスタックのコンデンサーはドライブ段に合うような部品の選択をしてオーバーホールしました。
OD のトーンスタック |
OD のトーンスタック、オーバーホール後 |
フェーズインバーターとライン入出力回路 |
フェーズインバーター回路をオーバーホールし、ライン入出力をバイパス |
フェーズインバーターからの信号はシールド線にして発振の低減をしました。
また SG ストップ抵抗とグリッドストップ抵抗も新しくしました。
パワーチューブソケット周辺 |
バイアスポットの配線をよく見ると、過去に修理されています。しかし、過去の修理に問題があります。
ポットのセンターに繋がる抵抗の片方の足はポットの外被にハンダ付けされています。そのハンダ付けが不完全です。
写真のようにポットの外被に盛られたハンダの上に抵抗の足が乗っているだけです。今のところは付いていますが、この接続は長持ちはせず、接合部の抵抗の足の金属とハンダとの境目に酸素結合による酸化が進行し、やがては接触不良となります。
使われている抵抗値も本来33KΩのところ、31KΩしかありません。パワーチューブのバアイス電圧が正規よりも浅めにかけられていることを示します。
バイアスポットの過去の修理痕跡 |
抵抗の足はハンダの中に納まり、ポットの外被・ハンダ・抵抗の足の3者が一体合金化するようにハンダ付けしました。
バイアスポットの再配線 |
【12】パワーチューブの検査
過去に起きた発煙故障の修理としてパワーチューブの SG 抵抗が交換されていました。もしも SG 抵抗そのものが発煙したとしたら、発煙時にかなりのストレスがパワーチューブにかかっていたことが想定されます。
加えて前の作業でバイアスポットの不完全な修理痕跡が見つかりました。
バイアスが浅めに設定され、パワーチューブに通常よりもストレスがかけられていました。
このことから、パワーチューブに何らかの異常が誘発されていないか検査してみました。
V9 ポジションの 6L6GC のヒーター( ピン②とピン⑦間)はテスター目盛り1.2Ωの抵抗値を示し、正常です。
V9 の 6L6GC のヒーター配線 (正常 ) |
管内のヒーターが切れかかっています。
V8 の 6L6GC のヒーター配線 ( 異常 ) |
V8 ポジションの6L6GC 真空管のヒーターがきれかかっていました。そこでV8 真空管ソケットのヒーター配線を入念に調べてみました。外側から見るとわからないものの、ハンダを外して線を引っ張り出してみると、なんと黒く焦げています。
V8 の 6L6GC のソケットにつながるヒーター配線、焦げています |
つまり、過去に発煙したのはこのヒーター配線材だったということです。
おそらくヒーター配線の被膜の耐圧が低下し、近辺にある配線端子、AC 100VもしくはDC 400Vの端子とヒーター配線6.3V との間で放電し、発煙に至ったことが考えられます。
炭化したヒーター配線の被膜 |
古いヒーター配線と新しいヒーター配線 |
古いヒーター配線 |
耐圧強化した配線に変更 |
ヒーターの切れかかった V8 の6L6GCは使い続けることはできません。 V8 と V9 まとめてマッチドペアの新しい 6L6GC に交換しました。
RUBY ( 中国製) が付いていました。ここは耐久性の優れた Electro Harmonics ( ロシア製) の 6L6GC にしました。
6L6GC マッチドペアの交換 |
ここまでの作業を終えて、ようやくバイアス調整をすることができました。
Concert のバイアスは深さ調整ではなく2本のペア管どうしのバランス調性方式です。
バイアスの深さは作業11で交換したポットの抵抗の値で決まります。抵抗の値が小さくなるとパワー管に電流が多く流れ、寿命を短くします。
バイアス調整 |
バイアス調整後 |
試奏したところ、迫力のある音が蘇りました。
受け入れ時の試奏で感じた問題はすべて解決しました。
①クリーン音の高域にざらつきが出ている
⇒ 80年代の Fender らしいブライトで艶のある広域になりました。
②全体的に迫力がない
⇒ 迫力満点の音圧が回復しました。
③リバーブとOD は機能している。しかし、
・リバーブオンのかかりが少し不自然
⇒ リバーブのかかりが自然になりました。
・OD の音に色気がもっとほしい
⇒ OD の音色は色気があり、ソロに使える音質となりました。
テスト中 |
取り外した部品 |
V1 から V7 はそのままです。
V1 から V7 はプリ管で 12AX7 x 5個 12AT7 x 2個の組み合わせです。
現在音が出ているため交換していないものの、プリ管もゆくゆくは寿命が来てノイズを出したり、音がおかしくなったりします。真空管は消耗品です。
真空管のポジション番号と各々の機能を説明した書類をレポートに添付し、ご自身で交換なされるときの参考にしていただきます。
Concert の真空管ポジション番号 |
Have the nicest guitar life.
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