今から一年前のことです。大阪にお住まいの K 様が Youtube の画像をお送りくださいました。ドラムとギターのお二人で Johnny Winter の曲を民家の中で演奏なさっています。インパクト強烈。PA やライン入力という手段は使わず、2人バンドの音を少し離れたところから、録音・録画なさっています。
ドラムとギターの二人だけでロックを演奏するスタイルは70年代に大学の学祭でよく見られました。当時 PAマイク はボーカル専用で、バンドの音はギターアンプから出る音が基本です。ベースがいないため曲として聴かせるのにはとても苦労がいります。なんといってもギターアンプの音圧が必要。ドラムに負けずに観客の耳に届く音の腰というか輪郭が不可欠。それとコード弾きでの各弦の音の分離が明確でないとシンバルなどに負けて何を弾いているのか分からなくなってしまいます。音が埋もれるのではなく抜けて聴こえてくることが必要です。当時の学園祭会場に準備されていたアンプの中で私がよく重宝したのが Fender Bassman 50 ヘッドと 12インチ・スピーカー x2 のキャビの組み合わせ、ベースがいないのでベースアンプにぶちこんでしまえという発想。あるいは UNIBOX というメーカーのハイブリッドアンプでスピーカーが12インチ x 2個付いたものなどでした。
Youtube 画像の演奏にお使いのアンプは音の分離が悪く、抜けも良くありません。ドラムに負けています。しかし、演奏なさっているお姿に物凄くロックを感じました。70年代のエネルギーがそのまま再現されています。
仕事柄「こんなアンプが欲しい」というご要望はよく伺います。しかし、K様の画像のような演奏姿勢というかパワーというか魂が感じられるご要望はあまり多くはありません。
アンプ製作は貴重な時間を費やし、コストを抑えつつも最高の部品と回路と技術で丹精込めて行ないます。そのため安易な要望に基づいたアンプ製作は、気安く引き受けたくないのが本音です。
その点、K様のロックなご要望に私の血が騒がないわけがありません。なんとかして差し上げたいと思いました。
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Laney VC30 front view |
K様のご要望は 「Laney VC30 のキャビネットは生かし、アンプの回路を新しく作り直しハンドワイアードにし、あとはおまかせ。しいていうならドラムの音量に負けない音圧とパンチがあり、音の分離と音の抜けの良いアンプを作ってほしい。Jimi Hendrix の Little wing の音が出ればな」というものです。加えて「エフェクトループは不要、Master Volume とリバーブは欲しい」です。
木本さんのお使いになっているギターは Fernandes Burney の古い ES335 モデルです。実は私が初めて手にしたハンバッキング・ピックアップの付いたギターは Fernandes Burney のレスポール・コピーです。決して高級なギターではないものの作りはしっかりしていて耐久性があります。ギブソンそっくりの音ではないものの、ハンバッカー・ピックアップの特性を活かして、バーニーならではの個性的なサウンドが出ました。そんなバーニーを今もお使いの K 様に敬意を表し、素晴らしいアンプとなるように、トランスは全て交換し、リバーフは Fender のヴィンテージと同じく真空管駆動にし、パワーチューブもEL84 から6L6GCにグレードアップすることを設計必須項目としたうえで、価格は極力抑えてご提供できるように工夫して製作することにしました。これはかなりの難問です。
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Laney VC30 rear view |
【現状の Laney VC 30 の観察】
Laney VC30 のキャビネットには 2個の 12インチ・スピーカーが搭載されています。Fender のツインリバーブやプロリバーブと同じです。ところが、音圧はプロリバーブの半分も出ません。グシャーと潰れ、分離の悪い音質です。回路の設計がFender と全く異なることによります。
まあどちらかと言えば VOX の AC30 のコピー回路です。しかし、VOX のボリュームをフルテンにしたときのような迫力も出てきません。おそらく搭載されている出力トランスのコア不足もあるでしょう。
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Speaker 12" x2 |
スピーカーケーブルを観察してみました。
スピーカージャックはルサブギーと同じくグラウンド側が金属の裏蓋に繋がっている汎用のジャック。Fender のように裏蓋は絶縁体のものを使い安全性を向上する必要があります。
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Speaker |
スピーカーケーブルの線を拡大したものが下の写真です。ケーブル線は細く、しかも撚って ( strand )ありません。このスピーカーケーブルではアンプをグレードアップしてもその性能を十分にスピーカーまで届けられません。 AIW 製のWE 復刻版ケーブルに交換する必要があります。
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スピーカーケーブル |
現状のコントロールパネルが下の写真です。
ごっちゃら、ごっちゃらとノブとスイッチが並んでいます。ブースト・チャンネルのドライブとレベル、エフェクトループのノブも付いています。しっかりとした音圧と美しい音色にするには無駄なポットがあります。もう少しシンプルにします。
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コントロール・パネル |
真空管は 12AX7 が4本と EL84 が4本です。出力トランスはEL84 x4 にインピーダンスを合わせた専用トランスです。
RT リバーブ・トランスはありません。 Laney VC 30 のリバーブ・ドライバーとリバーブミキサーはオペアンプ IC が使われ、真空管回路ではありません。
リバーブは真空管駆動式に変更し、リバーブ音に艶を出します。RT リバープトランスを追加する必要があります。
プリ管(12AX7) のレイアウトにやや難があります。また出力トラナンスの交換は必須です。
出力管・パワーチューブは 6L6GC x2 にして音にふくよかさと迫力を増やすことにします。
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真空管と出力トランス |
下の写真の右端に見えるドーナツ型の白い物体が電源トランスです。EL84 用の比較的+B電圧は低いトランスです。このアンプを6L6GC x2 本にするには電圧と許容電流の両方が足りません。電源トランスも交換します。
このアンプには CT チョークトランスが付いていません。抵抗で代用されています。20W 以下のアンプならば CT は無くても良いです。しかし、パワーアンプの出力を40W 以上確保するため CT は新たに取り付ける必要があります。
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出力トランス(左) 電源トランス(右) |
シャーシーをキャビネットから外しました。
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シャーシーをキャビネットから外す |
Laney VC30 の回路は下の写真のように基板(PCB) で作られています。
リバーブ・ケーブルは基板上にハンダ付けされた RCA ジャックに繋がっています。ということはシャーシー上にリバーブケーブルをつなぐ RCA ジャックが無いことを意味します。新たに RCA ジャックを取り付ける必要があります。リバーブの発振を防ぐ最適な場所を決定する必要があり、これは意外と神経を使う作業です。
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回路基板 |
基板から出ている配線の様子が下の写真です。ここでひとつ重大なことに気づきました。
真空管ソケット側を手前にしてシャーシーを上から見たとき、インプット・ジャックは左前方に位置し、信号は左から右へながれて行きます。つまり Fender や Marshall アンプとは逆向きのレイアウトであることです。ジャック、ポット、電源スイッチのレイアウトを変えずこのまま使うしかないため、シャーシーに Fender タイプの回路を作っていくときに左右逆に考えなくてはいけない。いつもとは勝手が異なり、ミスをしやすいので要注意です。
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真空管ソケット部 |
【シャーシーから部品取り外し】
まず出力トランスと電源トランスを外しました。
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トランスを外したところ |
次に回路基板( PCB ) を外しました。
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回路基板(PCB) を外したところ |
元々付いている真空管ソケットのうちプリ管用のソケットの3個だけ流用します。必要なソケットは新たに穴あけします。
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不要な真空管ソケットを外したところ |
シャーシーを真横から見たのが下の写真です。L字の下の部分、写真の親指で支えている部分にトランスを載せます。元々付いていたトランスは軽めのものが付いており、問題はありませんでした。今回は出力増のために電源トランスも出力トランスも大きくて重量のあるものを載せる予定です。なにも対策をしないとトランスの重みでシャーシーの下板が下方にたわみ、何年かすると金属疲労を起こしひびが入ったり亀裂が入ったりする可能性があります。特に電源トランスの取り付け時には何らかの「シャーシーのたわみ対策」が必要です。トランスを全部外した状態で少し力を加えるとシャーシー下部はフワフワと動く状態です。
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シャーシーを横から見たところ。強度が不足している。 |
【1】プリ管用ソケットの増設
新たに一箇所新しいプリ管用ソケットを取り付けます。
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プリチューブ・ソケットの穴開け |
最適な場所にシャーシーパンチを使い穴あけします。
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シャーシーパンチで穴あけ |
新しいプリ管用ソケットを取り付けました。
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新しいプリ・チューブ・ソケットの取り付け |
【2】パワーチューブソケットの取り付け
元は EL84 だったパワー・アンプは 6L6GC にします。ソケットは大きい Octal ベースのものになります。シャーシーパンチを使い新しい穴をあけました。
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パワーチューブ・ソケットと整流管ソケットの穴開け |
EL84 用のソケット穴を拡張する形で穴あけします。
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シャーシーパンチによる US 8ピン・ソケットの穴あけ |
新しいパワーチューブ用のソケットを取り付けました。
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パワーチューブのソケット取り付け |
【3】リバーブ・トランスの取り付け
プリチューブは下の写真の左から、プリアンプ、リバーブドライバー、リバーブミキサー、フェーズインバーターという機能を担当します。
リバーブ・ドライバーより後ろリバーブ・ミキサーよりも前の位置にリバーブ・トランスを取り付けました。
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リバーブ・トランスの取り付け |
リバーブトランスの配線をしました。
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リバーブ・トランスの配線 |
リバーブケーブルの繋がる RCA ジャックをプリ・チューブのリバーブミキサーの直近に取り付けました。リバーブ・ドライバー、リバーブ・トランス、リバーブミキサー、RCA ジャックの位置関係の微妙なバランスが発振しにくく、音の良いリバーブ音を得るために必要です。
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リバーブ・ケーブル用 RCA ジャックの取り付け |
【4】出力トランス(OT)とチョークトランス(CT) の取り付け
出力トランス(OT ) とチョークトランス(CT) を取付けました。
これらのトランスの取付けには大きな穴あけは不要で固定用ネジ穴を開ければ取り付きます。配線をシャーシー内部に引き込む穴は使用しなくなったEL84 ソケットの穴を流用しました。
チョークトランスの右隣の真空管ソケットは整流管用のソケットです。整流管用ソケットの上部の青い円柱は主電源のフィルター・キャパシターです。
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出力トランス(OT)とチョークトランス(CT) の取付け |
【5】電源トランス(PT) の取付け
今回使う電源トランスは大きく、重量も増えます。
トランスの底面(ネジ穴付き)をダンボール紙に転写したテンプレートを作製し、部品間の干渉とシャーシーへの荷重を考慮しつつ取付けの位置決めを行います。
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テンプレートによる位置決め |
取付けネジ穴と配線取り込みの穴開けを行います。
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取付けネジ穴と配線取り込み穴開け |
電源トランスの重量でシャーシーがたわんでしまうことを防止するため、補強金具を取付けました。板厚の厚い幅広の L字鋼を 2箇所に取付け、補強しました。
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L字鋼の補強金具取付け |
電源トランスの配線は、下写真のようにカオス状態です。
これらを整然と配線していきます。「カオスの状態の中にもある種の規則性が存在します。その規則性に沿って眺めると整然とした配列が生まれます。」
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電源トランスの配線 |
電源トランスの配線線を完了したのが下の写真
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電源トランスの配線の完了 |
【6】回路設計
ギターアンプの回路設計を行い、部品レイアウト図を起こし、回路ボードを製作していきます。
今回はプロリバーブとヴァイブロバーブの中間の音を狙った設計です。Fender の回路をベースに少しづつ抵抗値やコンデンサー値を変えて、独自の音色になるように論理回路を作製。
次に論理回路図から実際のシャーシーに合うようにレイアウト図越しをします。
今回は Fender と左右が逆のため、ミスの無いように、細心の注意を払ってレイアウト図を起こします。
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論理回路図からレイアウト図を起こす |
シャーシーに合わせた回路ボードと同じ寸法のテンプレートを作製します。
実際の部品を使いテンプレートに無理が無いかを確認します。
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テンプレートの確認 |
無地のボードにテンプレートを貼り付け、アイレットを埋め込むための穴開けをします。
アイレットは100個以上取り付けます。正確にアイレット取付けするため、穴あけにはボール盤を使います。
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アイレットの穴あけ |
穴あけが済んだら回路ボードからテンプレートを外します。
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テンプレート上と穴あけの済んだ回路ボード |
穴あけした回路ボードにアイレットを打ち込んでいきます。
回路ボードの製作には今回のようにアイレットを使うものと、初期のMarshallのような足長のスタッドを使うものがあります。スタッドを打ち込む場合は、ボール盤にアダプターを取付け足が折れないように圧縮して取り付けます。アイレットの場合は足が折れる心配はなく、金槌でアイレット用の金属棒の頭を叩いて取り付けることができます。
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アイレットの取付け |
打ち込んだアイレットとシャーシー内のジャック、スイッチ、スタッドとの干渉が無いかを回路ボードを仮止めし、確認します。
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回路ボードの仮止め、干渉チェック |
【7】電源部品の搭載
回路ボード内で最もスペースをとる電源用アルミ電解コンデンサー(フィルター・キャップ、青色)を搭載します。このコンデンサーは各増幅段のエネルギー供給源です。下の写真のの右端の黒いコンデンサーはバイアス電源用のコンデンサー。
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電源部品の搭載 |
【8】プリアンプ回路部品とリバーブ回路部品の搭載
インプットジャックから入力された信号を増幅し、トーンポットに送り出し、ボリュームポットから帰ってきた信号を再度増幅し、リバーブ・ドライバーに送り出し、リバーブ・スプリングから帰ってきた信号と生音とをミキシングして増幅するまでの回路です。
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プリアンプ回路部品とリバーブ回路部品の搭載 |
【9】フェーズインバーター回路の部品搭載
パワーアンプに信号を送り出すフェーズインバーター回路の部品を搭載。
回路ボードとポット間をつなぐ配線ワイアーと回路ボードと真空管ソケット間をつなぐ配線ワイアーも取付けました。
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フェーズインバーター回路の部品搭載 |
【10】回路ボードの取付け
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回路ボードのシャーシーへの組み付け |
回路ボードとポット間および真空管ソケット間の配線ワイアーを取付け、アンプ回路部分が完成しました。
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ポット・ノブの取り付け |
【11】スピーカーケーブルの作製
せっかくの12インチx2個のスピーカーもスピーカーケーブルが貧弱でした。
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スピーカーケーブル交換前 |
裏蓋が絶縁されているフォンプラグ、6個の3M製のスペードコネクター、AIW 製 WE 復刻版スピーカーケーブルを拠ったものを準備します。 スピーカーケーブルをどの程度拠るか( Stranded) で音質が変わります。全く拠らずに平行の2線とすると、低域が出すぎてブヨブヨになり音の輪郭がぼやけてしまいます。固く拠りすぎると低域が絞まりすぎるのと同時に音が細くなっていきます。適度に拠る、このさじ加減が大切です。
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フォンプラグ、スペードコネクター、スピーカーケーブルを拠ったもの |
アンプからスピーカーの端子までの距離、2個あるスピーカー間の端子の距離を計算した長さにスピーカーケーブルを作製します。下の写真の左側はアンプからスピーカーまでのもの、右側がスピーカー間をつなぐものです。これで2個のスピーカーを並列接続します。
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スピーカーケーブルの完成 |
上で作製したケーブルをスピーカーに装着しました。
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ケーブルをスピーカーへの取付け |
【10】真空管の選択
パワーチューブは EL84 x4 をやめて 6L6GC x2 に変更しています。パワーチューブは交換となります。ではプリチューブはといいますと下の写真が元々付いていたプリチューブです。どれも壊れてはいません。しかし、SOVTEK 12AX7WA が2本と RUBY ( 中国製 ) 12AX7 が2本で、最も安価な組み合わせです。
SOVTEK の 12AX7WA はVibrato の発振管には適するものの、ギター信号には音の荒さが出てしまいます。 中国菅 は耐久性に若干の問題があり、ロシア製やスロバキア製の8割の寿命です。
アンプの回路を丁寧に仕上げて、最終工程のここまで来ると、既存のプリ管の銘柄が気に入らないと、それを流用する気がしなくなるのが私の病気です。真空管の流用はあきらめて全て新しくすることにします。
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元々付いていたプリ・チューブ |
下の写真のようにプリ管は Tungsol Reissue 12AX7, JJ ECC81, JJ ECC83MG, Electroharmonics 12AT7 MT( Matched Twin ) としました。
パワー管は Tungsol Reissue の 6L6GC STR x2
整流管は JJ 5AR4 です。
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全て新品の真空管に交換 |
【11】組み立て
シャーシーをキヤビネットに取付けました。補強金具のおかげで電源トランス部分のシャーシーがぐらつくこともありません。
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キャビネットにシャーシー取付け |
下からシャーシーの底部を見ると下の写真のようになります。
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シャーシー底部 |
アンプを真後ろから見るとこのようになっています。
正面は一番最初の写真と何も変わりません、。しかし、後ろを見ると明らかに異なります。
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アンプを後ろから見た |
コントロールパネルは下の写真です。
インプットジャック x2,
ポットはVolume, Treble, Bass, Reverb, Master Volumeです。
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コントロールパネル |
バイアス調整を行い試奏し、出荷しました。
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バイアス調整 |
昨年の6月に出荷しました。
お客さまはとてもお喜びになりお使いになっていました。ところが、2ヶ月後、お客さまから問い合わせが来ました。
「しばらく使っておらず、久しぶりに弾いたら音圧が低下している」というものです。
万全の体制で作製したにも関わらず、2ヶ月足らずで音圧低下してしまいました。
しばらく考えて、どのような保管をなさっていたのか伺いました。
昨年の梅雨から夏にかけては高温・多湿の状態が長く続きました。
お客さまは梅雨の間、2週間、山奥にある古民家の土間にアンプを置き去りにしていらっしゃいました。その土間は、じめじめしているとのことです。
この音圧低下は、どうも大量の湿気をアンプの回路が浴びたせいではないかと思い、
お客さまにアンプの除湿をお願いしました。アンプを除湿剤と一緒に密閉式の布団袋に入れ、しばらく乾燥させていただくことになりました。
しばらくしてお客さまから「音圧は元に戻った」との連絡がありました。
やれやれです。
Fender や Marshall のアンプのシャーシーは、大きなお弁当箱のような作りです。回路が見える開口部はキャビネットの板で塞がれ、ある程度の密閉性が保たれています。
ところが Laney VC 30 のシャーシーは独特の形状をしており、密閉されていません。しかも、シャーシー金属のあちらこちらにスリットを入れています。そのため、ひょっとして湿度が回路に影響したのではないかと推測し、見事に推測は的中しました。
直ったとはいえ、念のためにアンプを点検することになり、送り返してもらいました。
【再調整】湿度による被害対策
アンプのシャーシーを外し、回路の点検をしました。
その結果、
①パワー・チューブのソケットに黒い汚れが付着していました。恐らく水に濡れた状態でパワーオンし、真空管の熱によってその水が蒸発したような痕跡です。
② 回路ボードには一度水に浸して乾かしたかのような波うちが見られました。
明らかに高い湿度にアンプがさらされていた証拠です。
幸い、お客さまによる除湿の効果により、回路ボードの水分は完全に抜けており、カビなどの発生はありません。
回路ボードの素材として今回使用した紙、フェノール、紙の3層サンドイッチでできた Fender ヴィンテージ・レプリカのボードの他にグラスファイバーのボードも在庫しています。グラスファイバーは耐湿度の観点からは優れます。しかし、様々な実験の結果、回路を仕上げたときの音質はヴィンテージ・レプリカが勝ります。ここは音質を優先し、お客さまにアンプの湿度管理をしてもらうことにします。
全ての回路の点検を行い、回路ボード以外の部分で湿度に弱い部分を洗い出し、その部分の改善をしました。
【クロス・ワイアー(cloth wire ) からビニル線への交換】
プリアンプの信号を Treble, Bass ポットに送り出すワイアーは Cloth wire ( 布巻き線 ) を使っています。布が高い湿度を含むと絶縁が低下し、音圧低下を招きます。
下の写真がトーンスタック配線の Cloth wire とビニル皮膜 wire の比較です。
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Cloth wire とビニル皮膜ワイアー |
現状の配線
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現状の配線 |
ベルデン製のビニル皮膜 wire に変更しました。
同時に Trebl と Middle のコンデンサーも交換しました。このコンデンサーは湿気の影響で DC リークしやすくなっているかもしれないための予防交換です。
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ビニル配線に変更 |
【マスターボリュームの方式の変更】
今回のマスターボリュームは PPIMV ( Post Phase Inverter Master Volume ) 方式にしました。この方式はマスターボリュームの働きが自然であるというメリットがあります。反面2連ボリュームを使い配線の数が多い、シールドにバイアス電圧を使うためバイアス電圧の引き回しが長くなります。万一高い湿度にさらされ、これら冗長な部分に湿度が侵入すると回路が正常に機能せず、音圧低下を招く確率が高くなるというデメリットがあります。あくまで確率の問題ではあります。しかし、お客さまのような使用環境では少しでも確率は下げておく必要があります。
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現状のマスターボリューム PPIMV |
Fender や Marshall に見られる汎用のマスターボリュームに変更しました。
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配線の数の少ない汎用マスターボリュームに変更 |
以上の変更を行い、お返ししました。
マスターボリュームもお客さまはこちらの方式がお気に入りで、問題はありませんでした。
また心配していた湿度による機能障害もお客さまによる保管時の湿度管理もあり、一年以上問題は起こっていません。
今年の梅雨を乗り切れたのを確認し、ブログに掲載しました。
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