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2016年12月23日金曜日

出戻りさんの修理

12月初旬にお客さまにお返ししたアンプが出戻ってきました。

理由は
(1) トレモロの揺れに呼応したノイズが出る
(2) しばらく使うと電源スイッチの温度が上がる
(3) Treble ポットにガリが出る
(4) 以前ならVolume ポットの目盛り 1 からすぐに音が出たが今は 2 を超えないと音が出ない

です。

アンプのオーバーホールをしてからまだ間がないため全て保証修理(無料)で行います。

順番に問題を解決していきます。

【1】トレモロの揺れに呼応したノイズが出る

これは Intensity を絞ってトレモロの音は出さない状態で単に Volume ポットだけを上げるとボツボツというノイズが聴こえるという症状です。このボツボツの間隔が Speed ノブに連動して早くなったり、遅くなったりするものです。
前回の出荷前テストで V4 真空管の交換をしたら出なくなり、出荷したらお客さまのところで再発したものです。

このノイズはトレモロの発振回路の揺れがそのままノイズとして拾われているということです。

前回のレストア時、トレモロのスピードをオリジナルよりも遅くするために揺れを作り出す回路に使われる3個のカップリング・コンデンサーの値をオリジナルよりも大きくしていました。
値が大きい分コンデンサーの物理的な容積も大きくなります。
そしてその容積が大きい分近くの部品に揺れの信号を寄生させている可能性があります。

下の写真のオレンジ・ドロップ x3個が対象のコンデンサーです。

3 orange drop of Tremolo circuit 
この3つのオレンジドロップをオリジナルの値のセラミックコンデンサーに変更しました。
同時に、いままではオレンジドロップの影に隠れていたカソードにつながる 1MΩ抵抗をコンデンサーから引き離し、抵抗の足にテフロンの皮膜をつけ、寄生されにくい配線状態にしました。

Reworked Tremolo circuit. Orange drop was replaced with ceramic cap
上の作業でノイズが消えました。過ぎたるは及ばざるが如し。お客さまを喜ばそうと、色気を出し、オリジナルよりもトレモロを遅くしようとしたことが裏目にでてしまいました。こういう余計な事をしてしまうバカな私です。オーバーホールでは修理することだけに専念すりゃいいのです。反省。



続いて、
前回、真空管交換をしたら一旦ノイズ消えたことに着目しました。
真空管交換により何が変わったのか? ソケットとピンとの接触状態が変化したら出にくくなったということ。そしてしばらくパワーオンすると再発した。つまりソケットと真空管の接触部が不安定であり、長い時間パワーオンして熱が加わると真空管とソケットの接触状態が変化したかもしれない。
これは推測でしかありません。
しかし、このアンプは回路ボードを新しく作り直さないといけないぐらい接点復活剤の嵐に吹かれていました。今付いている真空管ソケットはクリーニングしたものの交換しておらず、目に見えにくい部分で絶縁不良が起きているかもしれません。
不安のタネを抱えたまま出荷し再々修理となることはお客さまのてめにも避けるべきです。
予防交換の意味も含めて真空管ソケットを交換しました。
Tube socket of V4 
新しいV4 真空管ソケットが下の写真です。
V4 socket replaced with the new one
【2】しばらく通電すると電源スイッチの温度が上がる
温度が上がるといっても少し暖かい感じです。

今までお客さまがお使いになっていた+B 電圧は375VDC ( トランス2次電圧 275V)だったのに比べて現在はおよそ440VDC( トランス2次電圧 340V) に上がっています。6V6GT の耐えられるギリギリの電圧です。パワー管と整流管の発する熱量は格段に増えます。当然これらの近辺に位置しているスイッチ類は真空管の熱により少し温度が上がります。

かといってこれを放置してそのままお返しして何らかの問題が出ては困ります。
あらゆる可能性を排除しておこうと思いました。
スイッチが発熱する場合、配線がイモハンダであったり配線の取り回しが良くないことがあります。
全て検査したところ問題は見つかりません。

唯一残ったのは整流管のソケットです。先般交換した V4 ソケットと同じく、クリーニングして配線しており、交換はしていません。
Socket of rectifier tube
絶縁劣化の起こりにくいセラミック製のソケットに交換しました。
New ceramic socket of rectifier tube
次にバイアス回路が不安定であるとパワーチューブの温度を上げたり、バイアス回路そのものか発熱することがあります。オーバーホールしているものの、バイアス回路のボードは以前付いていたものをクリーニングして配線しています。
Bias circuit
新しく素材からバイアス回路ボードを作りました。
Bias circuit board
下の写真の左がクリーニングして再配線したボード。右が新しいボード。
Comparison between an old board and new one
新しいボードに新しい抵抗、ダイオード、コンデンサーで再配線しました。
New board new parts re-installed


Ventilated hole cap
【3】 Treble ポットにガリが出る
前回の出荷時にトレブルポットにガリは出ていませんでした。お客さまのところでしばらく使っていたらガリが出たということです。下の写真は古いポットと新しいポットを並べたものです。古いポットが後、新しいポットが前です。古いポットは接点復活剤が絶縁部分(茶色)にしみこんでテカリが出ています。
Old pot ( rear ) , new pot ( front )
ポット交換してガリは無くなりました。

【4】以前ならVolume ポットの目盛り 1 からすぐに音が出たが今は 2 を超えないと音が出ない

レストア前はスイッチ付きの1Mポットが付いていました。スイッチは不要というご要望であったため、新しい CTS ポットに交換して出荷しました。しかし、今度は立ち上がりが気になるとのこと。
たまたま古いポットをお返しするのを忘れており、手元に残っていました。
古いポットを取り付けて音の立ち上がりを見ると、確かに早い段階で音圧が高くなります。
2つのポットの抵抗値を計測するとボリューム目盛りの2の位置の立ち上がりは現行CTS の方が遅い。Aカーブとしては理想の立ち上がりです。古いポットは B カーブ寄りです。
つまり年数がたち CTS がAカーブをよりLOG に近づけた仕様変更により、音の立ち上がりに差が出たということです。
しかし、古いポットはガリがひどい。ガリをとるのか立ち上がりをとるのかといえば、ガリは無いほうが良いはず。
今度はロットの異なる新しい CTSのポットを取り付けました。ロットが変わっても新しいポットの立ち上がりは同じ感じです。

Old pot ( rear ) new pot ( front )
【5】バイアス・チェックと試奏
バイアス回路のボードを新しくし、部品も新しくしたため、バイアスチェックを実施しました。
値は正常でした。

しばらく試奏をしてノイズやガリが出ないことを確認し、再度お客さまに出荷しました。
今頃はお客さまが試奏なさっていると思います。

Bias Check



2016年12月10日土曜日

Bias modulation tremolo

【Princeton Reverb Tremolo, vibrato】
【プリンストンリバーブのトレモロ、ヴィブラート】


Speed, Intensity knob of Princeton reverb  

プリンストン、プリンストンリバーブのトレモロはデラックスリバーブやツインリバーブ等のトレモロとは回路が少し異なります。

そのために、扱い方でどこが違うかというと
デラックスリバーブやツインリバーブのトレモロはバックパネルにフットスイッチを繋いでオンしてはじめて効きます。

対してプリンストンはフットスイッチを繋がなくても Intensity のつまみをあげれば揺れ始めます。
Foot Switch Jack

音質も異なります。
デラリバやツインリバーブのトレモロは揺れるときに原音の音色(高域)が少しだけ味付けされた感じです。

対してプリンストンのトレモロはもう少し自然で、原音に味付けすることなく揺れている感じです。
揺れ方もダイナミックです。

差は回路の違いからきています。

デラリバやツインリバーブのトレモロは「真空管をわざと発振させ作り出した電圧の揺れ」を、LDRという素子内で光の点滅信号に変えます。次に光の強弱に連動して抵抗値が変化するLDR の内部の抵抗をプリアンプの出力にかませることにより、プリアンプ信号を揺らします。
LDR とは Light Dependent Resistor の略で、光により抵抗が変化するという意味です。
LDR は別名 Opto Coupler (光結合器) とも呼ばれます。

プリンストン・リバーブのトレモロの方式は、ネット上では Bias modulation tremolo ( バイアス・モジュレーション・トレモロ ) という呼称です。「真空管をわざと発振させ作り出した電圧の揺れ」をアンプのバイアス回路にぶちこみます。つまり、バイアス電圧が一定ではなく揺れることにより、パワーアンプの音そのものを揺らす方式です。

下図 デラリバの回路の一部、LDR と繋がった Intensity がプリアンプ出力に繋がっています
Deluxe Reverb Tremolo circuit using LDR
 下図 Intensity はパワーチューブのバイアスに繋がっています
Princeton Reverb Circuit using bias modulation

ギャンプスのウェブサイト、ギターアンプの技術情報からリンクしている
ギターアンプのヴィブラート(トレモロ)というページはLDR 方式のトレモロについて述べています。

Bias Modulation Tremolo については書いていませんでした。当ブログに技術情報として掲載しています。

【Bias Modulation Tremolo を使っている Fender のアンプ】
プリンストン・リバーブだけが Bias Modulation Tremolo ではありません。
以下に主なものを列記してみました。

a) バイブロ・チャンプ ( Vibro Champ)
ブラックフェースもシルバーフェースも共通

b) プリンストン、プリンストン・リバーブ ( Princeton, Princeton Reverb )
ブラックフェースもシルバーフェースも共通。ブラウンフェース 6G2も。
'64 リイシューも。

c) 6G3 デラックス ( Deluxe )
ブラウンフェースのデラックスだけは Bias Modulation。

d) トレモラックス ( Tremolux )
6G9 ブラウンフェース
訂正: ブラックフェースはLDRです。


e) 6G11 ヴァイブロラックス( Vibrolux )
ブラウンフェースはBias Modulation です。
訂正: ブラックフェースはLDRです。

f) 6G16 ヴァイブロバーブ(Vibroverb)
ブラウンフェースのバイブロバーブはBias Modulation です。
'63 リイシューもです。

'64 リイシューはLDR です。
Vibroverb は AB763 回路の時点でLDR 回路に変更されています。


2016年12月6日火曜日

Princeton Reverb Restoration Part 2.

この投稿は 11月初旬に掲載したプリンストンリバーブのその後の作業に
ついて記載しています。
タイトルがオーバーホールではなくレストアとなっているのはそれだけ作業量が大量だったことを意味します。

プリンストン・リバーブの受け入れ検査の様子はこちら。

【スピーカーの状態】
 スピーカーはオリジナルながら、コーン紙の破れは無く、まだ使えます。
スピーカーのコーン紙の状態
【1】スピーカーケーブル交換
お客さまのご要望によりスピーカーケーブルを交換しました。
特に銘柄指定の無い場合は WE 復刻版ケーブルを使います。
スピーカーケーブル交換前

古いスピーカーケーブルを外したところ

新しい WE 復刻版ケーブルを使いスピーカーケーブルを作製しました

新しいスピーカーケーブルを取付けて完了
【2】. シャーシーから部品を外す

Dismounting PT from the chassis
2次電圧が275V しかないブラジル製の電源トランスをディスマウント

after dismounting PT
ボックス・タイプのアルミ電解コンデンサーを外します。
1本の中に通常のアルミ電解コンデンサー4本分が収められています。
オリジナルのまま40年経過していて、容量抜けし、使い物になりません。

dismounting electrolytic capacitor 
トランスとコンデンサーを外した後に反対側から見たところ

Bottom view of the chassis
電源トランスのマウント用穴は、ブラジル製トランスを載せるときに加工されています。
新しいMercury の電源トランスはなんとか載りそうです。

Chassis hole for PT
次に回路ボードを撤去。
Circuit Board
回路ボードを取り去ったところ
removed the board
ここでシャーシーをクリーニング。
接点復活剤やら埃やらでシャーシー金属は汚れていました。
cleaning has been done
7本ある真空管ソケットもクリーニングしました。
こちらも接点復活剤と埃で汚れていました。
Tube socket cleaning
【3】 グラウンド・バスバーの取付け
Fender のアンプはポットの裏に薄いブラス板が敷かれておりグラウンド・バスの役目を果たしています。ブラスとグラウンド配線はハンダ付けでつながれています。
このグラウンドバス上の接続の良し悪しにより、何も弾かないときのバックグラウンド・ノイズの大きさが変わります。
ブラスと配線材は元来ハンダがつきにくい。加えて何十年も経過したブラスは腐食と汚れでハンダがさらにつきにくくなっています。過去の経験から再ハンダ付けをして劣化したハンダを回復するよりも新たに銅平棒のグラウンドバスを敷設する方がバックグラウンド・ノイズは確実に低くなることが分かっています。
お客さまと相談し、銅平棒のグラウンド・バスを敷設しました。このバスバーにはしっかりとネジ留めしたグラウンド端子を取り付け、このグラウンド端子にハンダ付けすることにより、強固なハンダ付けが可能となります。

Copper ground bus bar
【4】 V1 真空管ソケットの交換

V1 の真空管ソケットだけはクリーニングしても汚れが取れません。
Tube Sockets from right to left V1, V2, V3
そこでソケットを外してみると、オイルが凝固したような汚れが付いています。
Oil stained socket
新しい MT 9 ピンのソケットに交換しました。
Replaced V1 socket with new one
【5】 パワーチューブ・ソケットの交換と真空管リテイナーの取付け

下の写真のように整流管のソケット(左端)には真空管の抜け防止のためのリテイナーが付いています。しかし、パワーチューブのソケットには付いていません。リテイナーが付いていなくてもソケットのピンの締りが良く、しっかりとパワーチューブをホールドしてくれる場合にはリテイナーは不要です。しかし、このアンプのパワーチューブのソケットのピンは緩んでいます。絶縁部(茶色の部分)の劣化が激しい状態です。
From right to left V5, V6, V7. V5 and V6 does not have a retainer
高電圧に強いセラミック製のソケットに交換すると同時にリテイナーを取付けました。
New ceramic socket and retainer for power tubes
【6】フィルターキャップの取付け

Mounting filter cap
プリンストン・リバーブのフィルターキャップ(電源用のアルミ電解コンデンサー)は円筒形をした筒の中に4個のアルミ電解コンデンサーが入っています。これを使うことで、小さいシャーシースペースの有効利用ができます。現在全く同じ形式のものを生産しているのは CE Manufacturing というアメリカの会社だけです。(オリジナルはMallory製)
このコンデンサーは他の円筒形のコンデンサーと異なり、筒の先端にある爪をシャーシーに直接ハンダ付けすることでシャーシーに固定されます。 この爪の部分がマイナス端子の役目も果たします。
このコンデンサーと同じタイプのものを使うアンプは他にBF Champ, SF Champ, BF Princeton, と Super Champ, ChampⅡ等です。比較的小型のアンプです。
Soldering nails of the cap
大き目のコテ先の付いた温度調節式ハンダで確実にハンダ付けします。単に固定するだけでは意味がなく、しっかりとシャーシー・グランド配線の導通を完成させるためのハンダ付けです。

Soldering finished
シャーシー裏側、銀色の筒が新しく取り付けたフィルターキャップ。
Bottom view of the CAP
【7】電源スイッチとスタンバイスイッチの取付け
Holes of back panel
当アンプの電源スイッチは使い物になりません。
接点復活剤で絶縁の劣化した危険な電源スイッチ

電源スイッチを新しくするついでにスタンバイスイッチも増設しました。
電源電圧の選択切替スイッチが付けられていた丸い穴は塞いでおきます。
安全のために電源スイッチは片切り(SPST)ではなく両切り(DPST) にしました。

Power switch and standby switch installed
【8】電源コードの取付け
電源コードを新しくしたいというお客さまののご要望もあり、新しい電源コードを取付けました。
power cord hole
新しいコードの芯線の太さはAWG 16、ソケットは3芯です。
power cord installed
電源コードの配線は電気安全に準拠して配線してあります。
power cord wiring
【9】バックバネルの端子のクリーニングと錆び落とし
写真左からメインスピーカー端子、エクストラスピーカー端子、Vibrato Foot Switch, Reverb Foot switch, Reverb output, Reverb input です。全ての端子が汚れている上に錆びが出ています。
Connectors on back panel 
端子を分解しクリーニングした上で錆びを落としました。
Connectors rust removed
このアンプは名の通った大手楽器店で販売されていたのをお客さまが購入なさいました。
しかし直ぐに不具合が発生し楽器店に戻され修理もされました。楽器店では2度もメンテナンスのチャンスがあったということが言えます。例え回路のことは不慣れでここに述べた作業全ては無理だとしても、上で述べた作業【9】端子クリーニングと錆び落としぐらいは簡単にできるし、実施するのが当然だと思うのです。戻された不具合は ReverbとVibrato だったのだから、なおさらのことでしょう。そう思う私はおかしいのでしょうか ?

【10】Intensity ポット交換
ポットの点検を行なっている最中に Intensity ポットの抵抗値不足を発見しました。
本来250KΩのポットであるべきところ抵抗値が 187KΩしかありません。
Intensity Pot is only 187KΩ which should be 250KΩ
ポットをシャーシーから外してみると絶縁部に接点復活材のオイルが染み付いています。ポットに記載されている標記には250KΩという記述があります。しかし 187KΩしか無いということは、内部で絶縁不良を起こしています。
Oil stained pot
新しい250KΩ のポットを取付けました。
Installed new 250KΩ POT
【11】Bias 回路のオーバーホール
プリンストン・リバーブは固定バイアスです。しかし、バイアス調整用のポットは付いていません。文字通り固定です。
一方でプリンストン・リバーブのヴィブラート(トレモロ) は Bias Modulation Tremolo です。平たくいうと発振器で作った揺れ信号をIntsnsity から直接パワーチューブのバイアス電圧に注ぎ込みます。
バイアス電圧を揺らしてやることであのダイナミックなトレモロにしています。
しかし、Intensity を上げてトレモロの効き具合をかなり大きくするとバイアスが浅くなりすぎ、パワーチューブの疲労を早めることがあります。バイアス調整が可能の回路であれば、バイアス電圧を補正してやり、パワーチューブの疲労を軽減できます。
バイアス回路のオーバーホールに際してバイアス調整可能な MOD をしました。

Bias circuit
はじめにポットを設置します。
newly installed bias adjust pot 
続いてバイアス回路の部品をオーバーホールしつつ、バイアス調整可能な回路に変更しました。
バイアス回路で作ったマイナス40V 近辺のバイアス電圧は Intensity Pot につながれます。Intensity ポットのワイパーはパワーチューブの Grid Leak 抵抗につながり、バイアスを供給します。Intensity ポットの右側端子がトレモロ発信器の出力に繋がります
bias circuit overhauling completed
【12】電源トランス PT の取付け
このアンプの電源トランスは WILLKASON というブラジルのオーディメーカーの物で、2次電圧は275V しかありません。本来は340V 必要
当アンプに取り付けられていたWILLKASON 製の電源トランス

Before installing PT
新しい MercuryMagnetics 製の電源トランスを取付けました。
シャーシーの裏側から見るとこんな感じ
after installing PT
回路側から見ると
before installing PT, Circuit side view
電源トランスを取付けた直後は配線材がこんな感じです。
PT wires 
配線材をていねいに撚って(Strand して)電源トランスの配線を行います。この撚りを怠ったり、配線材が不必要に長いままだとアンプはノイズの山と化します。とても大切な作業です。
時々趣味で自作なされたアンプを拝見することがあります。電源トランス配線の取り回しが超いいかげんなものがほとんどで、ノイズが多いアンプがほとんどです。
PT wires stranded and connected
作業【1】から【12】までを行なって、ようやく肝心の回路レストアに移ることができます。
これらの12個の作業のどれかひとつでも手を抜くと、あとで変なノイズや発振に悩まされたり、欲しい倍音豊かなサウンドが手に入らなかったりします。丹精込めて行なうとても重要な作業はGAMPS のポリシーです。

【13】回路ボードの設計・製作

ポットの位置、グラウンドバスとの距離、真空管ソケットとの位置関係を念頭に入れ、回路図を元に最適な部品レイアウト設計をします。配線が長すぎて高域のヒスをおこしたり、発振に寄生されたりしないことを考えて一つ一つの抵抗・コンデンサー部品の位置を決めます。
グラウンド配線は非常にデリケートでノイズを極力減らすには細心の設計が必要です。

Fender が公開しているレイアウト図や取り外したボードのデッドコピーをすれば良いと思われるかもしれません。しかし、あのレイアウトには最適ではない部分があります。特にグラウンド接続部分で何箇所か修正が必要です。ここまでしても効果はわずかで、いつもアンプを触っている人間であれば聞き取れるノイズ・レベルの差です。しかし、ボードを新しくするのであれば、出来上がった時点での私自身の満足のためにもここはゆずれない作業です。
designing circuit board template
レイアウト設計作業の結果としてダンボールでテンプレートを作ります。このテンプレートの下にボードの素材を置き部品をハンダ付けするアイレット用の穴をドリルで開けます。
Drilling board using the template
穴あけが全て終わり、テンプレートを外した回路ボードです
Drilling done
ドリルで開けた穴にアイレットと呼ばれるハトメを打ち込んでいきます。このハトメの部分に抵抗やコンデンサーをハンダ付けします。
eyelets mounted
【14】回路ボードへの部品の搭載
プリアンプからパワーアンプ・ドライバーまでのアンプの回路を抵抗・コンデンサー部品を取り付けながら構築していきます。今回はどんな部品にしようかと試行錯誤しながら部品を決めています。
今回もトレモロの揺れのスピードを少しゆっくりにします。
Circuit parts mounted and soldered
古い回路ボードとの比較です。
Comparison with the original board
古いボードはシルバーフェースのため裏側配線は全くありません。新しく作った方は発振に寄生されやすい配線は裏側を這わせています。
Comparison with the original board rear side

【15】回路ボードのシャーシーへの組み込み
作業【14】で作った回路ボードと、ポット、真空管ソケット、フィルターキャップ、トランスをつなぎシャーシーに組み込みました。
Circuit Board mounted on the chassis
【16】バイアス調整とテスト試奏

バイアス調整を行い、テスト試奏を行いました。
bias adjust
テスト試奏の結果


音圧は回復しました。
リバーブは正常に効きます
トレモロも正常に効きます。従来よりもゆったりとしたスピードで鳴らすことができます。
×  トレモロの Intenisty をゼロにしてもトレモロのゆれに呼応したノイズが出ます。
   回路に問題はなく、トレモロの揺れを作り出している真空管 V4 の故障です。
× Reverb のポットにガリが出ています。クリーニングでは直らずポット交換が必要です。
 △ あと少しサウンドに改善の余地があります。カップリング・コンデンサーを変えてみます。

上記の×と△についてさらに作業が必要です。


【17】V4 真空管の交換
Intensity をゼロにしても聴こえる揺れに呼応したノイズの原因は V4 真空管 12AX7 の不良でした。
12AX7 は一つの管に増幅素子が2つ入っています。2つある増幅素子のうち片方はフェーズインバーターとして使われ、もう片方が Tremolo の揺れを作り出す発振回路として使われます。
このトレモロ側の素子不良です。
RUBY の 12AX7 を 耐久性で定評のある JJ 製の ECC83MG に交換しました。
V4 tube replaced from Rubby to JJ 
【18】Reverb ポットの交換
古いポットを取り除き新しいポットにしてガリが解消しました。
Reverb Pot replaced
【19】3個のカップリングコンデンサーの交換

私自身が納得しないとこのアンプはお客さまのところに返せません。
普通にいい音なんです。でも、いまひとつ腑におちません。

今から40年以上前のこと、若かりし頃、大津で開催された手作りのロックフェス、ギター抱えてステージに上げてもらい、準備されていた Fender アンプを借りてシールドつないでジャラーンと鳴らした瞬間の音を今でも体中が覚えています。首筋のあたりにつたわる振動感覚、アンプのボリューム6ぐらいにしといて、ギター・ボリューム7ぐらいのメリハリがありつつもおちついたバキングで光る音、ギターボリューム10にしたときのギターソロで使えるゲイン感と高域の倍音。

市販されているコンデンサーの材質と耐圧はプリンストンとデラリバでは異なるものをつかわないと厳密に当時の音にはならないということなのか。今回は考えるところがあってデラリバでよく使う部品を搭載してみました。だって昔の Fender ではデラリバもプリンストンも同じ部品使っていたから。しかし、それが良くなかったようです。現代では通用しない。現在入手できる市販のコンデンサーの癖というか部品の持つ音というか、それが当時と全く同じではないことは理解していたはずでした。ある組み合わせが全てオールマイティーではないということなんです。

2年前にプリンストン・リバーブのオーバーホールをしたときに使ったコンデンサーの組み合わせに変更してみました。大正解でした。プリンストンはこの組み合わせでプリンストンの音になるのですね。自分で独りで納得しました。オタッキーでアホな私です。

Three coupling caps has been replaced for tonality
【20】プリンストン・リバーブ・レストアの完成
Completion of restoring
再度試奏を行いました。一日あけて試奏、翌日も試奏。
全く問題のないことを確認し、お客さまに発送しました。
Front view
アンプの背面です。この後バックパネルを取付けて発送しました。
rear view before attaching back panel 

11月はこの仕事にかかりっきりでした。疲れもうした。