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2017年12月11日月曜日

Fender Princeton amp 1966 のオーバーホール

1964年製の Fender Princeton (プリンストン) アンプのオーバーホール

「音圧が小さい、チャンプと変わらない」という症状で当方に来ました。
東京の F さま所有のアンプ。

先の Super Champ を仕上げた後、こちらの作業をしました。

来年作業予定だったオーバーホールのご予約は、当方の体調管理のため全てキャンセルさせていただきました。

当アンプは今年度の最後のアンプです。

Princeton '64 Front View

Princeton '64 Rear view

回路は下の写真のとおり。
過去にアルミ電解コンデンサーだけが交換され、抵抗やフィルムコンデンサーは手つかずのまま。
回路の状態
バイアス回路の抵抗は交換されています。
しかし、オリジナルとは程遠い抵抗値に変更されていて、バイアス電圧をスペックよりも深くしてあります。
適正値 -34V ~ -37V のところ、実際は-43V と深すぎる値にしてありました。
バイアス電圧の整流回路

フィルターキャップも交換され、抵抗も過去に交換されていました。
交換時にハンダの熱を加えすぎたらしく、端子がグラグラしており、機能に不安があります。
フィルターキャップ
交換されていない抵抗は、すべて劣化しています。
抵抗値が大きくなり、オフスペック状態です。
( スペックでは抵抗値の誤差は+10% までが許容範囲)

このことが音圧の足らないことの原因のひとつです。

220KΩ抵抗は 250KΩと 13% も大きい
220KΩ抵抗
100KΩは 121.9KΩで+ 21.9%と大幅に大きい値なっています。100KΩは高電圧に繋がっているため、劣化のスピードは速く、抵抗値の誤差はとても大きくなっています。
100KΩ抵抗

1500Ω抵抗は+11.6%です。 3V ほどの低電圧に繋がっているにも関わらず+11.6%とオフスペックになっています。使用されている全ての抵抗の寿命が来ていることの証です。

オーバーホール作業ではコンデンサーの交換だけでは不十分で、抵抗も交換する必要があるのです。
1500Ω抵抗

【1】ハンドル交換

アンプのハンドルが真ん中で切れかかっています。
ひび割れたハンドル
Fender アンプ用のスペアを使用して交換しました。
交換後
【2】電源コード交換と取り付けの安全性向上

金属シャーシーの穴とコードの被膜との間になんの緩衝剤もなく取り付けられています。
これは安全上問題があります。

コンセントの端子は過去に交換されています。ところがグラウンド付きの 3芯であるべきところ 2芯に改造されています。安全上問題があるのと、ノイズが多くなります。
問題のある電源コード
安全性の高い電源コードに交換。
電源コード用のリテイナーを使い、コードの被膜が直接シャーシー金属の穴に触れないように取り付けました。
電源コード交換後

【3】フィルターキャップの交換

 CE Manufacturing 製のアルミ電解コンデンサーに交換されていました。交換時にハンダの熱を加えすぎたらしく、端子がグラグラしているため交換します。
過去に交換されたフィルターキャップ
 過去に交換されたものは耐圧 475V。それよりも耐圧が高い 525V 耐圧のコンデンサーを使い耐久性を向上しておきます。
交換した新しいフィルターキャップ

フィルターキャップの配線
配線材の耐圧も 1000V に高め、デカップリング抵抗も高性能のものに交換し、耐久性を向上
ベルデン 1000V 耐圧の配線材と高信頼型の抵抗に交換

【4】バイアス回路のオーバーホール

バイアスは固定抵抗の値でバイアスの深さが決まります。
深すぎる改造があったので、オーバーホールと同時に是正します。

バイアス回路

オーバーホールと同時に正規の値に戻してあります。
オーバーホールと同時に正規のバイアス値に戻しました

【5】フェーズインバーターとトレモロ
フェーズインバーターとトレモロ回路
抵抗とコンデンサーをオーバーホールしました。
トレモロのスピードを遅くするときの速度を従来よりも遅くして、使い勝手の向上をしておきます。
コンデンサーと抵抗をオーバーホール

【6】プリアンプのオーバーホール
プリアンプ回路
Bass のコントロールにつながるコンデンサー .1 μF は劣化の状態が最も少なく、唯一残しました。
それ以外のコンデンサーと抵抗はオーバーホールしました。
プリアンプのオーバーホール後

【5】グラウンド母線の敷設とシールド・ケーブルによるノイズ低減対策

当アンプは試奏の段階でハムノイズが大きく出ていました。

グラウンドの強化とハムノイズに弱い配線のシールドを行いました。
対策前
下の写真の上部に見える銅の平棒がグラウンド母線
V1 真空管のソケットに繋がる赤色のシールドケーブルがノイズに弱い配線です。
対策後

【6】パイロット・ランプ機構の交換
パイロットランプが点いたり点かなかったりします。
パイロットランプ部品
パイロットランプを点灯するための部品が錆びて接触不良を起こしています。
ハ゜イロットランプ構成部品を分解、錆びてボロボロ

右側が新しいパイロットランプ機構部品
新しく交換しました。
交換済


【7】真空管リテイナーの取り付け

当アンプの GT 管のソケットにはリテイナーが付いておらず、通電中に真空管がソケットから抜けおちる危険性があります。

整流管とパワー管のソケット

ソケットの端子のクリーニングを行い、真空管端子とソケットとの接触を良好にした上で、
板バネ式のリテイナーを取り付けました。
板バネ式のリテイナーを装着

真空管のベース部分の黒いプラスチック部分を挟み込み、真空管が容易に抜け落ちないようにします。
真空管のベースをしっかりと保持

【8】バイアス電流の確認

当アンプのバイアス方式は Fixed Bias です。
バイアス値はデラリバのようにポットで決定するのではなく、固定抵抗により決定されます。
作業【4】バイアス回路のオーバーホールでこの固定抵抗の値を正規の値に戻してあります。
実際にバイアス電流を計測し、目で見て、バイアス電圧が設計通り正しく出ているかを確認しました。

バイアス電流値の確認

【9】サウンド・テスト

シャーシーをキャビネットに仮留めしてテストを行いました。

音圧が小さいという問題は解決しました。
Sound Test

いつもの Fender の音よりわずかに 中・低域の伸びが少ない感じがします。
Mesa Boogie のスピーカーと音質を比較してみました。
外部スピーカーの音と内臓スピーカーの音を比較

このアンプに付いている Warehouse というスピーカーの耐圧はなんと 75W もあります。
プリンストンの出力は 15W ほどなのでスピーカー耐圧はおおきくても 35W ぐらいまでにとどめる必要があります。

75W と耐圧が大きくなるとコーン紙の厚みも耐久性のあるものに変わり、コーンの動きも必然的に鈍くなり、音圧や感度の観点ではマイナスとなります。このスピーカーはツインリバーブ に付けると丁度良い耐圧のものです。(参考: ツインリバーブはスピーカー2個使いで 100W 出力。スピーカー1個当たりの耐圧は 50W 以上となります)

そうはいってもスピーカー交換はお客様がご自分でなされたことで、当方が勝手に変えるわけにはいきません。
現在のスピーカーとスピーカーケーブル Belden 9497

ふと気づくと、このアンプのスピーカーケーブルは Belden 9497 が付いています。
過去に行った実験によると 9497 は「中低域が締まる」傾向が出ます。これは低域が出すぎるスピーカーに使うと「締まって良くなる」のです。しかし、いまいち音圧が上がらないスピーカーに使うと、中低域が薄くなってしまうという短所でもあります。

そこで WE 復刻版ケーブルと 9497 を交互につないで音質の差を聞き分けてみました。
やはりWE 復刻版の中低域の暖かさに軍配が上がりました。
ベルデンと WE 復刻版で音を比較

WE 復刻版のケーブルに変更しました。
WE 復刻版に交換

完成し、東京へ返送しました。
完成

【お知らせ】
当オーバーホールをもちまして、「お客さまのアンプをお預かりする」形態の修理や MOD は一旦終了させていただきます。

以後しばらくの間、
・ギャンプスのオリジナルアンプの設計・製作・販売と、
・ヴィンテージ・ギター・アンプ中古販売に、
絞らせていただきます。









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