「音圧が小さい、チャンプと変わらない」という症状で当方に来ました。
東京の F さま所有のアンプ。
先の Super Champ を仕上げた後、こちらの作業をしました。
来年作業予定だったオーバーホールのご予約は、当方の体調管理のため全てキャンセルさせていただきました。
当アンプは今年度の最後のアンプです。
Princeton '64 Front View |
Princeton '64 Rear view |
回路は下の写真のとおり。
過去にアルミ電解コンデンサーだけが交換され、抵抗やフィルムコンデンサーは手つかずのまま。
回路の状態 |
しかし、オリジナルとは程遠い抵抗値に変更されていて、バイアス電圧をスペックよりも深くしてあります。
適正値 -34V ~ -37V のところ、実際は-43V と深すぎる値にしてありました。
バイアス電圧の整流回路 |
フィルターキャップも交換され、抵抗も過去に交換されていました。
交換時にハンダの熱を加えすぎたらしく、端子がグラグラしており、機能に不安があります。
フィルターキャップ |
抵抗値が大きくなり、オフスペック状態です。
( スペックでは抵抗値の誤差は+10% までが許容範囲)
このことが音圧の足らないことの原因のひとつです。
220KΩ抵抗は 250KΩと 13% も大きい
220KΩ抵抗 |
100KΩ抵抗 |
1500Ω抵抗は+11.6%です。 3V ほどの低電圧に繋がっているにも関わらず+11.6%とオフスペックになっています。使用されている全ての抵抗の寿命が来ていることの証です。
オーバーホール作業ではコンデンサーの交換だけでは不十分で、抵抗も交換する必要があるのです。
1500Ω抵抗 |
【1】ハンドル交換
アンプのハンドルが真ん中で切れかかっています。
ひび割れたハンドル |
交換後 |
金属シャーシーの穴とコードの被膜との間になんの緩衝剤もなく取り付けられています。
これは安全上問題があります。
コンセントの端子は過去に交換されています。ところがグラウンド付きの 3芯であるべきところ 2芯に改造されています。安全上問題があるのと、ノイズが多くなります。
問題のある電源コード |
電源コード用のリテイナーを使い、コードの被膜が直接シャーシー金属の穴に触れないように取り付けました。
電源コード交換後 |
【3】フィルターキャップの交換
CE Manufacturing 製のアルミ電解コンデンサーに交換されていました。交換時にハンダの熱を加えすぎたらしく、端子がグラグラしているため交換します。
過去に交換されたフィルターキャップ |
交換した新しいフィルターキャップ |
フィルターキャップの配線 |
ベルデン 1000V 耐圧の配線材と高信頼型の抵抗に交換 |
【4】バイアス回路のオーバーホール
バイアスは固定抵抗の値でバイアスの深さが決まります。
深すぎる改造があったので、オーバーホールと同時に是正します。
バイアス回路 |
オーバーホールと同時に正規の値に戻してあります。
オーバーホールと同時に正規のバイアス値に戻しました |
【5】フェーズインバーターとトレモロ
フェーズインバーターとトレモロ回路 |
トレモロのスピードを遅くするときの速度を従来よりも遅くして、使い勝手の向上をしておきます。
コンデンサーと抵抗をオーバーホール |
【6】プリアンプのオーバーホール
プリアンプ回路 |
それ以外のコンデンサーと抵抗はオーバーホールしました。
プリアンプのオーバーホール後 |
【5】グラウンド母線の敷設とシールド・ケーブルによるノイズ低減対策
当アンプは試奏の段階でハムノイズが大きく出ていました。
グラウンドの強化とハムノイズに弱い配線のシールドを行いました。
対策前 |
V1 真空管のソケットに繋がる赤色のシールドケーブルがノイズに弱い配線です。
対策後 |
【6】パイロット・ランプ機構の交換
パイロットランプが点いたり点かなかったりします。
パイロットランプ部品 |
ハ゜イロットランプ構成部品を分解、錆びてボロボロ |
右側が新しいパイロットランプ機構部品 |
交換済 |
【7】真空管リテイナーの取り付け
当アンプの GT 管のソケットにはリテイナーが付いておらず、通電中に真空管がソケットから抜けおちる危険性があります。
整流管とパワー管のソケット |
ソケットの端子のクリーニングを行い、真空管端子とソケットとの接触を良好にした上で、
板バネ式のリテイナーを取り付けました。
板バネ式のリテイナーを装着 |
真空管のベース部分の黒いプラスチック部分を挟み込み、真空管が容易に抜け落ちないようにします。
真空管のベースをしっかりと保持 |
【8】バイアス電流の確認
当アンプのバイアス方式は Fixed Bias です。
バイアス値はデラリバのようにポットで決定するのではなく、固定抵抗により決定されます。
作業【4】バイアス回路のオーバーホールでこの固定抵抗の値を正規の値に戻してあります。
実際にバイアス電流を計測し、目で見て、バイアス電圧が設計通り正しく出ているかを確認しました。
バイアス電流値の確認 |
【9】サウンド・テスト
シャーシーをキャビネットに仮留めしてテストを行いました。
音圧が小さいという問題は解決しました。
Sound Test |
いつもの Fender の音よりわずかに 中・低域の伸びが少ない感じがします。
Mesa Boogie のスピーカーと音質を比較してみました。
外部スピーカーの音と内臓スピーカーの音を比較 |
このアンプに付いている Warehouse というスピーカーの耐圧はなんと 75W もあります。
プリンストンの出力は 15W ほどなのでスピーカー耐圧はおおきくても 35W ぐらいまでにとどめる必要があります。
75W と耐圧が大きくなるとコーン紙の厚みも耐久性のあるものに変わり、コーンの動きも必然的に鈍くなり、音圧や感度の観点ではマイナスとなります。このスピーカーはツインリバーブ に付けると丁度良い耐圧のものです。(参考: ツインリバーブはスピーカー2個使いで 100W 出力。スピーカー1個当たりの耐圧は 50W 以上となります)
そうはいってもスピーカー交換はお客様がご自分でなされたことで、当方が勝手に変えるわけにはいきません。
現在のスピーカーとスピーカーケーブル Belden 9497 |
ふと気づくと、このアンプのスピーカーケーブルは Belden 9497 が付いています。
過去に行った実験によると 9497 は「中低域が締まる」傾向が出ます。これは低域が出すぎるスピーカーに使うと「締まって良くなる」のです。しかし、いまいち音圧が上がらないスピーカーに使うと、中低域が薄くなってしまうという短所でもあります。
そこで WE 復刻版ケーブルと 9497 を交互につないで音質の差を聞き分けてみました。
やはりWE 復刻版の中低域の暖かさに軍配が上がりました。
ベルデンと WE 復刻版で音を比較 |
WE 復刻版のケーブルに変更しました。
WE 復刻版に交換 |
完成し、東京へ返送しました。
完成 |
【お知らせ】
当オーバーホールをもちまして、「お客さまのアンプをお預かりする」形態の修理や MOD は一旦終了させていただきます。
以後しばらくの間、
・ギャンプスのオリジナルアンプの設計・製作・販売と、
・ヴィンテージ・ギター・アンプ中古販売に、
絞らせていただきます。
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