Fender Vibrolux Reverb の修理
注) これは過去にギャンプスでオーバーホールを実施したことのある
アンプの再修理です。
過去にギャンプスでオーバーホールしていないアンプは、
壊れた所を治しても、次から次へと雪崩のように壊れる。
このアンプはオーバーホール済である。
もしも、6年間の保管状態がよければ故障個所の修理のみで済み、
時間もかからず大々的な作業も不要であろう。
「Vibrato チャンネルにガサゴソノイズが出るのを治してほしい」
と書かれている依頼メールの内容から、
長くかかっても一週間もあれば十分と考え、引受けた。
2021年の12月25日にアンプが到着した。
受け入れ検査結果
アンプが到着しまず目に入ったのは、、、写真
アンプハンドルの金具の酷いサビ |
尋常ではないサビだ !!!
ファイル保存している当アンプの6年前のカルテの写真を見る。
酷いサビなんぞ無いぞ、ヴィンテージアンプ特有の軽いサビだけだ。
当然 6年前は割れていない。
サビの写真が物語るのは温湿度の変化の激しい環境に置かれていた事実だけである。
恐らくバッフルボードが関係しているであろうと推測し、
スピーカーを外してからバッフルボードを見ると、
見事にバッフルボードもボロボロである。
チップボードで出来ているバッフルボードは水を吸収しやすい。
水分を吸収すると膨れあがり体積が膨張し、その圧力に耐えかねて
キャビネットが裂けたという推理が成り立つ。
バッフルボードの前面に取り付けられているグリルクロスの枠も
チップボードで出来ている。水による膨張で見事に3ヶ所折れていた。
まず、とにかく酷い悪臭・カビ臭がする。
防毒マスクが無いと気分が悪くなる。
回路ボードを目視すると尋常ではないカビの群れ、
布巻線にも大量のカビが密生している。
このカビは発癌物質である。と同時に、
最近のTV情報によると、吸い込むと急性肺炎を引き起こすそうだ。
ユーザーが治してほしいと思っているのはガサゴソノイズだ。このキャビネットの損壊と無関係と思いたい、キャビネットは放置したいという誘惑にかられる。しかし、キャビネットの割れを放置し回路だけを治した場合、キャビネットの割れ目がスピーカーの振動を拾い、そのビリ付きがシャーシーを震わせ、回路にノイズが出てしまう。
スピーカーはオリジナルではなく倍以上重いスピーカーだ。これは6年以上前にユーザーさんが交換している。このスピーカーを載せ続けてもバッフルボードが持つようにしないと修理しないといつかはバッフルボードが完全に割れてしまい、アンプとして機能しなくなるという心配がある。
キャビネットの裂け目と回路のカビの多さをお客さまにメールで報告したところ、返信メールが来た、、、
・カビについては心当たりがある。
・2年前の豪雨で隣の部屋が被災したため水に濡れた・東日本大震災のときもこのアンプは被災している
(その後、当ギャンプスでオーバーホールしている)
・こんな状態でも引き受けてくれてうれしい
回路の修理を終え、アンプをキャビネットに組み込んでテストした。
テスト結果
修理不能として送り返すのか、言われていないキャビネット周りは放置して、修理続行するのか、しばらく悩んだ……
結果、キャビネット・バッフルボードの修復と回路修理の全てを修理することに決めた。
キャビネットと回路の両方に問題がある場合、まずキャビネットの問題から解決しその後で回路の問題解決にあたる。理由は、アンプ回路の問題を解決するにあたり、回路のテストは本来のキャビネットに搭載し、音出しして確認する必要がある。キャビネット修理よりも先に、もしくはキャビネットとは関係なくアンプ回路をやっつけるとこのテスト(キャビネットとの複テスト)ができない。手持ちのスピーカーキャビネットで音出しは可能ではあるものの、アンプが本来搭載されるべきキャビネットでの音の確認ができないのは問題の見過ごしにつながる。何よりもコンボギターアンプは音の出口であるキャビネットと一体となってはじめて個性が発揮されるアンプである。
キャビネットの問題解決をしている間に年越ししてしまった。
大掃除もできず、このアンプにかかりきりで2021年は暮れた。
回路の修理
このアンプの音には問題が2つある。
① Normal チャンネルのボリュームポットに酷いガリで出る
② Vibrato チャンネルでガサゴソというノイズが出る
パワーアンプに問題は無いのは受け入れ検査で検証した。
各チャンネルのプリアンプ内の問題を解決していく。
各チャンネル毎の修理に入る前に以下の3つの作業を行った
a) 回路上のカビ取り消毒
コロナにかかってもいないのに肺炎になるのはゴメンだから
b) ポットツマミと Face Plate のクリーニングと消毒
手で触れる部分。健康被害を起こすゴミとカビを取り除く
c) 真空管ソケット端子のクリーニング
ソケット端子に入り込んだカビによる接触不良を根絶する
① Normal チャンネルの修理
受け入れ時の試奏で Normal チャンネルの Volume ポットを回すと酷いガリッというノイズが出ている。このノイズはポット不良が原因のガリとは異質のガリ音である。カップリング・コンデンサーが劣化し DCリーク不良 を起こしているときのガリ音。湿度と温度のストレスで消耗した Treble と Middle のコンデンサーを交換した。水分を吸収し内部クラッキングを起こしそうなカーボンコンポジット抵抗 2本も同時交換した。
作業をしていくうちに、 Bass ポットの軸が動かなくなった。Bass にガリは出なかったものの、水に浸かったことで内部構造が劣化していたらしい。今回の作業で何度か回しているうちに変形して回らなくなった。
よって Volume ではなく、Bass ポットを交換した。
水害によるダメージから回復させるために、Normal チャンネル全てのハンダジョイントを再度ハンダ付けし直した。
以下の配線経路にある全てのハンダジョイント(ハンダ付けしてある箇所)の再ハンダを行った。
真空管ソケット<-->抵抗・コンデンサ部品<-->全てのポット
この過程で、湿気・カビにより被膜の絶縁劣化している配線材7本を交換した。
Normal チャンネルの修理 |
② Vibrato チャンネルの修理
受け入れ検査の試奏で、Vibrato チャンネルの Volume を上げていくと「ガサガサ・ゴソゴソ」というノイズが顕著であった。( 添付 Youtube 動画 )これはカーボン・コンポジットの劣化やバイパス・コンデンサーの劣化に起因することが多い。6年前のオーバーホール以降あきらかに劣化しているカーボンコンポジット抵抗3本とバイパスコンデンサー 1本を交換した。Treble と Middle のコンデンサーは予防のために交換した。
Normal チャンネルと同様に Vibrato チャンネルの全てのハンダジョイントを再度ハンダ付けし直した。
配線経路にある全てのハンダジョイント(ハンダ付けしてある箇所)の再ハンダを行った。
真空管ソケット<-->抵抗・コンデンサ部品<-->全てのポット
この過程で、湿気・カビにより被膜の絶縁劣化している配線材3本を交換した。
Vibrato チャンネル修理とMOD の追加 |
③ Normal チャンネルでもリバーブが使えるようにする MOD
Normal チャンネルにもリバーブを効かせてほしいという要望がある。
その MOD のために 抵抗 x1 とコンデンサー x1 を交換した。
Normal チャンネルでもリバーブを使えるようにする MOD は
当ギャンプスでは Tweed Mixer 方式を採用している。
MODを入れる場所は Vibrato チャンネルの2段目の増幅段。
注: Tweed Mixer とは
出典:Kevin O'connor 著 The Ultimate Tone
Preamp 内での信号の Mixing 方式の名称の一種
参考文献 The Ultimate Tone の表紙 |
テスト中 |
テスト結果
① Normal チャンネルのVolume ポットのガリは無くなった
①' Normal チャンネルでもリバーブが使えた
② Vibrato チャンネルで出ていたガサゴソノイズは消え
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