1年前にご予約賜りました。
昨年、中古で入手なさり、音は出るものの、
音圧が少し足らないとのことです。ご要望は、
・太い音に戻してほしい
・過去に回路が修理されているが正しく直されているのか不安
・安心して長く使いたい
受け入れ検査で見つかった不具合のいくつかをご紹介しましょう。
【受け入れ検査】
Super Reverb Blackface 受け入れ時 |
Circuit Before restoring レストア前の回路 |
ヴィブラート(トレモロ)回路は過去に修理されているものの、
オプトカプラー(発振信号を光の点滅に変換した後、抵抗値の変化として取り出す) は Fender アンプ用に再生産されたものとは異なるものが付けられています。
Vibrato Circuit Modified 過去に修理されたヴィブラート回路 |
セラミックコンデンサーのハンダ付けが不十分で端子が浮いてしまっています。
Poor soldering ハンダ不十分で浮いた端子 |
ノイズレベルが高かったのかシャーシーグラウンドの補強のために配線材が使われています。しかし、これでは不十分で役に立ちません。
またフィルターキャップのオーバーホールをさぼって、対処療法として後付けでアルミ電解コンデンサーが回路側に付けられています。フィルターキャップのオーバーホールをきちんとすれば不要です。
Poor reworking グランド配線と後付コンデンサーのまずい処理 |
フィルターキャップとして機能する 5本のアルミ電解コンデンサーのうち 3本が過去に交換されているものの、それらも既に液漏れして寿命がきています。
液漏れしているアルミ電解コンデンサー |
お客さまの不安は見事に的中しました。
過去の修理は対処療法的に問題を回避する修理だけがされており、大元の原因が取り除かれてはいません。ハンダ付けも慎重さに欠ける仕事です。
(作業を進めていくうちにもいくつも不具合がみつかりました)
では作業開始。
【作業1. 電源回路の問題点の修正】
電源回路には以下の安全上の問題とノイズの問題がありました。
a) 電源コード(過去修理)が長すぎてノイズ源となっています。
b) 修理交換されたGround スイッチがパワーチューブ・ソケットの
真上に張り出しソケット配線とショートする危険性があります。
c) 配線材の絶縁が低下し、ショートしやすくなっています。
d) 電源トランスの配線に絶縁テープが巻かれています。
何やら潜在的な問題を隠しています。
e) 修理交換されたスタンバイスイッチのトグルが長すぎます。
(電源スイッチと間違えて操作してしまうとのこと)
電源回路の問題点 |
a) まずは電源コードの配線をやり直しました。
・グラウンドスイッチを取り外し、感電防止をしました。
b) 真空管ソケットのショートも同時に防ぎます。
c) 配線材はベルデンの1000V 耐圧線を使い絶縁性能向上しました。
・なるべくノイズを発生させないレイアウトにしました。下写真
電源コードの配線をやり直したところ |
d) 電源トランス配線に巻かれていた絶縁テープを外してみました。
ヒーターのCT ( センタータップ線 ) は、本来あるべきはずの絶縁被膜が全て焼けてなくなっています。
+B の CT は被膜は残っているものの焼けただれている部分と黒く炭化している部分があります。
絶縁テープを剥いだところ、絶縁被膜が完全に消失していた |
ヒーター CT 線と +B CT 線に絶縁被膜を取り付けました。
絶縁被膜はポリマー樹脂の筒で包んだ後、グラスファイバーの筒を被せて2重構造にし、絶縁性能を確保してあります。
焼けて被膜の取れた配線材に絶縁被膜を取り付け |
ヒーター線(緑色)の絶縁テープを取り去ると、根本で焦げているのが見つかりました。
根本で焦げているヒーター線 |
ヒーター線も2重被膜の絶縁を根本の部分を中心に施しました。
ヒーター線の絶縁被膜補強 |
もしかして、「このアンプの定格よりも大きなヒューズがいれられているかもしれない」という考えが頭をよぎりました。ヒューズを調べてみると、案の定、本来 2A のところに3A のヒューズがいれられていました。
過去に交換されているヒューズ |
正規の定格の 2A Slow Blow に戻しました。
左: つけられていたヒューズ / 右:本来の仕様のヒューズ |
2A slowblow を取り付け |
スタンバイスイッチを正規の Carling のスイッチに交換しました。
スタンバイスイッチを Carling 製に交換 |
トグル部分が電源スイッチと同じ高さになった |
下が作業1.の作業後の写真です。
電源回路の改善 |
【作業2. グラウンド母線の敷設によるノイズ低減】
以前の修理時に配線材を使いシャーシー・グラウンドが補強されています。
シャーシー・グラウンドとは、あちらこちらの回路のマイナス(グラウンド) を各々の回路の近くのシャーシー金属に直にハンダ付けすることを言います。
シャーシーはひとつの鉄の塊であるため、シャーシーのどこでもゼロ・ボルトであるとみなすことが出来るという概念です。しかし、理論通りにいかないのが世の常。
ある回路のグラウンドと、そこから離れた場所の異なる回路のグラウンドの間に電位差が生まれることがあります。つまり理論的に 0V であるはずの 2点のA点では0V であるもののB点では0.2V であるというようなことが起きるのです。
その原因はシャーシーグラウンドのハンダ付の劣化や腐食です。つまり完全に導通していると思い込んでいる回路のマイナスとシャーシーグラウンドの接合部分に抵抗値が生じてしまい、その抵抗の分電位が上がってしまいます。特に電流を多く流す回路のグラウンドの電位が上がりやすくなります。
その弊害は、ノイズです。 60HZ や 120HZ のハムノイズ( ワンワンワンワンという周期音)が大きくなってきたり、発振と同じように不快な音がギター音に混ざってきたりします。
対策としてはシャーシーのハンダ付のやり直しをするか、シャーシーの各所に散らばっているグラウンドポイントの間を新しい配線で繋いで補強してやることです。
このアンプは下の写真のように茶色いビニール被膜の配線を使いグラウンドの補強をしようとしています。残念ながらビニルの配線材を使うと、新たな問題が起きます。
被膜付きの配線材でシャーシーグラウンドを補強すると、グラウンドループという新たな問題が出ます。グラウンドのA点とB点の間にはシャーシー本体で繋がれている回路と被膜付きの配線材で繋がれる回路の2本の回路が平衡して走ることになり、この2つの回路の中で電流がぐるぐると回ることをいいます。
A 点 から配線材を伝ってB点に行き、B点からシャーシーを伝ってA点に行くというループです。
このループ(輪っか) によってノイズが大きくなってしまうのです。
ビニール被膜の配線材を使ったグラウンドの補強 |
グラウンドループを作らずにグラウンドを補強する最適な方法は、グラウンド母線という考えです。被膜の付いていない裸の導体をシャーシーにしっかりと密着させて配線します。そうすることで、電流が迷走するループを作らず、弱くなったシャーシーグラウンドの補強もできます。
まずはグラウンド母線を敷設する場所のシャーシーの汚れをクリーニングします。
シャーシーのクレーニング、埃取り |
頑固にこびりついた埃はスクレーパーを使い削りとります。
スクレーパーを使いこびりついた汚れを削り取る |
グラウンド母線を密着させる部分のクリーニングが完了。
シャーシーのクリーニング完了 |
そこへ、厚さ 2nn 幅10mm の銅の平棒をグラウンド母線として敷設します。
グラウンド母線と回路との接続は、歯付ワッシャーへのハンダ付けで行います。
グラウンド母線の敷設 |
【作業3. プリ真空管ソケットに付着した接点復活材の除去】
このアンプもご多聞に漏れず接点復活材が噴射されています。特に真空管ソケットには多量に噴射されており、端子間の絶縁性能が低下しています。絶縁低下すると、ギター信号が削られて音が小さくなったり、漏電して配線を焼損したりします。
確証はないものの、作業1. で見つけた電源トランス配線のヒーター配線の焼けの原因はこの接点復活材の悪影響かもしれません。
接点復活材で汚れた真空管ソケット |
接点復活材が埃を吸い込み、こべりついています。この汚れを取るために歯ブラシにアルコールを付けてこすりとります。
アルコールを付けた歯ブラシでこする |
歯ブラシで浮かせた汚れを綿棒できれいに取り去ります。
歯ブラシで浮かせた汚れを綿棒でふき取る |
下の写真のようにきれいになりました。
きれいになった真空管ソケット |
真空管ソケットの表側もクリーニングします。
真空管ソケットの表側のクリーニング |
絶縁部のクリーニングの後で端子そのもののクリーニングをします。
ここは真空管の端子がささる部分です。ここに埃があると接触不良となるため、綿棒の糸くずが残らないように慎重に作業します。
端子部分のクリーニング |
プリ管用のソケット 6本すべてに同じ作業を行いました。
真空管ソケットの表側のクリーニング完了 |
【作業4. パワー真空管ソケットの交換】
パワーチューブ用のソケットはコネクターが緩くなっています。加えて絶縁部の絶縁性能も低下しています。クリーニングでは対処できません。新品と交換しました。新しいソケットの絶縁部は白いセラミック製を使いました。絶縁性能は抜群です。
パワーチューブ用のソケット |
新しいパワーチューブソケット |
安心して長くお使いいただくには作業1.~4.までは手間がかかっても省くことはできません。
ようやくアンプの回路の作業です。
【作業5.フィルターキャップのオーバーホール】
液漏れしていたため、フィルターキャップは5本とも交換します。
デカップリング抵抗x2本も交換します。
フィルターキャップは高い電圧がかかるため、絶縁被膜が汚れている配線材も9本すべて交換します。
フィルターキャップ、抵抗、配線材 |
アルミ電解コンデンサーは Sprague ATOM と JJ の組み合わせ。
デカップリング抵抗は Ohmite のセラミック・コンポジション抵抗。
配線材はベルデン製1000V 耐圧線。
フィルターキャップのオーバーホール済 |
【作業6. バイアス電源回路のオーバーホール】
マイナスのバイアス電圧を作り出す回路は 1W 抵抗と Diode とアルミ電解コンデンサーで構成されています。オリジナルのアルミ電解コンデンサーはとっくに寿命が過ぎています。抵抗は経年劣化により抵抗値が大きくなっています。
このアンプのようにバイアス回路が放置されたままのヴィンテージアンプが世の中にはまだまだあるようです。放置すると、パワーチューブのバイアス電圧が不安定となり、何度もバイアス調整しないと音質が落ちつかなかったり、真空管の寿命が通常よりも短くなったりします。
3個の部品とも新しくしました。
バイアス電源回路、オーバーホール前 |
バイアス電源回路オーバーホール後 |
【作業7. メインの回路のオーバーホール】
メインの回路ボードの状態は悪く以下の状態です。
・過去の修理で部品・配線共に廉価なものが使われている
・修理痕跡が汚い
・配線が汚れて絶縁被膜が劣化している
配線材は全て交換が必要です。
回路ボードをアンプから外し、ボード上の全ての部品を取り外し、ボードをきれいにした上で新しい部品と配線材を作りこんでいくことにしました。
メイン回路 |
回路ボードをシャーシーから取り外したところ
Dismounted Circuit BD |
電気部品と配線すべてを回路ボードから取り外したところ。回路ボードは汚れています。
Removed parts and wires |
回路ボードをきれいにクリーニングしました
Cleaned the board |
新しい部品と配線を回路ボードにハンダ付けしている最中
Mounting parts and wires |
全ての部品と配線材を回路ボードに取り付け、ボードをシャーシーに取り付けたところ
Circuit board mounted on chassis |
【作業8. インプット・ジャック】
インプットジャックの絶縁部には接点復活材がしみ込んでいます。
インプットジャックにはチャンネル当たり 3個の抵抗が付いています。
Input jacks |
経年変化によりカーボン・コンポジット抵抗の抵抗値も高くなっています。
resistor's resistance measurement |
接点復活材のしみ込んだジャックに新しい抵抗を付けるだけでは正しく機能しません。
新しいスイッチクラフトのジャック 4個を使い、インプットジャックを組みなおす必要がありました。
Replaced with new Jacks, all are switch craft. |
このアンプには2つの MOD を入れています。
1 ) Both Channel Reverb
Normal と Vibrato の両チャンネルにリバーブとトレモロが効くようにする MOD です。
この MOD は2つのチャンネルの信号がトーンスタックに送られ、戻ってきたときの増幅段で Tweed Mixer と呼ぶ回路を構成して信号をミックスし、Vibrato チャンネルのリバーブ・ドライバーに乗せます。そのため、Vibrato チャンネルの音も、Normal チャンネルの音も相手方の増幅段に信号を吸い取られることがありません。
つまり、よく巷で行われている、 Normal チャンネルの V1 真空管を抜いて Vibrato チャンネルのゲインを良くするという改善が盛り込まれた形になっています。
もうひとつの MOD は
2 ) Tremolo disconnect MOD
'64 Vibroverb Custom で採用されている MOD です。
Vibrato の Intensity ポットは常にギター信号を少しだけ削っています。そこで Vibrato を作動させていないときだけ、 Intensity ポットを回路から外し、音が削られるのを防ぎゲインを稼ぐという MOD です。
Intensity ポットにスイッチ付きポットを使います。
トレモロを使うときは Intensity を 1以上にします。
するとスイッチがオンとなりIntensityポットが効きます。
トレモロを使わないときは Intensity を 1以下にしておきます。
スイッチが切れて Intensity ポットは回路から切り離されゲインを削りません。
トレモロのオン・オフそのものは通常どおり、フットスイッチで行います。
ある曲の途中でトレモロを使う場合、Intensity はその曲調に合わせた値にセットしておいて、フットスイッチで・オン・オフします。
トレモロを使わない曲のときは Intensity を 1以下にしておいて、ゲインを稼ぐという仕組みです。
お客さまはギターとシールドだけで演奏されます。アンプ側のゲインと倍音が豊であるほどギターのボリューム・トーンの操作とピッキングの強弱だけで多彩な音色を作ることが可能となります。
それがこの MOD の追加を希望なさった理由です。
Tremolo disconnect MOD using switch pot at intensity |
(オーバーホール同時適用限定の理由)
きちんとオーバーホールしたアンプに適用して初めて MOD の効果が表れます。当方でオーバーホールをしていないアンプへの MOD 単体での適用は効果が見込めないというのが理由です。
(無料提供の理由)
これらの MOD を入れたからといって作業量は極端に増えません。オーバーホールの一連の作業の中で抵抗やポットの種類を変えるだけで済みます。ギャンプスのオーバーホール料金は手間賃としていただいています。手間が増えず、部品代金もそんなに変わらないのであれば無料提供すべきという考えです。
【10. バイアス調整とテスト試奏】
バイアス調整を行った後、初試奏しました。
ほぼ全ての回路動作は安定し、 Super Reverb の音色 にプラスして、以前より少しハイゲインとなり元気のある音になりました。
Bias adjust and sound test |
Vibrato チャンネルの Volume ポットはクリーニングしてもとれないガリが出ていました。新しい CTS ポットに交換しました。
Volume pot replaced |
Vibrato ( トレモロ ) の揺れが少し元気がありません。 V5 の 12AX7 が劣化していたため、新しい12AX7 に交換しました。
V4-12AX7 replaced |
【11. 最終テスト】
不具合が全てなくなり、最終テスト、試奏を行いました。
Fender のアンプの中でもアンプダイレクトつなぎで多彩な音が出るアンプとして人気の高い Super Reverb らしい太いサウンドが蘇りました。
お客さまも大変お喜びになりました。
作業開始まで一年間もの間お待ちいただて申し訳ありませんでした。
Overhauling completed |
【お客様のご感想】
お客さまのご感想と動画はこちら
0 件のコメント:
コメントを投稿